(3) ~ 「不安だなぁ」
毛布を被って二言三言つぶやいたかと思ったら、あっという間に寝入ってしまった真琴に、美琴とトリルは目をあわせた。
「……ねぇ、トリル。お姉ちゃんって楽観的すぎない?」
『確かにのう。もうちょっと混乱してもいいと思うんじゃが』
「だよね? 私があそこであれだけテンパってたの、全然変じゃないよね、むしろ普通だよね!」
『み、美琴、声が大きいぞ。真琴が起きてしまうわい』
「あ、ごめん」
美琴は一度口を閉じ、姉の呼吸音を聞きながら幾らか気分を落ち着けた。
「……それで、さ。ここ、本当に異世界、なのかなぁ」
『うむ、儂らのいた世界とは、まず匂いからして違うからのぉ』
「匂いで世界が分かるの?」
『ここは、怖いところじゃ』
ぼそぼそと告げられたトリルの言葉に、美琴は無意識のうちに身体を震わせる。
「怖い、の?」
『なんだか、分からないものが多すぎるのじゃ。儂だって、琴音……美琴たちの母親に飼われ始めたときは、まわりが分からないものだらけでのう。あのときとそっくりな気分じゃ』
「……それって、単に急にまわりの環境が変わったから、じゃないの?」
美琴の小さな落胆が込められた言葉に、トリルは髭を震わせる。
『む、い、言われてみれば……そうかもしらんの』
「はぁ……生きて、って、私たち、まだ子どもなのに」
消えてしまった、少年の姿をした賢者の言葉を思い出し、美琴はため息をつく。
いつも通りの朝、美味しそうな朝食、突然響いた鐘の音、光、光、ヒカリ……。
『とにかく、今は真琴のように身体を休めるのが先決じゃ。ほれ、今日は美琴も早起きだったのじゃろ? 寝なされ寝なされ』
「うぅ、はぁい」
自分の中での質疑応答は明日に持ち越し。姉とともに、今後のことを考えなくては。
……いや、自分が中心となって決めることになるか? と美琴は目をつむりながら、うっすら冷や汗を流した。
今回はほとんど独白、間章みたいなものです。