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戦国ロリポップ  作者: カノン
第壱章 不思議な二匹
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第拾話 家族ですから…。

久しぶりの投稿となってしまいました…(汗)

配達を残している千志郎に送ってもらい、家に帰った千代は直ぐに新しいお弁当を用意すると父を待つ間に、自分たちも昼食を取ることにした。


「お祖父ちゃ~ん?…どこにいったんだろう」


政宗と小十郎を既に用意した料理のある台所に残し、千代は家の中を探し回る。けれど茂は自室にも居間にも姿は無く、外に出たのかと千代は縁側に移動すると裏庭へと視線を向けた。

何気なく見たその先には、庭に唯一ある小さな池の前に座り込む茂の姿。池には鯉が数匹いるのだが、どうやら餌を与えているようだった。


「お祖父ちゃん、お昼ご飯だよ」


「む?千代か…」


庭に下りる為のサンダルを履いた千代が歩み寄りながらそう言えば、茂は小さく手招きをした。

首を傾げながらも祖父に近寄った千代は、そのまま茂の傍にしゃがみ込んだ。


「どうしたの?…あ、鯉は元気?」


「おお、元気じゃよ。千代と同じくらいにのう…ほっほっほ」


ぱくぱくと口を開閉させ、茂の放る餌に食いつく鯉たちに千代は苦笑いを浮かべる。


(それって…私もこんな感じにご飯を食べる時に勢いがあるってこと?)


「誠司くんは…」


ふと声音を少し落とし、茂が口を開く。


「ん?お父さんがどうかした…?」


不思議そうにしながらも、千代は未だ食べ続ける鯉を見つめていた。

すると茂は静かに立ち上がり空を見上げた。


「一途に人を想える良き父だ。あまり心配を掛けるでないぞ、千代」


「!…うん、わかってるよ」


驚きに顔を上げ茂を見た千代だったが、祖父のあまりにも真剣な横顔を目にし力強く頷いた。

それは了承の意味も含まれていたが大きくは、茂の言った意味が痛いほどわかったからだ。


(お母さんを亡くして辛いのは私やお祖父ちゃんも同じ…。でも、お父さんは―――愛した人が亡くなってるんだ。それも自分が警察官という職業なのにも関わらず)


母の葬式の時、父は泣かなかった。

けれど幼い千代の手を握る力は強く痛くなる程で、悲しみや怒りを抑えているのだと幼いながらに思った千代は、今でも忘れられない。


(今も…お父さんは泣かない。でも毎日仏壇に語り掛けている時の背中は…悲しげで、辛そうで、苦しげで。私も…お父さんに何かをしてあげたいって思ったんだ)


手伝いを始めた理由の一つがそれだった。今では習慣になっているが突然母がいなくなり、生活ががらりと変わった当初は辛い事や難しいことが多かった。

洗濯や料理、掃除と言った家事全般を覚えるため、幼い頃から千代は家族の為に働いていた。

茂や誠司もまたそんな千代を見て母の代わりになろうと努力もしていた。けれど警察官という忙しい身の誠司は家事をすることが中々できず、茂もまた御年まで家事などはしたことが無く…はっきり言って役立たずだった。

しかし『愛情』だけは、二人共に惜しみなく千代に注いだ。

それこそ話すことすら出来なくなるほどのショックを受けた千代が、昔のような笑顔を浮かべるまでに。


「政宗殿のことは千代の意志に任せる。手伝うも手伝わぬも、選択は千代自身がすればいい。だがのう…誠司くんにだけは嘘を吐くでない。彼は千代の父であり、家族なのだから」


「うん…そうだね」


(昨日はバレたらいけないと思って咄嗟に“実は人なんです”って言えなかったけど…。お祖父ちゃんの言う通り、お父さんならきっと…ううん。)


「お父さんは絶対に信じてくれるよね」


笑みを浮かべた千代の言葉に、茂は嬉しそうに笑むと優しく千代の頭を撫でた。

愛おしそうに、大事な宝物に触れるように優しく撫でた。


「そうじゃよ。何せ、誠司くんは自慢の『娘婿むすこ』なんじゃからのう…ほっほっほ!」


「わっ!お祖父ちゃん、髪が乱れちゃうよ!」


優しく撫でていたと思ったら、乱暴に撫でだした祖父に千代は文句を言う。

けれど茂にとって義理の息子である父・誠司のことを本当の息子のように呼んでくれる祖父に、改めて千代は祖父への「好き」という気持ちを高めた。


「あ、そうだ!私…お昼ご飯だよって呼びに来たんだった!」


「む?そうじゃった、そうじゃった。行くぞい、千代」


「うん!」


昔はよく繋いでいたが最近では繋いでいなかった茂の手を握り、千代は家へと向かう。

久しぶりに握った祖父の手は、硬く少しゴツゴツしていて皺くちゃだったけれど、暖かな温もりは変わることが無く、千代は安心するように目を細めたのだった。


「そういえば…お祖父ちゃんは政宗さんがどういった人なのかって、最初から分かってたの?」


「む?どういったとは?」


千代は誠志郎に聞かされたことをありのまま、首を傾げていた茂に話した。

すると茂は可笑しそうに笑みを深めると声を上げて笑った。


「そうか、そうか。千代は政宗殿を知らなかったのか」


「うっ…歴史は学校で習う程度しか知らなかったから、詳しいことまで分からなかったの!笑わないでよ…!」


無知だった自分を恥じるように頬を赤く染めそっぽを向いてしまった孫娘を可愛いなと思いつつ、茂はニヤリと口角を上げた。


「確かに儂は“伊達政宗”を知っておったからのう、あの御仁が名を名乗った時に正体は分かった。しかし儂の知る“政宗公”があの“政宗殿”かどうかは知らなんだぞ?」


「え…?どういうこと??」


「さてのう…ほっほっほ」


まるで小さな悪戯が成功した時のように嬉しそうに笑う祖父を、千代は疑問符を浮かべたまま「腹が減った」としびれを切らし呼びにきた政宗が来るまでずっと見つめていたのだった。


 昼食後、部屋に戻ろうとした茂にこの後も出かけると言い残し、千代は昼食の片づけを終えると着替えに自室に向かった。勿論その後を豆柴(政宗)とゴールデンレトリバー(小十郎)が続いたのだが…


「あの…着替えを覗くつもりですか」


ぴしゃりとそう言いながら冷たい視線を向けてきた千代に、政宗と小十郎は不覚にも恐怖し後ずさると襖が閉まるのを見届けたのだった。


「千代を…怒らせるなよ、小十郎」


「政宗様こそ…」


ぽつりと呟いた二人…もとい二匹は手持無沙汰になってしまったので、家の中を探検…いや、捜査することにした。

長い廊下が幾つもの曲がり角を経て繋がる千代の家は、部屋と呼べる空間が襖で隔てられているだけのまさに旧家屋だった。

二階の無い平屋な分部屋の数が多く、縁側のある部屋との境には薄く桜がプリントされた障子があり、外の境には汚れ一つない窓ガラス。

外に広がるのは広大な庭で、敷地全土を囲む塀の近くには桜や松の木が植えられていた。門には立派な扉と表札がかかり、敷地内には他に大きな蔵と道場が管理されていた。


「改めて見ると、本当に大きな城だな…」


「我らが伊達の城には遠く及びませんよ、政宗様」


「……。それ、千代たちの前で言うなよ。」


色々と見て回り、雪積もる庭へと出た政宗と小十郎は足跡の無い雪に自身の足型を何度も模りながら歩き、母屋から離れた門の前までやってきた。


「政宗様、元の姿に戻る手立ても大切ですが…やはり、まずは刀を見つけるのが先決なのでは?」


敷地から出た道路に腰かけ表札を見上げていた政宗は一歩後ろに腰を下ろした小十郎を振り返る。


「元よりあれは俺の物ではない。そうだろう?」


「しかし今は貴方様の物です。…“アレ”がどれほど危険な物かは、貴方様が一番お解りになっているのではないですか?」


目元を細めきつい口調で言い放った小十郎の言葉に、政宗は天を仰ぐと深く息を吐いた。


「分かってる。だからこそ、アレは他の誰にも扱えやしない。それに俺が望めば、ふらりと現れるさ」


おどけたように笑う政宗に、小十郎はため息を吐くと苦笑を浮かべた。


「それではまるで行方不明になっていた夫か妻が帰って来るような台詞ですよ…」


「似たようなもんだ」


呆れる小十郎に、真顔で返す政宗。

声だけで聞けば男同士の会話に聞こえるのだが、見た目だけでは犬同士の井戸端会議に見えなくもない。

そんな二匹に近づく人影があった。気配で近づくのを読んだ政宗と小十郎は視線だけを背後から近づく人物に移し、目を丸くする。


「あれ?君たちは確か千代さんを救った…お利口さんのワンちゃんさん!」


(コイツは…!)


(千代殿を轢き殺そうとした男!!)


驚いたように見開いた目で二匹が捉えたのは、少し乱れたスーツを着て汗を掻く狩川麟太郎だった。

今朝方と変わらぬヘラヘラとした締まりの無い顔で笑みを浮かべる麟太郎に、政宗と小十郎の目つきが変わる。


「あ、あれ?…なんだか、とっとと出てけ。これ以上近づくな。…って言われているような…あはは」


正しくその通りだと言わんばかりに睨み付ける二匹に、麟太郎は困ったように頭を掻いた。

丁度そこへ着替えを済ませた千代が慌てたようにお弁当の包みを持って速足に近寄ってきた。


「狩川さん!」


「あ、千代さん」


「ごめんなさい、お待たせしてしまって…」


「いいえ!今着いた所ですから…っ!」


頭を下げる千代に、麟太郎は顔を上げてくださいと両手をぶんぶんと横に振った。


「父からのメールに気付くのが遅れてしまって…これがお弁当です」


「はい、確かにお預かりしました」


申し訳なさそうに眉尻を下げた千代と、お弁当を受け取ろうとした麟太郎の手が…若干触れ合う。

それを見逃さなかった政宗は心底嫌そうな表情を浮かべると、勢いのままに声を上げようとしたが、それは小十郎によって止められる。

“今此処で動いては、千代殿に迷惑が掛かります”と暗に込めた視線を受け、政宗は渋々身を引いた。


「千代さんはこれからお出掛けですか?」


「あ、はい」


麟太郎の視線が千代へと移る。

今朝会った時は制服だったが、外出用なのか胸元にふわりとした白のリボンがあしらわれた薄ピンクのニットワンピースに黒のタイツ。足下はヒールの低い茶色のロングブーツで、羽織ったベージュのコートの上から肩にショルダーバッグを掛けた服装をしていた千代に、麟太郎の頬が僅かに熱を持った。


「そ、そうなんですか!…出掛ける際は不振人物、怪しげな場所など危険なものには近付かないように。それから車に気をつけて下さいね」


「はい。ご心配ありがとうございます」


警察官の義務だと言わんばかりの台詞だったが、麟太郎は心の底から千代を心配しているようだった。

そんな気の優しい所を買ったのだ、と父であり彼の上司である誠司に聞かされていた千代は嬉しそうに微笑むと一礼して一歩踏み出した。

勿論、その後には政宗と小十郎が続く。


「麟太郎さんも、気をつけてお帰り下さいね」


「はい!」


それじゃあ。と麟太郎に背を向けて歩き出した千代に、麟太郎は敬礼をしその可憐な姿を見送った。


 * * * *


「ごめんなさい、政宗さんたちも待たせましたよね?」


「いいや。気にしなくて良い」


家から数分の住宅街の中を歩き、千代は道路脇に積もる雪を避けながら隣を歩く二匹の犬に話しかける。

幸いにも周りに人の気配は無く、政宗もそれを見越して声を出した。


「あの“りんたろう”という男…気をつけろよ」


「え?」


突然言われたことに目を丸くし立ち止まった千代。そんな彼女の目を見つめ、同じように歩みを止めた政宗は再度言う。


「気をつけろと言ったんだ。…今朝の所業もそうだが………あの目は」


(間違いなく…千代に恋情を抱いていた!)


確信を持って心中で叫ぶ政宗に、千代は首を傾げながらも何とか話の内容を理解しようとしていた。


「目…?」


「っ!と、とにかくだ!あの男と会うときは用心しろよ、千代」


「?…はい?」


神妙な顔になったかと思えば、顔を赤らめる政宗。ころころと変わる表情に意味も分からず千代は頷いた。そこで先程から黙り込んでいた小十郎が主のある意味で危機に陥った姿を見て口を開く。


「ところで…先程の“めーる”というのは何なのですか?」


「え?…ああ、これの事ですよ」


話題転換に一瞬反応が遅れるも、千代はバッグから携帯電話(スマホ)を取り出すと小十郎に見せた。

その隙に心を落ち着かせた政宗は、小十郎に感謝の念を送ると同じように携帯電話に視線を移す。


「これは…」


「これは携帯電話というんです。遠くの人とお話できたり、連絡を取り合うのに使う道具なんです。」


千代は滑らかな動作で画面をスライドさせていくと、それを政宗達に見せた。

一瞬にして画面が切り替わったり、光や音を放つそれらに政宗も小十郎も目を輝かせ食い入るように見つめた。


「メールというのはこうやって、文を打ち込んで送るとこの文章がそのまま送った相手の携帯に届く仕組みなんですよ」


「なる程…つまりこれは書状を送る機械ということ。連絡役として忍者を向かわせる手間が省ける代物とは…素晴らしい!」


いつもなら政宗の方が食いつきがいいのだが、今回は小十郎の方が興味を注われたようだった。


「では、千代殿はそのメールというもので、お父上の代理であの者が屋敷に来ると伝達があった。ということですね?」


「はい。これが……その時のメールですよ」


操作し先程送られてきた誠司のメール画面を表示すると、小十郎にそれを見せた。

すると思っていた以上に目をもっと輝かせた小十郎に、千代はくすりと笑みを零した。


「後で使い方を教えてあげましょうか?」


「いいのですか!?…あ、いえ。……お願いいたします」


「はいっ」


なかなかに良い雰囲気になっている二人に、政宗は麟太郎のことなど忘れ二人の間に入った。


「それより…目的地はまだ決まっていないだろう?俺たちも何の手がかりも思い出せずにいるのだから。…何処へ向かっているんだ?」


「それがシロくんから連絡がありまして…」


千代はそういうと携帯の画面を操作し、あるメールを表示した。

そこには―――“手がかり発見!至急、雪崎家に集合!”と書かれていた。



ここまで読んで下さり、ありがとうございます!


誤字脱字などございましたら、お知らせください。

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