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戦国ロリポップ  作者: カノン
第壱章 不思議な二匹
6/11

第伍話 お弁当…作り直しです。

「わあ…間一髪でしたねぇ…」


誠司の背後で、のほほんとした青年声が響く。

その声の主は“運転席”から現れ、申し訳なさそうに頭を掻いていた。


「お前は……娘を殺す気か!!!」


ギラッと、鋭い眼光を後ろへ向けたかと思った瞬間、誠司は千代から離れ、その青年の胸倉を掴んだ。


「許して下さい!!そんなつもりは…って、け、警部?…く、苦しいです……かはっ」


青ざめていく青年に、千代は誠司を止めに入る。


「待って、お父さん!そのままじゃ、私じゃなくてその人が死んじゃうよ!?」


冗談ではなく、本気でそう思った千代の声に、誠司は渋々といったように青年から手を放した。


「げほっげほ…はあ~助かりました。」


けれど、解放されてへたり込むその青年を見て、千代は不思議そうに首を傾げた。

それに気付いた誠司の部下の一人である“笹切(ささぎり)”が、座り込む青年の頭をつつく。


「千代さん、コイツは最近うちの部に配属されてきた…」


狩川麟太郎(かりかわりんたろう)です…先程は、本当に失礼致しました!!」

 

笹切の言葉を続けた狩川は、地面に顔がめり込みそうな程頭を下げた。


「あ、あの、顔を上げて下さい!…私は、どこも怪我をしていないので…」


「!!…千代さん」


土下座する狩川がなんだか可哀想になった千代が肩に手を置くと、狩川は顔を上げ頬を染めた。

けれどその狩川と千代の間を遮るように小十郎と政宗が入り込む。


(コイツ、千代をもう少しで殺すところだったくせに…)


(千代殿に…惚れましたね)


千代に手を出そうものなら…と、怒りにも似た心で通じ合う二匹に千代は首を傾げ、狩川は只ならぬ殺気を感じビクつくのだった。


「それにしても、凄く賢い犬たちですね。千代さんと車との衝突を避けるなんて」


ギクッと固まる二匹。

そんな二匹を感心したように見つめる笹切に、誠司が思い出したように二匹と視線を合わせた。


「そういえば、そうだったな。

もしかして…拾ってくれた千代への恩返しか!?」


(いや、恩返しって…お父さん)


内心、千代もバレるのではと焦っていたが、誠司の言動に鶴の出てくる某有名昔話を思い浮かべ、脱力する。

そしてツッコミたい気持ちを抑え、千代は改めて政宗と小十郎に感謝を述べる。


「…本当にありがとう。政宗さん、片倉さん」


笑みを浮かべると、千代はフワフワな二匹の頭を優しく撫でた。

その手つきに癒され、目を細めた二匹は、誠司の次の言葉に現実へと引き戻される。


「政宗さん?片倉さん?…まるで人の名前みたいな名前をつけたんだな?」


「!!!」


不思議そうに聞いてくる誠司に、しまった!…と手を口元に当てる千代。

そしてそんな千代の膝元で焦ったように目を泳がせる政宗と小十郎。


それらを見て意味深に微笑むと、誠司は二匹の頭に手を乗せた。


「まあ何にせよ、千代を助けてくれた訳だし……飼ってもいいぞ」


「え……本当!?」


最初政宗たちを拾って来たときは、千代を怪我させた事があった為、反対していた誠司。

けれど今の出来事で、少なからずもう千代に怪我をさせるつもりはないと思ったのだろう。


誠司は二匹の頭を乱暴に撫でた。


「ありがとう!お父さん、大好き!!」


政宗たちの事を話すことは出来ないけれど、此処に置くと決めた以上、一緒に住む誠司には了承してもらいたいと思っていた千代は感極まり誠司に勢いよく抱きつく。


「うお!?…はは!けど、飼うと決めたからには最後まで面倒みるんだぞ?」


「うん!」


間に政宗と小十郎を挟んでいることも忘れ、二人はきつく抱きしめ合ったのだった。

そんな二人に遠慮がちに、笹切が声をかける。 


「あの…警部。そろそろ行かないと、他の者に示しがつきませんよ?」


「いけない、もうそんな時間か?」


千代を放し腕時計を見た誠司に、千代はハッとお弁当箱の存在を思い出す。

けれど辺りを見た千代の目に飛び込んできたのは、中身が飛び出したグチャグチャのお弁当だった。


「……。千代」 


それに気付いた誠司は、優しく微笑むと千代の頭にポンッと手を乗せる。


「お昼にまた寄るから、その時に渡してくれるか?」


「うん…」


しゅんとうなだれた千代に、誠司の怒りの矛先は…当然、狩川へと向けられる。


「狩川。……お前は当分、いや。一生運転だけはするなよ?いいか?わかったか?わかったな」


「!!?…は、はいぃ……。」


青ざめた狩川に、さらに追い討ちをかけるように政宗と小十郎が睨みを効かす。


(今度会ったら…)


(八つ裂きだ。)

 

「ひぃっ!!?」


政宗と小十郎の只ならぬ雰囲気に、狩川は無意識に後ずさるのだった。────



「それにしても…鋭いのか鋭くないのか、解らぬ父親だな。」


“笹切”の運転する黒塗りの車が、家の敷地を出るのを見送った一人と二匹は、家の中に戻っていた。


「そうですね…それはよく私も思います…ふふ。でも、毎日飽きないです…あれが“父”ですから」


そう言いながらも、どこか楽しそうに語る千代に、政宗は複雑な表情をした。

けれどそれに気付いたのは小十郎だけで、すぐに元の表情に戻った。


「それよりも腹が減ったな、千代、飯だ」


「はい」


千代を挟むようにして二匹は、台所へと向かった。



 * *  * *



「じゃあ、お祖父ちゃん。行ってくるね」


「気をつけてな」


千代はコートの上にマフラーを首に巻き、玄関の戸を開ける。

その後ろからは政宗と小十郎がトコトコとついて行く。


「政宗さんと片倉さん?…もしかして、一緒に行く気ですか!?」


「ああ、千代がこれから行く『学校』という場所に興味があるからな」


キラキラと輝く瞳を向けられ、千代は仕方ないとばかりに小さくため息を吐くと政宗の体を抱き上げる。


「な、なんだ!!?」


「また寒さで倒れられたら嫌なので…。……よしっ」


千代は片腕で政宗を抱きしゃがみ込むと、もう片方の手でマフラーを外し、それを小十郎に巻く。

そして抱いたままの政宗を胸の前に持ってくると、コートのボタンを外しそこへ政宗を包み込むようにして入れる。 


周りから見ればコートの胸元辺りに、豆柴の頭だけが出ているように見える格好だ。


「苦しくなったら、言って下さいね?」


「あ、ああ…」


それだけしか言えなくなった政宗を、小十郎はジトッと見つめた。

その視線に言い返そうとするも、千代が立ち上がった為、政宗からは小十郎の顔が見えなくなる。

だが渋々言葉を飲み込んだ政宗の頬が、ほんのり赤くなっていることに千代だけが気づいていたが…


(顔が赤くなるほど寒いのかな…)


などと、思っていた。


「それにしても、学校…とはどういう場所なのですか?」


すでに政宗に構うことを止め、マフラーを気にしながら、小十郎が歩き出した千代を見上げ問いかける。


「え?えっと…簡単に言うと、学校というのは子供たちが歴史や言葉、色々なことを勉強する所ですよ」

(また…知らないことだったのかな?)


千代の返答に「なるほど」と頷く小十郎に、千代は自分にとって「常識」な事を知らない小十郎達のことが益々気になっていた。


「ではお前は、今から“勉強”をしにいくのか?」


コートに包んだまま抱いている政宗の声に、視線を移した千代は首を横に振る。


「いいえ。今日は先生に頼まれ物をされたので、それを受け取りに行くんです。

なので一応“制服”を着ていこうかなって…」


「よく分からないが…“今日は”ということは、学校とは毎日行くものではないのか?」


「えっと…はい、そうですね。

基本的に土日と祝日はお休みで、今は“冬休み”なので今日は本当なら学校はお休みです。でも、私は…」


「…?」


「あ、いえ!何でもないです!あは、あはは…」


言葉を濁した千代を怪訝そうに見つめた二匹だったが、千代が立ち止まったことに気付くと彼女の視線の先を追った。


「あれは…」


「雪崎さん!」


昨日千代達を送り届けてくれた車の脇に佇む人物に、千代が勢いよく駆け出す。

それに合わせ走る小十郎と、千代の腕の中でジッとする政宗。

一方、駆け寄ってくる人物に気付いた雪崎も、千代だと分かると笑みを浮かべた。


「千代ちゃん!」


「雪崎さん、こんな所でどうしたんですか?」


千代の問いに答えようとした雪崎は、隣に凛々しく座るレトリバーと抱かれた豆柴に目を留めると微笑む。 


「その子達、元気になったんだね…良かった」


「はい、雪崎さんのおかげです!ありがとうございました」


頭を下げる千代に、雪崎は照れ笑いを浮かべる。


「いいよ、そんなの。千代ちゃんの頼みなら、いくらでも聞くから…いつでも頼ってね」


その言葉に顔を上げた千代も、雪崎同様に照れ笑いを浮かべると、恥ずかしそうにはにかんだ。


「先程から、随分と馴れ馴れしい奴だな」


「!!?」


すると突然、雪崎の耳に聞き覚えのない青年ボイスが届く。

驚いて辺りをキョロキョロと見回す雪崎に、また別の男性の声が聞こえてくる。


「この男は、昨晩私共を助けて下さった方ですよ、政宗様。」


「確かに、このような男は、昨晩いたかもな」


「ちょ、ちょっと…政宗さん!?片倉さん!?」


慌てたようにレトリバーと豆柴を交互に見つめる千代に、雪崎は何かに結論付いたのか、豆柴を見つめる。


「もしかして……今喋ったの、この犬達!!?」


雪崎は驚愕したような表情で、何度も目を瞬かせる。

それを可笑しそうに見た豆柴・政宗は、そうだと言わんばかりに頷いてみせた。


「ほほ、ホントに!!?」


「お、落ち着いてください!雪崎さんっ!」


初めて政宗たちと対面したときの千代と同じ様に倒れてしまいそうになる雪崎に、千代は慌ててその腕を取る。


「こ、これには…えっと、その…!」


「千代。話してやれ」


「え…?」


未だ困惑する雪崎を見ていた政宗が、千代を見上げると了承するように頷いた。

それを見た千代が今度は目を瞬かせたが、人の言葉を雪崎の前で話したことには、何か理由があるのでは?と思った千代は、政宗の意に従い言葉を紡ぐ。


「雪崎さん、実はですね…────」


千代は腕を掴んだまま、自分の知っている限りの政宗たちの情報を話した。

元は人で、何者かに術を掛けられ、このような姿になっていること。

そして、元の姿に戻るために、千代は手を借していることを。


「そ、そんな事が…」


まだ信じられないといった表情の雪崎を見ながら、小十郎が政宗に声を掛ける。


「この男に話したのは、興味本位なのですか?それとも、何か理由がお有りなのですか…政宗様」


「ん?…まあ、な。」


それだけ言うと、政宗は千代のコートから抜け出し、地面に降り立つ。

そして雪崎に近づき見上げると、自分のクリクリとした瞳を雪崎の瞳に合わせる。


「話す気はなかったんだがな。」


「えっ…」


「しかし、助けて貰った恩を返さぬ訳にはいかない。だから、話したまでだ。

礼だけ貰っても、何が何やら分からぬだろう?」


ニッと笑う政宗に、雪崎は呆気に取られる。

けれどすぐに気を取り直すと、政宗と視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。


「それは…少しでも、僕は信用に当たる人物だと、思ってくれているって事…かな?」


「ふん…どうだろうな」


しらを切る政宗に、小十郎は思う。


(千代殿が信頼していそうな人物。それだけで、政宗様はこの男を信用してもいいだろうと、思ったのだろうな。

……それだけ、千代殿は政宗様の心の中に入り込んでいる。ということか…。それに──)


元に戻る為の方法探しを、女子(おなご)の千代殿にだけ託すのは、申し訳ない。

そんな思いもあるのでは、と小十郎思い、改めて政宗への忠義の意を高めた…のだが。


(こいつからは、先程から甘くいい匂いがするから…。なんて、言えるわけがない!べ、別に甘い物が好きというわけではないがな!!)


…と、本当の理由は政宗が「甘党」だったことにあった。

小十郎の考えも、無いことはなかったのだが…知らぬが仏とは、こういう事だろう。


「とりあえず、話を聞いたことだし…僕も探すの手伝いますよ。」


ニコニコと穏やかな笑みを浮かべ、雪崎は千代を見た。

するとその言葉に感激した千代が、飛び上がって喜ぶ。


「本当ですか!?…ありがとうっ“千ちゃん”!」


「??…せん、ちゃん?」


千代の一言に、政宗と小十郎は同時に首を傾げたのだった。






ここまで読んで下さり、ありがとうございます!


前回からまた、日が経ってしまいましたが、次回も読んで頂けると嬉しいです…!

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