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戦国ロリポップ  作者: カノン
第壱章 不思議な二匹
7/11

第陸話 シロくん…いえ、雪崎先生です。

「あ、えと…僕の名前“雪崎(ゆきさき) 千志郎(せんしろう)”と言うんです。なので…千代ちゃんには“千ちゃん”と…」


恥ずかしげに頭を掻く千志郎に、千代が付け足すように言う。


「私も千代って“千”の字が入ってるので、紛らわしいかなって私が千ちゃんと呼んだのが始まりなんです」


「いや、僕は反対したんだけど…ね」


諦めたように笑う千志郎に、政宗と小十郎は何かを察し、同情するかのような視線を向けた。


「ところで…千ちゃんは此処で何してたんですか?」


「ああ、配達だよ。最近よくお店に来ていたお婆ちゃんが腰を痛めたって聞いたからね、頼まれてた商品を届けに来てたんだ。

丁度今渡し終わったところだけど…千代ちゃんはこれから何処かに行くの?」


「俺たちはこれから“ガッコウ”なる所に行くところだ」


千志郎の問いに政宗が答える。

その表情は覚えたての言葉を使えて、満足気な子供のようだった。

だが千志郎はその答えに、一つの答えを導き出したのか顔を歪める。


「もしかして…また、誠志郎が?」


「あ…い、いえ…えと、その…」


焦ったように千志郎から視線を逸らす千代に、千志郎はそれが答えだとばかりに溜め息を吐いた。

しかし訳が分からない政宗と小十郎は首を傾げるしかない。


「分かった。学校まで乗せてくよ」


「え?で、でも千ちゃん忙しいんじゃないの?ほ、ほら!仕事はちゃんとやらなきゃ…」


「いいや。僕も学校に行く。そして…説教する」


「あ、あはは……はぁ」


何かに闘志を燃やす千志郎と、またこれだ。と言わんばかりの溜め息を吐く千代に、政宗がトンッとその腕を叩いた。


「学校に…顔馴染みの者がいるのか?」


「え?…まあ、顔馴染みというか…小さい頃から知ってるというか…です」


「「???」」


益々訳が分からなくなった政宗と小十郎は、運転席でスタンバる千志郎に気づいた千代と共に車へと乗り込んだのだった。

静かに走り出した車は、数分とかからずに学校へと到着した。



 * *  * *



「…失礼します」


正門前の駐車場に車を止め、すぐ側の正面玄関から千代達は校内へと入る。

外は雪に覆われ真っ白で、学校全体がしんと静まり返っていた。


「随分と静かだな」


千代に頼み床に降り立った政宗が、辺りを見回しながら千代に訪ねる。


「人の気配が…まるでしませんね」 


次いで千代の隣を歩いていた小十郎も警戒するように辺りを見回していた。


「今は冬休みですから、生徒は誰もいないと思います。

居るとすれば当番の先生くらいですね。あと…今更ですけど、学校に犬を連れてきて大丈夫かな…どう思います?千ちゃ…って、え?」 


来客用スリッパを取り出しつつ答えた千代は、後ろにいた千志郎がスリッパを履くなり目の前にあった階段を駆け上っていくのを呆然と見送った。

しかし政宗と小十郎がその後に続き階段を上っていくのを見て、慌てて駆け出したのだった。


「ま、待って下さい!」


―──ガラガラッ!


正面玄関からすぐの階段を上り、二階の右端。校長室と書かれた看板が掛かる扉の隣、職員室の扉を音を立てて千志郎は開く。


「んあ?…げっ!千志郎…」


室内は外とは違いストーブのおかげか暖かく、教員たちが使っているデスクが二列並んでいた。

明りのついた部屋の窓際のデスクに腰かける男性教員が一名。その者以外に室内に人はいなかった。

ぼさぼさの黒髪に、黒縁の眼鏡。よれよれの白衣の下にはだらしなくもボタンの掛け間違いが目立つ黒のスーツ。

彼は口元に煙草をくわえ、扉を開け放った千志郎の姿に目を留めると、ポトリと煙草を落とした。


「誠志郎…」


千志郎は慌てて煙草を拾い、灰皿に入れた彼の名“誠志郎”と呟くと、づかづかと誠志郎に近寄った。


「ま、待って…千ちゃん!」


そこへ追い付いた千代が職員室に入る。

しかし既に千志郎は誠志郎の胸ぐらを掴んでおり、一触即発の雰囲気だった。


「誠志郎!また千代ちゃんに雑用を頼もうとしたな!?」


「お、怒るなよ千志郎…。ち…つ、月之瀬だって自分から手伝ってくれるって言って…」


「当たり前だ!千代ちゃんは昔から優しいから、断らない!

それを利用して…いい大人が、しかも教師が生徒をこき使うな!」


「お、落ち着いて!千ちゃんっ!」


二人を引き離すように千代が割って入れば、千志郎は仕方なく誠志郎から手を放した。

それにホッと息を吐く誠志郎は、苦笑いを浮かべる千代に視線を向けた。


「ちぃー…なんで千志郎を連れて来たんだよ」


はぁ…と呆れ顔で言われれば、流石の千代もカチンときた。


「冬休みなのに、先生が呼んだから此処にいるんですけど?」


千代は引きつった笑みを浮かべながら、千志郎を押さえていた手を放そうとする。しかしそれを素早く察した誠志郎は慌てて千代に言う。


「わ、悪かった!許せ、千代!いや、月之瀬さん!」


「もう…」


この通りだ!と手を合わせ、拝むように頭を下げる誠志郎に、千代は大袈裟に溜め息を吐くと千志郎に向き直った。


「千ちゃん、落ち着いて?しろ……雪崎先生は、普段はちゃんとしてるし、生徒からも人気があるし、雑用なんて押し付けないから…ね?」


「うん、分かってます。…というか、普段もこんなだったら…今頃コイツに教師なんてやらせてませんから」


「あはは……。はぁ…」


やっと落ち着いた…と安堵すると当時に呆れたように溜め息を吐く千代。

するとそこへ、今まで静観していた二匹が近寄ってくる。


「お?なんだ?ちぃーがまた拾ったのか?」


誠志郎は二匹に気付くと、政宗の頭を撫でようと手を伸ばした。

しかし寸前、大きな影が間に入ったと思った瞬間──ガブッ…と誠志郎の手を小十郎が噛みついていた。


「痛ったあああー!?」


「か、片倉さん!?」


慌てて千代が小十郎を抱き寄せるも、誠志郎を睨み付けたままだった。


「なんだ!?この犬!ちゃんと躾してるのか!?ちぃー」


「無礼な奴だ…」 


「…!?」


小十郎を睨み付けていた誠志郎の耳に、聞き慣れない青年ボイスが響く。

この展開、さっきもあったな…と遠くを見つめる千代に、千志郎がポンと肩に手を置き、諦めろのサインを送る。


「貴様は何様のつもりで、千代をこき使おうとしている。

更には礼儀も知らず、いきなり(こうべ)を触ろうとするなど…無礼にも程がある」


千代の隣で姿勢正しくも、威厳ある雰囲気を漂わせ座る政宗に、千代に抱かれたまま小十郎が続ける。


「それに我々は千代殿に世話になっている身に過ぎない。

躾…などと獣相手に行うことを、高貴である政宗様に発言するとは……噛み付く程度では足りぬか?」


政宗とはまた違った凄みのある声に、誠志郎はやっと声の主が千代の隣と腕の中にいる犬達だと気づき目を見開き、ガタガタッと音を立て椅子から立ち上がる。


「い、いい犬が喋ったぁ!!?」


(あー…この反応の後、私は倒れたんだなぁ…)


他人事のように千代は乾いた笑い声を上げると、静かに小十郎を下ろした。


「えっと…雪崎先生、この子たちは…」


「すごっ!こんな犬初めて見た!どうなってんだ!?」


「うひょっ!?」


千代が苦笑いを浮かべ、政宗達を紹介しようもした瞬間、誠志郎は頬を上気させ興奮気味に政宗を抱え上げた。

その行動を予測していなかった政宗は、変な声を上げつつ、誠志郎から離れようともがく。

それを見た小十郎が、素早く誠志郎の足に寄り政宗を取り返そうと立ち上がり叫ぶ。


「離せ!無礼者!!」


「はは!無礼者だって!何様?何時代の人だよ?あははっ!」


年甲斐もなく、まるで子供のように瞳を輝かせる誠志郎とは正反対に、政宗は心底嫌そうな表情を浮かべると、キラッと牙を見せた。そして────


「離せ!!」


「ぎゃーー!!?」


ガブリ。…本気の一撃が、誠志郎を襲った。


「自業自得だ。」


止めるでもなく、無表情で千志郎が言う。


「ま、政宗さん…」


「ふんっ…」


やってやったぜ。と自慢気に誠志郎の腕から抜け出した政宗は、ストッと床に降り立つと誠志郎を睨みつけるように見上げた。

そんな政宗を苦笑いを浮かべつつ、千代が抱き上げる。


「…二度と俺に触るな」


「二度も噛まれちまったぜ…で?結局何なんだ?…この犬達」


(それはこっちの台詞だ…)


噛まれてもケロッとし、政宗の言葉すらスルーする誠志郎に、政宗と小十郎は目を丸くした。


「えっと…雪崎先生は、こういう人です」


「それはどんな説明だよ、ちぃー。それに雪崎先生なんて他人行儀だな…いつもみたいに“シロくん”って呼ばねぇの?」


「ここは学校だから、呼ばないだけだよ」


ふんっと頬を膨らませ顔を背ける千代に、誠志郎は政宗に噛まれた部分を抑えながら給湯室の方へ歩いていく。


「ま、いいか。とりあえずそこら辺の椅子に座れよ。珈琲入れてくるから」


「あ。じゃあ、私も何かてつだ…」


誠志郎と共に歩き出そうとした千代の腕を千志郎がガシッと掴み、足元では小十郎がタシッと前足で千代の足を止め、腕の中では政宗が首を横に振っていた。


(完全防御…ですか)


それを肩を竦め、笑みを浮かべながら見た後、誠志郎は給湯室に消えていった。


――――程なくして、三人分の珈琲の入ったカップと平たいお皿にホットミルクを入れ、誠志郎が給湯室から姿を見せた。

千代と千志郎はそれぞれ近くにあった椅子に腰かけており、政宗は千代の膝の上に、小十郎は千代の隣に座っていた。


「お待たせ…っと」


「ありがとうございます、雪崎先生」


「はいはい。…で?」


お皿を小十郎の前に置き、千代と千志郎にカップを手渡すと誠志郎は自身のデスクの椅子に腰かけ、湯気の出る珈琲を一口飲むと千代を見た。


「ん。えっと…何から話せばいいのか……あはは」


同じように一口飲んだ千代は、誠志郎と膝にいる政宗を交互に見ると、困ったように笑った。

そこで政宗が一つ咳払いをすると、千代に代わり静かに語りだした。


「俺の名は伊達政宗。そして訳あってこんな獣の姿になってしまった俺たちが元の姿…人間に戻るための方法を探す手伝いを、千代はしてくれている。

そして先ほど…そこの雪崎千志郎にも事情を話したところだ」


「なるほど。俺にも正体がバレたからにはその『元の姿』に戻る方法とやらを探すのを手伝えと………ちょ、ちょっと待て。…伊達政宗だって!!?」


うんうんと頷きつつ話を聞いていた誠志郎が珈琲を吹きだす。そしてその勢いのまま誠志郎は身を乗り出した。

それに驚き目を見開く政宗や千代に、静かに事の成り行きを見守っていた小十郎が一歩前に出る。


「政宗“様”だ。敬称を忘れるな」


(いや、そこはどうでもいいだろう…)


誠志郎には未だ棘のある…いや、ありすぎる言葉遣いの小十郎に目を向けた誠志郎は、目をしばたたかせる。政宗はというと小十郎の真剣さに思ったことは口にはしなかったが…顔には出していた。


「え、と…君の名前は?」


「はっ、誰が貴様なんぞに…―――」


「片倉小十郎さんだよ」


誰もが千代を凝視する。しかし当の本人は訳が分からずただ口元に笑みを浮かべたまま、頭にクエスチョンマークを浮かべ首を傾げていた。

しかし一人だけ。誠志郎だけは何かを考え込むように顎に手を当て、小さく呟く。


「嘘だろ…。伊達の双璧なんて呼ばれてる“武の伊達成実”と並び称される『智の片倉景綱』。そしてその主君であり、独眼竜なんて呼ばれてる人物と同じ名前って…」


「!? 何故、貴様が成実(しげざね)の名を知っている!」


「おわっと!?」


「政宗様!!」


誠志郎の独り言のような小さい言葉を犬の鋭い聴覚で拾った政宗は、睨みつけるような視線を誠志郎に向けると千代の膝の上から飛びかかろうとした。

しかし直前、小十郎の鋭く射貫くような声が響き、政宗はピタッと動きを止めた。


「貴方様は過敏に反応しすぎです。この者は、ただ名を言っただけ…落ち着いてください」


「……すまない」


ハッしたように千代の膝の上に座りなおすと、政宗は俯くように下を向いた。

その表情は犬ではなく、人間らしい…何かを悔いているような表情をしていた。


(いつもは政宗さんが上の立場で、片倉さんがまるで仕える人のよう。けど今みたいに…たまにだけど……政宗さんと片倉さんは立場が逆転する時があるような気がする。…あ、そっか。信頼しあっているから、相手の立場に関係なく過ちを止めてるんだ…)


千代はそう思うと、政宗の頭を優しく撫でた。

それに驚き顔を上げた政宗が振り返れば、優しげに目を細め微笑む千代の顔があり、政宗は途端に恥ずかしそうに千代の手を退かした。


「そういうことを…軽々しくやるな」


「え?」


「何でもない!おい!」


「へ!?俺?」


政宗は照れ隠しに大きな声を上げると、珈琲をもう一口飲もうとしていた誠志郎が慌ててカップをデスクに置いた。


「先程の話の続きを……頼む」


「へ?……あ、ああ。」


また文句でも言われるのではないかと身構えていた誠志郎は、素直に(本当は言いにくそうだったが)頭を下げ頼んだ政宗に一度頷くと話の続きを話し始めた。




ここまで読んでくださり、ありがとございます!


しばらく更新はしないとあらすじ部分に書かさせていただきましたが、書きたくなり書いてしまいました…(汗)


なので続きがいつ更新されるかは作者も不明です…。申し訳ないです…。

で、ですが!ちゃんと完結まではもっていくので、どうぞこれからも読んで頂けたら嬉しいです!!

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