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戦国ロリポップ  作者: カノン
第壱章 不思議な二匹
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第弐話 政宗さんと片倉さん

武将の関係性は、歴史と異なっていたりする場合もあります。

「…っ…千代!!」


「!!?」


必死に呼ばれる自分の名前に、千代はパチッと目を開けた。

最初に飛び込んできたのは父である誠司の顔、次にその横で難しい顔をしたまま腕を組んで座っている祖父の茂だった。


千代は状況が把握できず、ただただ首を傾げるだけだったが、そこで自分が布団に寝ている事に気づき慌てて飛び起きる。


「ああ、無理に起きなくていい」


「え…でも……」


誠司に肩を優しく押され、布団に沈む千代。

しかし起きたとき目にした時計で、もう十時を過ぎていることを知った千代は、未だ心配そうな顔つきの父を見つめた。


「夕飯のことなら心配いらない、だから……お前はもう寝なさい。」


千代の考えている事を読み取った誠司が、優しい手つきで千代の頭を撫でる。

その温かさに一瞬まどろむも、どうしてこうなっているのか知りたい気持ちが上回り、千代は再度起き上がろうとした…が。


「寝なさい。」


「っ……はい。」


強い口調で父にそう言われては、言い返せない千代。

彼女はしぶしぶというように、布団に潜り込んだ。


「それじゃあ、おやすみ…また、明日」


「お休みなさい……」


千代が布団に潜ったのを確認すると、誠司は立ち上がり部屋を出て行った。


(えっと…なんでこんな事になってるの?……寝てるってことは、私…倒れた?でも、倒れるほど疲れてはなかったと……)


布団の中でグルグルと、色んな考えを廻らせる千代。

その時、自身の手に何か温かなフワッとした温もりを感じ、彼女はそっと布団を持ち上げた。


「お?目が覚めたか」


「…………。」


そこにいたのは豆柴。

小さな前足を持ちあげて、言葉を話すその犬を見た瞬間彼女はフリーズした。

しかしその『声』が鍵だったかのように、彼女の記憶が一気に呼び覚まされた。


「き、きゃっ…ムグッ!?」


驚きから、条件反射のように悲鳴を上げようとした千代の口を、今度は違うフワフワな温もりが頭上から塞いだ。


「まったく…失神したかと思ったら、今度は悲鳴ですか。」


「!!?…んーんー!?」


口を塞ぐ物体を確かめようとして千代が見たのは、ゴールデンレトリバー。

そこで全ての記憶が蘇り、彼女はレトリバーの手を強引に退かすようにして文字通り飛び起きた。


「ぷはっ!…そうだった!貴方達に驚いて私……倒れちゃったんだ!」


「ようやく、思い出せたようじゃな。良かったわい、千代に何もなくて…」


「え!…お、お祖父ちゃん!?」


先程と変わらない位置に座っている祖父に、誠司と共に部屋を出て行ったのだとばかり思っていた千代は驚きを隠せないでいた。


「お、お祖父ちゃん…こ、これは…えっと!」


「大丈夫じゃよ、ワシはもう聞いたからのう。そのお方に。」


必死に説明しようとしていた千代は、祖父の言葉にポカンと口を開けたまま固まり、驚愕した。

人の言葉を話す犬を見て驚かない、挙句その犬と話をしたという。


(どうなってるの…??)


混乱し過ぎてまた目を回しそうになっている千代を見て、茂は立ち上がるとモゾモゾと布団から這い出た豆柴を見つめた。


「詳しい話を、わしの孫にもしてやって下さい。……ただし、危険な事に千代を巻き込むようでしたら……わしも容赦はいたしませぬぞ?」


語尾を強めた茂の瞳に、殺気にも似た光が灯る。

それを見た豆柴は、意地悪い笑みを浮かべると茂を見上げた。


「ふっ…威勢のいい爺さんだ。だが、その言葉は覚えておいてやろう。俺もこの女は気に入ったからな」


「……左様でしたか。…ほっほっほ!」


(端から見れば、意志が通じている『老人』と『犬』にしか見えない奇妙な光景だな…)


そう思うものの、声に出してはあえて言わないレトリバーと…まったく同じことを思っているとは知らない千代は茂に問いかける。


「お祖父ちゃん、いつの間にこの子達と話したの?詳しい話って何??」


「まあ、落ち着け。それは俺から、説明してやるから」


「よく聞いて、考えると良い。爺は千代の味方だからのう…ほっほっほ」


千代の手に前足を置いて頷く豆柴と、犬に答えを返され困惑する千代を背に、茂は足音も立てずに部屋を出て行った。―――


「さて、まずは名を名乗るが適切だろう。俺の名は…」


「ちょっと待って!」


カタンと音を立て襖が閉まるのを見届けた後、千代から離れきちんと座りなおした豆柴が話し出したのを千代は慌てて止めた。


「なんだ?話を止めては、先に進めんだろう…」


「いやいや!犬が人の言葉を話すこと自体おかしいでしょ!?だって、そんなの聞いたことないし…お祖父ちゃんも普通に話していたけど……私は…。」


俯く千代に、豆柴とレトリバーは顔を見合わせた。

そして何か目配せのような合図を送ると、豆柴は布団に飛び乗り、レトリバーは千代に近づいた。


「受け入れられないのは、分かる。俺もお前の立場だったなら、きっと信じられずに『野良犬』など外に放り捨てているだろう。いや、もしくは喋る犬だと…どこかに売り飛ばしている。」


「そうですね、私もそうしているかと。いえ…そもそも野良犬を拾う事はないかと思います。」


「そんな…っ!私はそんなことしない!!」


豆柴の言葉に千代は顔を上げると、必死に叫んだ。

それを見た豆柴とレトリバーは一瞬目を見開くも、その答えが分かっていたように微笑んだ。


「ああ、分かっている。瀕死の俺達を救ってくれたお前がそんなことするとは思っていない。」


「え…?」


話が見えず首を傾げる千代の手に、いつの間にか側にいた豆柴はそっと前足を乗せた。


「だからこそ、俺達の話を聞いてもらいたい。命の恩人であるお前に、礼もしたいからな」


豆柴の隣から、今度はレトリバーがもう片方の手に前足を置いた。


「噛み付くという…無礼を働いたことは、お詫び申し上げます。ですが…普通に考えて、訳もなく犬が言葉を話すわけないでしょう?それくらい察してください……いいですか?」


「は、はい…」

(な、なんか…怒られた?)


「はは!コイツは小言が多いが悪い奴じゃないことが早速分かったな?」


「なっ!?貴方様に言われたくはありません!」


「なんだとっ!?」


千代の目の前で言い合いを始めた二匹に千代は自分の考えを改め、話を聞いてみようと思っていた。


「あの!」


「ん?…なんだ?」


二匹が言い合いを止めると同時に、千代が頭を下げた。


「さっきは、ごめんなさい。

最初から疑うなんて失礼でしたよね…本当にごめんなさい。

貴方達の話を聞かせてもらってもいい…ですか?

私が力になれることがあるかもしれないですし、それに…」


「…?」


言葉を切った千代が顔を上げ、二匹を見つめた。


「お祖父ちゃんが前に『偶然でも、出会ったことには意味がある。縁には、感謝を。』って…。だから私が貴方達と出会ったのも、何かの縁かもしれないって思うんです」


淡く微笑んだ千代に、二匹は言葉を失った。

決して千代の笑顔に見惚れたわけではない!…と思いつつも、彼女の言葉と笑顔は二人に何か温かいものを与えてくれた。


「そうだな。少なくとも俺はお前と出会って、命を救われた……本当にありがとう」


そう言った後、豆柴は一度目を閉じる。

そして次に目を開けたときには、その瞳に強い意志を宿し千代を見つめた。


「改めて、俺の名は『伊達藤次郎政宗』。政宗、と呼ぶといい」


「政宗…さん?」


どこかで聞いたことのある名前だなと千代が思っていると、今度はレトリバーが姿勢を正し、政宗と同様な強い瞳で千代を捉えた。


「私の名は『片倉小十郎影綱』。どうぞ貴女のお好きなようにお呼び下さい」


「えっと…。片倉さん?」


「そのように。」


見た目は豆柴とゴールデンレトリバー。

けれど、二匹の気品溢れる佇まいや雰囲気に、彼らは只者ではないと千代は思った。


(さっきの名前…どこかで聞いたことがある気がする。どこだろう?)


いつの間にか正座になっている千代に気づいた政宗は、彼女に身を寄せると、先程までの真剣な表情を崩し笑顔を見せた。


「そういえば、まだお前の名を聞いていなかったな。茂殿は『ちよ』と言っていたが…?」


「あ、はい…月之瀬千代。

“千”に“代”わると書いて『千代』です。

昔の『千代の友』という言葉からつけた名前だって、お父さんとお祖父ちゃんが言ってました。」


「そうか…。良い名だな…千代と呼んでいいか?」


「は、はい!」


和やかな空気が政宗と千代の間に漂う。

その空気を破るように、影綱の声が響いた。


「こほん。そろそろ、本題に入ってもよろしいでしょうか?」


「え、はい!」


ヌッと目の前に現れた小十郎の顔(レトリバーの頭)に後ずさった千代は、布団から出ると畳に座り直した。

それを確認すると、小十郎が話し始める。


「とりあえず、私達が普通の犬ではないことはもう解っていますよね?」


「はい…」

(…まだ、驚いてはいるけど…。)


「俺達は元々“人間”だ。ある奴に『術』を掛けられ、こんな……獣の姿になってしまったんだ。」


小十郎の言葉を引き継ぐように、政宗が言った。

その言葉に薄々、漫画や小説の物語のように「人間が犬になったのかな?」と思っていた千代は『犬が喋る』ということを少し納得したようだった。


「その……ある人が術?を掛けて政宗さん達を犬にした目的って何なんでしょうか?」


千代の真剣に考えたと思われる質問に、政宗は驚いたように目を見開いた。

だが、すぐにそれは笑みへと変わる。


「千代、お前は……ハハハッ!」


「えっ…?」


「政宗様?」


突然笑い出した政宗に千代は何かおかしな事を言ったかな?と首を傾げ、小十郎はいつもすぐに他人には笑顔を見せない政宗に、驚いたように目を見開いて彼を見つめた。


「いや、すまない。……普通は“術”の方に興味が惹かれると思っていたからな、まさか掛けた『相手』の方に興味を示すとは…くくっ…予想していなかったな!」


千代を見て笑みを深めた政宗の瞳は、まるで何か面白い物を見つたときの興奮した子供のようにキラキラと輝いていた。


そんな政宗を見つめ、千代は照れたように手をモジモシし始める。


「…だ、だって犬が言葉を話しているっていう事実を見ている以上、人を動物に変えてしまう…“魔法?”みたいな物があってもおかしくないかなと思って…。」


「そうか…。ふっ…お前は面白いな、千代」


「??…そ、そう…ですか?」


目を細め、意味深に見つめてくる政宗に、喜んでいいのか複雑な気持ちで千代は見つめ返す。


(……って、見た目は“豆柴”なんだけどね)


千代は話している間、ずっと政宗が人間の男性と重なって見え、ふと気付くと豆柴に見た目が変わるという…何とも不思議な体験をしていた。








此処まで読んで頂き、ありがとうございます!


次回は、クリスマス!


季節が全く違くて、スミマセン…!


感想等、お待ちしております…。

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