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現代っ子パーティ・クエスト  作者: 空色レンズ
第二部:ギルド『荒神の槍』
16/23

(16) ~ マジカルコーチ見参?ミコトの師事先

 賢者がそこで言葉を切ると、しん、と部屋の中は静まりかえった。ぱたり、とトリルのしっぽが一度だけ揺れて、ベッドのシーツに埋もれる。


『生き抜くと言ってものう……それはマコト達が死ぬまで、ということかの? なんだかいやに曖昧じゃな』

『いいや、それに関しては、僕が不正をして君たちに過干渉しないよう情報を制限されているからなんとも言えないけれど……神々が君たちに対して、何かしらの行動を起こすのは間違いないと思うよ。そして、その行動の結果で、すべてが決まるはずだ』

「はぁ、カミサマねぇ。なんだか途方もない話だ」


 賢者の話が大体終わりに近づいたというところで、マコトは呆れ果てた様子で、ばさりとベッドに身を投げた。ミコトも、不安げにローブの裾を握りしめながら、視線を膝の辺りに彷徨わせる。


『僕はね、二人とも』


 と、そこで賢者が再度口を開く。


『今のままじゃ、この世界の人間に存在を感じてもらうこともできなければ、神域へ戻っても、個性なんて無い、ただ「其処に在るだけ」の存在だから……だから、神格化するためにも君たちを召喚した。君たちの世界での人生をめちゃくちゃにして』

「……そう、自覚、あったんだね」

『うん。何人も、こちら側から向こうへ飛ばされたり、向こうからこちら側へ飛ばされてきた人達を見てきたから。だから、君たちがこの世界へ召喚されたときの心の内とか、多少なら察することもできる』


 ただ、淡々と。賢者の言葉は紡がれる。


『でもね、僕は君たちの存在を利用するけれど、絶対に君たちを理不尽な神の遊戯の道具にはさせないよ。君たちのことは、ちゃんと元の世界へ帰してあげる。いつになるか約束できないけれど、ね……』


 そう言って、いつの間にか椅子から立ち上がっていた賢者は、二人と一匹に向けて頭を下げた。突然のことに目を白黒させるマコトとミコトは、しばしポカンと口を開けて間抜け面をさらしていたが。


「え、えと……はい、よろしくお願いします」


 ぼーっとしたままのマコトは放っておいて、ミコトは慌てた口調でそう答えた。ゆっくりと、どこか怯えるような表情を浮かべた賢者の少年が、顔を上げる。


『こんな口約束だけじゃ心許ないと思うけど』

「いや、今のあたしらには十分だ。ま、これで反故にされたらぶっ飛ばすけど」

「お姉ちゃんっ」

『ほっほっほ』


 にやりと笑いながら軽口を叩くマコトの後頭部を引っぱたくミコト、それを穏やかな目で見つめるトリル。

 彼らなら、きっと大丈夫。


『……それじゃ、これを君たちに贈るよ。どうか君たちのこの世界での生活に役立ててくれると嬉しい。どうやら傭兵の道を歩むことになりそうだしね』

「いや、あんたがくれたスペックったらどう見ても戦闘職種向けじゃないかね」

『……うーん、まあまあ、頑張れば他の仕事口も見つかっただろうけど、今のこの世界じゃ傭兵が一番稼ぎがいあるものねー』


 はっはっはとわざとらしい笑い声を響かせて、賢者はスッと両手をそれぞれ、マコトとミコトの前に差し出した。きょとんとそこを見つめる二人の前で、彼の手の平の上に淡い光が集う。


「わぁ」「おお」


 マコトの前に差し出された手の上には、分厚く大きな肩掛けベルトに、二本の筒がくっついているものがあり、パッと見、背中に剣を背負うための鞘のようにも見えた。ただ、筒の中からは剣の柄の代わりに金属棒の先端がのぞいている。

 一方、ミコトの前に差し出された手の上には、今彼女が持っているヴェルホーク解説書に少し似た、表紙に水晶版がはめ込まれた革張りの本があった。背表紙には小さな魔法陣が刻み込まれており、魔導書、というのがしっくりきた。


『マコトには、二分割できる組立型の棍を。ミコトには、君自身の魔法を書き込むよう設定しておいた魔導書を』


 差し出されたものを受け取って、二人は同時に立ち上がる。マコトはさっそく筒から棒を取り出し、一本の棍になるよう連結させる。全長およそ百八十センチ程度の、マコトからしてみればずいぶん長いと感じるものだった。

 魔導書を受け取ったミコトは、表紙の水晶版を撫で、慎重な手つきでページを開いた。今まで現実世界やヴェルホークで見てきたものとも違い、分厚い羊皮紙がそのままくくりつけられている。と、そのうち最初の一ページが光り出し、あの火の簡易召喚魔法陣が書き込まれた。


「わ、わあ」

『それで、その本から魔法陣をミコトが削除しない限り、ミコトと火の元素との簡易召喚は持続するよ。マコトの棍のほうは、あまり力を加えることができなかったけど、この世界でもかなりなレベルの硬度を持っているはずだ』

「ああ、のわりに軽いような……身体の方も、違和感があんまりないし」

『なるべく効率よく、君の身体を内側から強化する精神力を操れるようにする機能もあるから、多分マコトが精神力の扱いに慣れるまで、それが主な武器になるね。剣とか槍の方がよかったかい?』

「いや、最初に使ったのも角材だったしな……長物なら、このギルドでも教えてくれそうな人多そうだったし」


 鍛錬場の様子を思い出して、マコトはうんと頷く。ミコトもその隣で大事そうに本を抱え、賢者を見つめた。


「賢者さん、ありがとうございます」

『ううん、これぐらいじゃ、足りないぐらいだ。けれど、もう僕には助言以外に君たちに干渉することは でき   さ そ……』

「賢者?」


 突然賢者の姿が歪み、声が飛んだ。ひどく驚いた表情を浮かべて、賢者は部屋から跡形もなく消えてしまった。以前、森の中での別れの時とは異なり、まるで誰かに邪魔をされたような、そんな嫌な去り方だった。


「賢者さん、大丈夫かな……」

「……ああ」

『神々とやらも、ずいぶん厳しいものだのう。儂みたいな動物にはあんまりよく解らんが』


 しばらく賢者が立っていた場所を見つめていた二人と一匹は、こんこん、と控えめなノックが聞こえてきたことで我に返った。本を抱えたまま、ミコトが慌てて扉を開く。


「はい?」

「……ミコト」


 そこからぬうっと現れたのは、ブルブだった。相変わらずの暗い表情で、何かを言いかけた彼は、ミコトが持っている先ほど練習に持ってきていたものと異なる本に目を向ける。


「……それ、は?」

「え? あ、こ、これは~」

「旅立ちの時にもらっていたものでね。鞄の奥にしまっていたのを引っ張り出してきたところだったんだよ」

「…………」

「……これは、こないだ行った市場の安売りで見つけたヤツ」

「……新しい、武具、防具、は、登録が、必要、だけど」

「あ、そうなんだ。サンキュ」


 ブルブの指摘に礼を言って、マコトはどうかしたのかと彼に尋ねた。


「……カミン、が、解放された、から。罰則……報酬、三割、カット……二週間」

「二週間も!?」

「……まだ、いい方。ホントなら、二ヶ月、くらい、で……それと」


 こちらの方が重要、とでも言うかのように、ブルブはパタパタと両手を振りながら、ミコトとマコトを指さした。


「カミン、が、支部長に、報告、して……支部長、と、ここの、魔術師、トップが、会いたいって」

「へっ? 私に?」


 自分を指さし、素っ頓狂な声を上げるミコト。こっくりと子どものように大きく頷いたブルブは、ミコトの手を取り、マコトに向けても手招きをした。


「一緒、来て。マコト、も。とりあえず、静かに、話す」

「分かった」


 二人と一匹はブルブに連れられて、ゴーディス達の待つ支部長室へ向かった。部屋にはゴーディスの他にも、この短時間で若干やつれ気味になったカミンに、ランギス、タリハラ、そしてしゃんと背筋を伸ばした背が高く髭の長い老人がいた。


「おお、この子達か。ランギスが拾った変わり種というのは」


 マコト達が部屋に入ってくるなり、老人は厳めしい表情を崩した。新しい人物の登場に、ミコトは頭上に疑問符を飛ばし、マコトはブルブが言っていた言葉を思い出す。


「ええと、魔術師のトップ?」

「ああ、申し遅れたな。私はギルド『荒神の槍』シスタ支部にて、魔術師総括師長を務めている、グスタフ=ビエナートだ。そこにいるタリハラ=メインスコールの直接の上司でもある」

「一応私よりも地位は下ということになっているが、発言力は他の支部にも及ぶほどの方だ」


 丁寧なお辞儀で自己紹介を締めくくったグスタフの横で、支部長の席に座るゴーディスが、苦笑気味に補足した。ミコトは純粋に「魔法使いで偉い人!」ということで、マコトは「タリハラの上をいく人物」ということで、それぞれ頭を下げる。


「マコト、です。ランクは『デルの3』の駆け出しで、借金返済まだできてません」

「み、ミコトです。『デルの3』の魔法使い見習いで、マコトお姉ちゃんの妹です」

「ふむ、それでは早速質問させてもらおう。その見習いだという君が、簡易召喚を成功させたとは本当かね」


 グスタフの双眸が細くなり、部屋の空気が一気に重みを増す。このことを報告した張本人であるカミンは、「ちょっと早計だったかなー」と早くも後悔していた。この姉妹のことについては、彼女たち自身も理解していないようなことが多すぎるので、なるべく分かったことは責任者たるランギスと、一時の保護者であるゴーディスに報告するようにしているのだが。


「あ、はい。なんだか出来たみたい……です?」


 この場の空気を分かっているのかいないのか、ミコトはのんびりとした口調で、若干疑問系で答えた。ふむ、とグスタフは顎に手を添えて一度頷き、ミコトに前に出るよう指示をする。


「私が君の周りに結界を張ろう。その中で、何か火属性の魔法を使ってみるといい。魔力変換の練習はしているのだったね」

「は、はい……」

「ならば、霊力変換も似たようなものだ。本当に簡易召喚が成功しているなら、火を扱おうと意識を傾ければ、自然と精神力のほうが霊力へ変換されるだろう」


 さ、と促されて、ミコトは思わずマコトとトリルを振り返った。一人と一匹は小さく頷き、「やれるだけやってみろ」と目配せする。一度、大きく深呼吸をして、ミコトは手を伸ばし、眼を閉じた。


「……火よ、我が道を照らせ」


 何時間か前に、カミンから教わった詠唱を口にする。あの時、例としてブルブがしてみせた炎の発現を思い浮かべながら、手の平に集めた力を具現化させる。精神力の変換は、やはり魔力変換とは異なった妙な方向へと為されていた。すなわち、霊力へと。

 ごう、と音を立てて、ミコトの手の平からしずく型の炎が現れた。それも一つではなく三つも。眼を開いたミコトは、自分の予想を超えての魔法の効果に「ええ!?」と慌てる。すると、それに呼応するように、炎が揺れた。


「精神を定めよ! でなくば、火の元素が暴走するぞ!!」


 すぐ側から聞こえてきた叱責に、ミコトはハッとして深呼吸をした。先ほどよりも深く吸い込み、深く吐き出す。動悸を落ち着けて、再度目の前に浮かぶ火の玉達を見やり、


「ありがとう、もういいよ」


 ……なんとなく、声に出して魔法行使の終了を行なった。カミンに教わっていた魔術と違い、霊力行使での魔法は、なんだかヴェルホーク解説書に書いてあったとおり一人で行なったという気持ちがしなかった。精霊達の手助けがあってこその、結果。


「…………素晴らしいな。確かに、火の元素と契約が成されている。詠唱や魔法の構造自体は単純で、確かに駆け出しと言えるのだが……ふむ」


 音もなく消えた火の玉に、また茫然としていたミコトは、すぐ隣で自分を見下ろしてきていたグスタフに驚き、小さな悲鳴を上げてすっころんだ。


「何やってんだ」

「び、びっくりしちゃったんだもん」


 駆け寄ってきたマコトに助け起こされて、ミコトはちらちらとグスタフの顔色を窺った。我に返ったグスタフは、照れたように髭をしごきながら一歩距離を開けた。


「いや、すまない。状況も事例も、実際の行使も、何から何まで興味深いものだったのでな」


 グスタフの言葉に、そろって首をかしげるマコト達。あまり事を理解していないらしい二人に、グスタフは周囲の人間の同意を視線で感じ、彼女たちに説明をし始めた。


「いいか? まずミコト、君はそこにいる魔導師カミンから、魔力の制御を教わっていたのだったね」

「はい、とりあえず、精神力の扱いを覚えようってことで……カミンさんは霊力の方の制御が苦手だと言っていたので、魔力制御の方を教わっていました」

「うむ、そこに特に問題はない。ただ、魔力制御の練習中に、火の魔術を行使しようとして火の精霊術を行使してしまう駆け出しなど、私は見たことがない。君は、よほど火の精霊、火の元素に好まれているようだ」

「あ、あはは」


 どう反応してよいか分からずに、曖昧な笑みを浮かべたミコトだったが、さらに深いため息をついたグスタフを見て硬直する。


「最終的に、中級魔法である簡易召喚にまで発展したというし……簡易召喚が行えたということは、今後万全の状態で、より精神を安定させれば、使役召喚も行えると言うことだ。私が知っている中でも、使役召喚を成功させた魔法使いは両手ほどだ」


 ブツブツ、ブツブツと、だんだん説明というか独り言のようになってきたグスタフの言葉に、ミコトやマコトはもちろん、周囲で聞いていた人間も眉をひそめる。


「あの、ビエナート?」


 タリハラが遠慮がちに声をかけると、俯きがちになっていたグスタフは、がばりと勢いよく頭を上げ、ずずいっとミコトに近づいた。


「ミコトくん」

「は、はい!」

「私の弟子になってみる気はないかね?」

「…………はい?」


 その場にいた全員が、この魔術師総括師長の突然の申し出に目を点にした。


さらに、賢者から特殊アイテムをそれぞれもらい受けました。マコトの棍についてはおいおい説明しますが、ミコトのもらった魔導書はいわゆる『ショートカットキー』みたいなものです。今はまだ彼女自身、使える魔法の種類が少ないのであんまり利用されませんが。


そしてそして、ミコトに先生ができちゃいました急展開だね! 大丈夫、今はミコトメインだけど、マコトも次から主役だよ。

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