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現代っ子パーティ・クエスト  作者: 空色レンズ
第一部:異世界召喚
4/23

(4) ~ リサーチせよ異世界事情

「さて、あたしも爆睡したおかげでかなり頭が冴えている」

「よかったねーお姉ちゃん。私は逆に寝不足だよ……」


 元いた世界での姿を比べると、正反対な雰囲気を漂わせていた姉妹は、昨夜眠った木の根元から移動せず、その場に毛布を敷いて、賢者からもらった鞄の中身の確認を始めた。


「まずは、同じような毛布がもう一枚分。これはなんかあった時用にとっとこう。一枚で十分な大きさだし」

「こっちのナイフは……うわ、十徳ナイフみたい。いろんな形が押し込んである」

「それが二個、と。あとはー食料っぽいもんに水にロープになんかよく分からん棒に、……意味深な本」


 そう言って、真琴はゆっくりとそれを持ち上げる。元の世界でのハードカバー並みの厚さで、縁に装飾などもされておらず、やや古びた感じの革の表紙をしている。タイトルも特になし。


「お姉ちゃん、一個質問」

「なんだ」

「もしその本がこの世界での言葉で書かれてあるとして……読めると思う?」

「あの賢者がケチってなければ、多分読解能力やヒアリング能力が会得されてる……はず。自信ない。読めなかったらそれまでだ」


 投げやりに答えて、真琴はぱらりとページをめくる。そこに現れた文字に、真琴はしばし硬直した。


「よ、読めなかった?」

「……いや、普通に日本語だ。これ」

『どれどれ』


 確認し終えた荷物を鞄の中にしまい、二人と一匹はぴったりとくっついて、その本を読み始めた。




“ この世界の名は、『ヴェルホーク』

魔法が存在し、魔物が存在し、人が剣を持って戦う世界


ヴェルホークは、五つの大陸、十の国に分かれている

『 現在地:第三大陸ゲーナ・アルスティン国領内 』 ”




「これ……いわゆる『魔法の地図』か?」

「あ、次のページに地図があるよ。……なんかゴチャゴチャ動いてる」


 美琴に言われてページをめくると、その本と同じサイズにまで折りたたまれた大きな地図が挟んであった。本から外して見てみると、薄茶色の紙面に、黒のインクではっきりと大陸や国名、大きな町の名前などが書き込まれている。

 そして、美琴がつぶやいたとおり、それら主線より数段薄く、細い線が、地図の上をゆっくりと連動して動いていた。しばらくその動きを眺めていた真琴は、適当な予想を口にする。


「これ、雲とか、波とかの動きじゃないか? ま、町の名前確認する邪魔にならんし、いいだろ」

「え、あ、うん……今のだけでそんな予想できるんだ」

「女の勘。美琴もきっちり鍛えとけよ」


 言いながら、さらにページをめくる。次からはまた、この異世界に関する文章が続くらしかった。だが、ところどころ不自然な空白があり、後半ともなるとほとんどが白紙の状態である。だが、最後の数頁だけ、少々いびつな形の日本語の文が書かれていた。


「あ、賢者からの手紙だ」

「えっ」




“ おそらく、夜のうちにこの本が見れるほど、君たちは夜目が発達していないだろう

僕と出会った、次の日にでもこの手紙を見つけていてくれると助かる

君たちには不完全な自己紹介と、この世界で生きていくに有効そうな服装に着替えさせることぐらいしかできなかったね

ここから先、僕が君たちを召喚するにあたって、君たちに付与した能力を教えるよ ”


“ まず、マコト

マコトの能力は『身体能力向上』だ

これだけだととても貧相かもしれないが、その気になればそこらの木より高く飛ぶことができる

あと、いくらかの基本能力を底上げして、大抵の武器は扱えるようにしておいたよ

最も、君のもとの筋力なんかをベースにしているから、いきなり達人クラスなんてことはない ”


“ 次は、ミコト

ミコトの能力は『精神力量向上』だ

この本の序文にも書いてあるだろうけれど、この世界には魔法がある……君たちの世界がどうかはわからないけれど

まあ、ミコトの場合、ミコト自身に付与された精神力に、さらにマコトに付与されるはずだったぶんの精神力も上乗せしているから、今の状態だけでも立派な魔法使いと同レベルの力だ

このせいで、多分マコトには初級魔法一回分の精神力くらいしか残っていないだろうけど

魔法の方も、マコトと同じく鍛錬あるのみ……理由は、同じく ”


“ 最後にトリル、君はとても特殊な例だ

トリルの首輪には、トリル自身の肉体強化、体力向上、魔力抵抗力向上の力を付与している

まあ猫だし、お爺さんだし、それぐらいしないと身体があっという間に限界を迎えてしまう

あと、トリル自身の意志で人間に近い形態や、戦闘形態になれるようにしておいた

猫であることの名残はどこかに必ず現れるだろうけど、なんとかうまく活用して欲しい

ちなみに、動物の身体の一部を持っている人間よりの種族もいるからそこらへんは安心して ”


“ とりあえず、今伝えたかったことはこのくらい

あとは、君たちがこの世界での生活に慣れてきたら、また僕自身が君たちの前に現れよう

では、そのときまで ”




「「『…………』」」


 賢者の手紙を読み終えた三人は、まず、ぱたんと本を閉じた。


「これは、うん、あれだ。生き残るために必要とはいえ、王道まっしぐらのチート設定だな」

「チート、って?」

「まぁ……超いんちきイカサマズルまっしぐらな存在。うん、ちょっと美琴そこ立ってな」


 そう言って、真琴は荷物を美琴に押しつけ、マントを近くの木の根っこに引っかける。改めてマントの下の服装を見下ろして、真琴は困ったような、何とも言えない表情を浮かべた。


「こりゃあ……剣士とか戦士ってよりゃ、盗賊みたいだな」


 まあいいか、と楽観的に言って、真琴は軽くその場でジャンプする。ずいぶんと身体が軽く感じられ、実際、飛ぶ際に膝を胸の前にまで引き上げるようにしてみると。


「お、お姉ちゃんすごいよ!? 一メートル以上……ってか私の身長並に飛べてる!」

「ふむ、ほとんどヒキコモリ状態だったあたしでもこのレベルの運動能力か……すげぇな」


 あと、軽く周囲を走り回ってみたり、慣れない木登りに手を出してみたり、近くの枝にぶら下がって鉄棒技を連続で披露してみせるなど……美琴から見て、真琴はあり得ないほどの華麗な動き、俊敏な動作をしていた。


「あ、えっと、私も魔法とか使える、のかな? やっぱり」

「そういう力を渡したっていってたよな。でも、分かるのか? 分かるのならスーパーチートだな」

「ち、チートって言わないでよ!」


 うっすらと汗をかき、息を乱している真琴にからかわれつつ、美琴はゆっくりと目を閉じて胸に手を当てた。姉の影響で、多少はファンタジーの小説や設定などもかじっている。瞑想、と呼べる状態を、自分なりにつくりだしてみたのだ。


「ん、んー……わかんない」


 けれど、やはり感覚は現代日本の中学生。そう簡単に元の世界にはなかった気配を探ることなどできなかった。


「あー、魔法に関しては、なんか本の方に書いてなかったか? 初歩中の初歩みたいなこと」

「でも、虫食いだらけですごく読みづらかったし……」

『ふむふむ、おお、数行だけじゃが、ここのところは完璧な文として書いてあるぞ? ほれ』

「ていうか、何気にトリルも文字が読めるようになってるっつーのが、またチート……」


 ぶつくさ言っている姉は放っておいて、美琴は本を開き、トリルが小さな前足でぽんぽんとページの一カ所を叩いている箇所を眺めた。




“ 魔法とは、世界に影響を及ぼす『術』の総称である

人は己の精神力を、魔物は己の魔力を、精霊は己の霊力をもとに、それぞれの体系にあった術を構築する

魔力と霊力は相反するが、精神力は双方ともと同調しやすい

よって、人はそれぞれの力を己の精神力に同調させ、行使させることが出来る唯一の種族である

しかし、奢るなかれ……霊力に同調しすぎれば感情を失い、魔力に同調しすぎれば破壊を求める

己の力の限界を知り、その力を活用せよ ”




「ここからは、ほとんど何も書いてない、かぁ」

『しかし、大体魔法の概念がわかったのう。この書き方からするに、この世界には人間と魔物と精霊という種族が暮らしておるのかの?』

「だとしたら、トリルが変身できるらしい動物の身体の一部を持ってるのは、どこに該当する種族なんだろうな」


 首をかしげてトリルを見下ろす真琴は、しばらく震えるトリルの髭を眺めて、はたと思い出す。


「あ、賢者の手紙に『人間よりの種族』ってあったっけ」

『ふむ、曖昧だのう』

「そんなもんなんだろうさ。さて、ここいらでチート機能も確認したところで……」

「だぁから、チートチートって連発しないでよお姉ちゃん!」

「では異世界からの旅人で」

「……恥ずかしくない?」

「そんなもんノリで忘れられる」


 頭を抱える美琴に、真琴はニヤリと笑って、すぐに真剣な表情を浮かべ直した。


「このままこの森に居座ってても埒があかない。ここは、あの賢者が言っていたとおりの町に行ってみよう。さっきの地図と、磁石と、トリルの本能で」

『ふむ、この十八年、家の中からほとんど出たことのない儂じゃぞ? そんな儂の勘が一体どこで頼りになるのかの……』

「落ち込むなって、トリル爺さん。きっとトリル爺さんも気付いてない力があるさ、多分、おそらく」


 推測の言葉をこれでもかと並べ立てて、むしろトリルの気力を削ぎまくった真琴は、美琴から非難の視線を浴びせかけられながらも自分で考えた注意事項を口に出していく。


「あと、あたしと美琴は下の名前だけで通すことにしよう。たーぶん、あの賢者の雰囲気からして、日比谷なんて家名そうそう無いだろうから」

「西洋ファンタジー、てこと?」

「だな。まあそこらへん詳しいことは町の様子見てから決めるけど……あと、トリルのこと」

『ほっ?』


 急に自分の名前が真琴の口から飛び出してきたことで、トリルはまた言葉責めか、と地に伏せたまま身体を震わせる。


「トリルは、最初のうちは人間にもならないで、ただの爺さん猫ってことにしておきたい。人の言葉もしゃべっちゃダメだからな」

「え、なんで? トリルが人間の姿だったら、やっぱりおじいちゃんになるんだろうけど、そっちの方が保護者がいるって感じで楽じゃない?」


 美琴が頬を膨らませながら抗議するのを、真琴はほおをぽりぽりと軽くかきながら答えた。


「トリルが人間の姿になったとして、動物の身体の一部をもった種族が、この世界で、というかこれからあたしたちが向かう町でどんな扱いを受けてるか分からないだろ? もし、迫害なんてされてる状態だったらどうなる。あたしら全員リンチで即死だぞ」

「う……」

「そういうこと。トリルみたいな種族がどんな扱いを受けているか……それがしっかりと確認できたら、トリルにはあたしたちの保護者ってことで動いてもらう」

『ううむ、それは、構わないのじゃがのう……儂が保護者か』


 真琴の出した結論に、トリルは渋った様子で呻く。トリルにとっては、自分は彼女たちよりも数年早くに生まれただけで、飼い主である彼女たちに衣食住をすべて頼り切りっていた存在なのだ。それなのに、人間の姿の時には保護者になれなど。


『儂にそんなことができるかの……』

「トリルはずっと母さんとか父さんのこと見てきただろ? あんなふうに、人間の時は接してくれればいい。あと、人間の老体がきついようだったら手も貸すしな」


 さらりと言って、真琴は伏せていたトリルを軽く拾い上げる。広げていた毛布をたたみ、本ともども鞄の中へ押し込んで、美琴にトリルを押しつけた。


「美琴はトリルと一緒に行動な。あたしはこっちの荷物持つから」

「あ、私も持つよ! だって、こんないっぱい重いんじゃ」

「あたしがどんな特性もらったか、忘れたかい? この鞄、今のあたしには手提げポーチくらいの重さくらいにしか感じられないんだから」


 言って、しぶしぶトリルを抱きかかえた美琴の頭を、ポニーテールの形を崩さないようにしながら撫でる。よし、と気合いを入れて深呼吸をして、真琴は意気揚々とその場を歩き出した。


「……ちょ、お姉ちゃんマント! マント忘れてるよ!」

『やれやれ、こりゃ冒険の方は姉任せ、生活の方は妹任せになりそうじゃな』


このとおり、今回は異世界の知識をひけらかすお話し。よくある説明文です! なんだったら今は読み飛ばしても構いません。いや構うのか?

そんなわけでトリルもガンバルゾー。

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