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現代っ子パーティ・クエスト  作者: 空色レンズ
第二部:ギルド『荒神の槍』
17/23

(17) ~ フィールドへ、マコトの鍛練

 なぜだか、この辺のギルド内でもかなりな有名人であり有力者であるグスタフの弟子という立場を極秘で与えられたミコトは、その日からカミン、またはブルブとともに彼のもとを訪れるのが日課になった。

 その間も、借金返済のため低ランクな依頼を受けて、しかし単独行動なためにあまりいい収入は得られていないマコトは、最近ギルド内で知り合ったナイフ使いに鍛練場へ行かないかと誘われていた。


「あんたの妹が魔法の特訓してるっていうなら、こっちもしばらく依頼は休んで、鍛練でもしたらどうだ?」


 イーエン=カルトというそのナイフ使いの少年は、マコトよりも一つ上の『デルの2』ランクの持ち主で、以前マコトが低ランクの依頼を受けようとしたときに「その依頼は俺が先にやるはずだった」と依頼の取り合いをしたこともあったが、今では同年代のよい友人という関係に落ち着いている。


「鍛練、なあ」

「マコトは魔法使わないんだったら、得物あるんだよな? それとも素手か?」

「一応、棍を持ってはいる。ただ、鍛練場じゃ見学しかしたことがないな」

「げえ、もったいねー……と言いたいとこだけど、確かにあそこは女が寄りつきやすい雰囲気じゃねーもんなぁ」

「飛び散る汗に、ぶつかり合う筋肉だもんな。男の匂い満載」


 その光景を思いだし、ちょっと遠い目になる二人。とりあえず、単純に身体を動かすだけでもというイーエンの言葉で、その日はマコトも依頼を休み、トリルを連れて鍛練場へ行くこととなった。魔法使いの鍛練棟と同じように、マコトがいた世界で言うコロシアムやドームグラウンドのような鍛練場も、受付で予約や場所取りが必要らしく、そこらへんはすべてイーエン任せにしていた。


「あ、マコト、こっちこっち」


 受付前で合流したマコト達は、受付の者に使用可能スペースへと案内された。このグラウンドでは、特に決められた武器を使うわけではなく、壁際で両手剣を素振りしている者もいれば、鎖鎌で案山子に斬りかかっている者もいた。ようは自主練用のフリースペースである。


「さて! それじゃーマコト、軽く身体ほぐしたら手合わせしてみようぜ!」

「……あたし、まともに手合わせとかしたことないんだが」

「マジで? うーん、じゃあ別個で全部練習するか? それもまたなぁ」

「いや、いい。勘で動くから。とりあえず、お前はそっちの的でナイフ投げするとして、あたしはこの案山子相手に……踏み込みの練習でもするか」

「そこからかー! いやでも素人なら、あっちに棍の使い手いるし、聞いた方が」


 すでにイーエンの言葉を聞いていないマコトは、背負っていた棍を組み立て、トリルを離れた場所に放し、軽くその場で振り回した。それほど速く振るっているわけでもないのに、鋭く空を切る音が響く。


「……うーし、本能のままに」

「かっこいいけどさー、人の話聞けよー」


 イーエンの呆れかえった声も、マコトの耳には届かない。今の彼女が思い浮かべるのは、賢者の言葉と、以前路地裏で男達を角材で撃退した記憶。

『大抵の武器は扱える』。


「ハァッ」


 鋭く息を吐いて、半身で棍を構えたまま、左足を案山子に向けて踏み出す。一、二、と数えて、加速した勢いをのせて棍を下から上に振り上げる。棍の先端は過たず案山子の頭部を捉え、頑丈に繋ぎ止められていたはずのそれを、いともあっさりとはじき飛ばしてしまった。

 ぽーん、と放物線を描き、やや離れた場所で棍の素振りをしていた男性の側に、案山子の頭部が落下する。イーエンはもちろん、周囲でその瞬間を目撃してしまった他のギルド員たちも、あまりの光景にぽかんと口を開けて突っ立っていた。


「……やばいな、吹っ飛ばしちまった。これ、弁償か?」


 当の本人は自分がやらかしたことについての自覚は一切無いらしく、やや困ったような表情を浮かべてイーエンを振り返った。


「いや、的とかはよく壊れるから、とりあえず、受付に申請しとけばいいんだけど……案山子、案山子が壊れたかぁ……」

「なんか問題が?」

「問題っていうか、さあ。普通にすげーよ、なんだよ、全っ然踏み込みとか素人っぽく無かったぜ!? あそこでフェイント無しに一直線っていうのが、まあ素人っぽいっちゃあ、ぽかったけど」

「あー、無理無理。今のやつ、前にやった奇襲の方法思い出してやっただけだから」

「奇襲?」

「曲がり角で待ち伏せして、向こうが顔出した瞬間に顎をガンッと」

「うっわ」


 さらりとかまされたマコトの発言に、「一体どんな喧嘩やらかしてたんだ……?」とイーエンは心の中でつぶやいた。


「ま、まー、うん、すげぇ俺から見ても筋はいいっていうか、十分すぎるくらい力あるから……やっぱお前誰かに習えって。ほらっ、あっちの案山子頭拾ってくれたおっさんとかこっち来てるし!」

「おっさん言うな坊主。にしても、俺だってまだ全力出したって案山子の頭飛ばしたことはねぇぞ? 嬢ちゃん」

「……女の子のこと嬢ちゃんって呼ぶあたり、やっぱおっさんじゃん」

「黙れい」


 黒塗りの棍を肩に担いで、案山子の頭を小脇に抱えて近づいてきた男は、自分よりも頭二つ分ほど小さいマコトを見下ろし、不思議そうに首をかしげた。


「嬢ちゃんにその棍は長すぎやしないか? 俺のとそう変わらんだろう。重さもありそうだし」

「いや、結構使いやすいと思うけど」


 誰もいない方向へ向けて、もう一度軽く素振りをする。元いた世界での鉄棒よりも二回りくらい太いが、なぜだか手汗で滑って取り落としそうになる、ということもないし、重さもちょっと大きなフライパンを持っている感じなのだ。五十センチほど間を開けて両手で支えれば、全く苦もなく振り回せる。

 どれ、と興味を示したらしい男は、自分の棍をイーエンに預け、マコトの棍を貸して欲しいと頼んだ。彼が武器を奪うような人には見えず、純粋に好奇心からというのが態度から分かっていたので、マコトは別段拒否もせず、素直に棍を手渡す。すると。


「ぐおっ!?」


 マコトの手を離れ、男の手に棍が渡った瞬間、男はひどく驚いた表情になって棍から手を離してしまった。あ、とつぶやくマコトの目の前で、マコトの棍はガラン、と音を立てて地面に転がった。


「ちょ、おっさん、人の得物落としてんじゃ……!」

「いやー、驚いた。おい坊主、お前もちょっとこれつついてみろ。いいか、握るなよ。お前なんだかそんなに耐久なさそうだからな」

「はあ?」


 何言ってんだ、とでも言いたげな表情を浮かべたイーエンだったが、マコトが肩をすくめて「好きにすれば」と小さくつぶやいたのを聞き、男の棍を返して、倒れたマコトの棍を……注意されたにもかかわらず握りしめた。


「おいっ!?」


 男の慌てた声が響く。だが、すでにそれはイーエンの耳には届かなかった。イーエンは棍を握りしめ、茫然と、自身の体の中で妙なうねりが起こっているのを感じていた。


(な?)

「……おい、しっかりしろ」


 と、唐突にうねりは消え、目の前には無表情ながらどこかイーエンを心配しているようにも見えるマコトの顔があった。イーエンの手はまだ棍を握っていたが、その両脇を挟むように、マコトも両手で棍を握りしめていた。


「き、もちわる……うえー、お前、これ一体」

「掘り出し物」


 手を離し、そのまま尻もちをついて頭に手をやるイーエンを見下ろしながら、マコトは軽々と何ともなさそうに棍を持ち上げた。彼女の簡潔な答えに、男は気味悪そうに眉をひそめた。


「そんな無理矢理に精神力を体内循環させようとする棍なんざ、よくまあ持てるな」

「ふーん? 精神力の体内循環って表現は、初めて聞いたな。結局どういうことだ?」


 一旦棍を分解して、背中のホルダーに収めたマコトは、改めて男に問いかけた。イーエンは、まだ尻もちをついたまま復活の兆しが見えない。

 マコトの問いかけに大口を開けてあ然としていた男は、ぐにーっと自身の頬を引っ張って、なぜかこれが夢ではなく現実だという古典的な確認方法をしてみせた。


「マジかよ、ここにいるってことは傭兵志望のギルド員なんだろうが……いくらなんでも、分からなすぎじゃねえ?」

「だから、分からんから聞いてるんだけど。他の人に聞いた方がよさげ?」

「ばっ、俺でもそれぐらい説明できらぁ。けど、なあ……」


 ぼりぼりと無精髭の生えた頬を掻きながら、男はちょっと視線を泳がせた。


「とにかく、一旦鍛練場から出るぞ。こうなったら、俺が嬢ちゃんに教えれる限りの基礎を教えてやる」

「サンキュ。あ、そういえば名乗るのが遅れたけど、あたしはマコト。ランクは思っての通りの駆け出し『デルの3』だ。あっちでちょっと回復してきてるのはナイフ使いのイーエン=カルト。『デルの2』……あ、こっちの猫は相棒のトリルだ」

「おお、俺はティアゴ=ヘラルド。『ソロンの3』だ、よろしく」


 二人は簡単な自己紹介の後、まだ青い顔をしているイーエンを抱えて鍛練場から抜け出した。そんな彼らへ、鍛練場にいた人間はそろって好奇の視線を投げかけていた。


というわけでマコトサイド。いつの間にか友人まで作ってました。

なんとなーく、マコトのほうは男臭い連中が集まりそうな予感。あんまり嬉しくないハーレムだな。


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