(22) ~ カミングアウトは複雑かも
「…………」「…………」「…………」
「って、え、何、それなに? え、マコト?」
「お姉ちゃん……」
後日、支部長室。
フィンコードの森での依頼を終え、依頼料だのなんだののやりとりも完了し、さて一応支部長たちに報告してこようとなったところで、開口一番。
「あんたら、あたしたちが悪霊と会うって知ってただろう」
沈黙。ゴーディス、タリハラ、グスタフの三名は、含み笑いを浮かべたまま何も言わない。だが、すでに呼び出されていたらしいランギス、カミン、ティアゴの三人は、それぞれどこかばつが悪そうな表情を浮かべていたため、答えは明らかだった。
「あたしやミコトは、この町の中の情報を集めるだけで精一杯だったからな。イーエンの方は知らんが、こいつの性格だとあたしに付き合っての鍛練ばかりで情報収集を怠った自滅だと思っているが」
「ぐさっ」
「行った後、ちょいとフィンコードの森に関することで調べてみた。例の依頼をしてきたグループとやら以外からも、あそこに関してはそこそこな苦情というか、危険だという勧告をしているところもあった。その勧告の中に、悪霊が絡んでいるかもしれないという記述があるものがあった。それも複数。フィンコードの森は『荒神の槍』の管轄でもあるんだろう。森で起こっている異変が、ただの自然現象なのか、それとも悪霊絡みなのか、調べていないわけがない」
「結構。そう、私たちは知っていたとも。その上で、君たちの実力と悪霊との力を見極めた上で、成功してくれるだろうと確信を持った。だから、この依頼を受けさせたのだよ」
しゃべり続けるマコトを片手で制し、グスタフが静かな声で答える。
「ランギスやティアゴたちにも話はしていた。話をしたと言うだけで、彼らに決定権等は無かったがね。彼らは君たちのことをひどく心配していた。彼らに非はない。彼らが君たちにこのことを伝えなかったのも、私たちが口止めをしていたからだからな」
「……ふーん、で、そこまでしてあたしたちの実力を計って、一体どうするって?」
うろたえるミコトとイーエンのことは放っておいて、マコトは一人、淡々と話を進めていく。その姿勢に好意的な感情を抱きつつ、グスタフはゴーディスへと視線を向けた。
「では、支部長から彼女たちに」
「ああ。今回のものは少しばかり異例の形となったが、実力を計る分には十分すぎる試験だった、……そういえば、マコトの方はわかるかい?」
「…………え?」
今度は、マコトがきょとんとする番だった。『試験』。その一言で、この依頼達成にどんな意味が込められていたのか、察してしまったが故に。
彼女が理解した上でその表情だと言うことに気付いたゴーディスは、その後ろでパニックに陥りかけているミコトとイーエンに声をかけた。
「ミコト、イーエン、落ち着きなさい。マコトだけが聞く話ではないのだからね」
「は、はひっ!?」
「え、ええと、結局、その?」
戸惑う二人の声に、一拍遅れて、マコトの解説が入る。
「……つまり、試験ってことは、この依頼はギルドランクに関するものってことか? 例の、実力判定試験のような。しかも、異例……ああ、『デル』のランクは試験が必要ないはずなんだもんな。ていうことは、あー、異例だらけじゃねーか」
「え、判定試験?」
話の筋を理解した二人の動作の一切合切が緊急停止する。ゴーディスは、そんな少年少女たちの様子をおかしそうに眺めながら、解答を述べた。
「マコトもミコトもイーエンも、ランクを上げるためにはこなした依頼が少なすぎてね。ただ、実力だけはランク以上だと、君たちに関わった人達から聞いていたから、こんな乱暴な手段をとらせてもらった。おめでとう、ミコトとマコトは今回の試験にて『デルの2』、イーエンは『デルの1』に昇格だ。そして……」
ゴーディスがそこで言葉を切ると、壁際で直立不動のままだったランギスが、素早く支部長机へ近づいた。マコト達に向き直り、続きの言葉を口にする。
「今日から、君たち三人をグループの一員として引き受けることになりました、『白刃』リーダーのランギス=ドルトメアです。って、改めて言うことでもないんだけれどね。イーエンもまたグループ所属になっていなかったみたいだから、勝手に引き入れさせてもらったよ。さすがに『デルの1』で所属無しはキツイからね」
「あっ、ありがとう、ございます……」
なにやら急展開の中、さらにランギスと同じく壁際にいたカミンとティアゴが近づいてきた。
「そういえば、こいつも確保したからね。『ソロン』ランクのくせにフラフラしてたとか信じらんないんだけど!」
「いや、俺団体行動苦手っつぅか、まあ単独でもたまにどっかのグループに混じって、依頼料のおこぼれもらえればラッキーとかそれぐらいしか考えてなくて」
「そういうの意外と困るのよ! あんたの性格からして、計画練ってたグループに無理矢理ねじこむなんて馬鹿な真似はしてないと思うけど、それでも無所属のヤツのぶんまで考えて行動するのって難しいんだから。責任のやり場とか。……て、まあそこらへんはいいとして」
カミンはがっしとティアゴの肩をつかんだまま、この場にいる誰よりも満面の笑みを浮かべて告げた。
「マコトも、ミコトも、イーエンも。ようこそ『白刃』へ。これからもまたハードな生活になるわよー。なんてったって金欠だから、うちのグループ!」
「「…………」えーと」
「ミコト、何も言わなくてイイから。そんなめっちゃ責任感じてますみたいな目で見ないで。もとは全部ランギスの判断……いやでもマコト達拾ったのは思わぬ収穫って感じで、いやもう結果オーライ? だからそこホント、笑って笑って!」
『金欠』という言葉に反応して、一気に表情を暗くさせたミコトに対し、カミンが慌ててフォローをする。その隣でぽりぽりと頬をかいていたランギスは、くるりとその場で身をひるがえすと、ゴーディスたちに向き直った。
「では、支部長。話はこのあたりで?」
「ああ、あとは明日にでもゆっくり、メンバー同士で話し合うといい。」
穏やかに答えたゴーディスに一礼して、ランギスはぎゃいぎゃいと騒いでいるカミンやミコトたちを部屋から追い立てた。そして、『白刃』に所属するメンバー全員が支部長室から出たところで、ずいっと目の前に現れた仏頂面のマコトに目を丸くする。
「……なんというか、いいのか? こんな特例ばっかりやらかして」
「うーん、これを決定して実行したのは、あのお三方……というか、支部長と総括師長だからね……彼らに逆らえる人材なんて、この町周辺にはそんなにいないし、しかも内部事情だし」
「そーか」
マコトは相変わらずの仏頂面で頷くと、まだ何かと興奮していてやかましいイーエンの頭を殴り飛ばし、ミコトの口を塞いでズルズルと引きずっていった。その後ろを「待っとくれー」とよろよろ歩きなトリルが続く。イーエンは気絶しかかっているし、ミコトは段々顔色が悪くなっていくが、マコトのことなのでちゃんと手加減はするだろう。
「さて、彼らは彼らで、細かな指示はまた後日出すことにしよう。あと他の面々も呼んで労いと歓迎のささやかなパーティでもしてあげようかな。頼めるかい、カミン」
「いいわよー、なんならコイツに『白刃』ルールもいっしょくたに叩き込んでやるわ」
「げ!?」
「それは心強いね。じゃ、任せたよ」
「ちょ、待て待て待て!!! おい、ランギス!? この女ぜってぇ体罰つける、覚えろっつって俺が前衛であるのをいいことになんか打撃系の魔法打ち込んでくるぎゃああ!!!」
「うっさい黙んなさいっ! ほーっほっほ! やったわフォートランに続いて下僕二号の調達よっ」
「ざざざざけんなぁあああ!!!」と叫ぶティアゴは、カミンに何か浮遊系の魔術をかけられて、マコト達と反対方向に向かっていった。それぞれ同僚となった者達の姿が廊下から見えなくなったところで、ランギスはすぐ側にある上り階段を目指す。
(で、私はまたダラダラと書類仕事……はぁあ。レイチェルにまた苦労かけるなぁ)
今もせっせと『白刃』に割り振られた作業部屋で、細々とした仕事を続けているであろう本職:神官の仲間を思い、ランギスは軽く頭を振った。
やっぱり、気晴らしにパーティくらいしなければ、やってられないかもしれない。
というわけで、初クエストのお話しは一件落着。
こうやってちょいちょいランクは上がっていきますよーと。ていわれても、実は『デルの3』ってかなり下っ端なイメージなので、彼らくらいの年齢でも『デルの2』くらいは普通なんです。ほらいきなり出てきたイーエンだって『2』からだったし。
『デル』ランク内での壁は低いのですが、『デル』から『ソロン』へアップする道がちょいと険しいのですよ。
てなわけで、ギルド内での居場所も(ほとんど分かっていたようなものとはいえ)正式に決定しましたーわー。
……さて、次回からまたダラダラ別のクエストをやらせるか、間話を書くか、それとも次のブロックの話を書くか。