第八十三話 帰り道
ヒロミは夕飯を買うためにコンビニに立ち寄った。コンビニの前には三人の不良みたいな男子高校生が座りこみ、コンビニで買ったと思われる缶ジュースを飲みながら雑談していた。
横目でチラッと見たが、特に気にすることなくヒロミは三人の前を素通りしてコンビニの中に入っていった。
ヒロミは取りあえず、店内を周りファッション雑誌に目を通してから弁当コーナーに足を運んだ。
「ん~・・・どれを食べようかなぁ。」
一応、カロリーを気にしながら弁当を選んでいたが・・・結局、唐揚げ弁当にした。 レジに向かう前に、500ミリリットルのミネラルウォーターを手に取り精算した。
コンビニを出ると・・・まだ、男子生徒達は座って話をしている一人と目が合ってしまった。
ヒロミは慌てて目を反らして、足早にその場を抜けようとした時、目のあった男子生徒に声をかけられた。
「ねぇ。君一人?俺等、コレからカラオケ行くけど君も来ない?」
声をかけられたがヒロミは無視して走り去ろうとした時、他の二人が立ち上がってヒロミを捕まえた。
「ちょっと!放して!!」
「良いじゃん。奢るからさ。君もバンドしてるんでしょ?だったらいいじゃん。」
そう言って、ヒロミのギターに触ろうとした瞬間、ヒロミは身体を振って手を振り払った。
「触らないで!!」
「そう怒るなよ。向こうで楽しくしようぜ。」
三人はヒロミを囲って、逃げないよう無理矢理連れて行こうとしていた。
「ヤダ!放しなさいよ!誰か!!」
「おい!放してやれ。」
ヒロミが叫んだ時、背後から呼び止める声に全員が振り向くと、時季に反したボロボロのコートを羽織、黒で統一した服を着た男が立って居た。
「あぁ?!誰だよ。テメェは?この時季にコートって、イカレてるのか?」
「俺達はコレから、遊びに行くんだよ。邪魔すんな。」
「そうか・・・遊びに行くのはいいが、嫌がってるヤツを無理矢理連れて行くのは賛同できないな。」
「なんだよ。おっさん!痛い目に遭いたくなかったらさっさと帰んな。」
そう言って、三人の中で一番体格の良い男子生徒が指を鳴らしながら近づいて来た・・・が、それよりも黒ずくめの男は『おっさん』の言葉に反応していた。
そして、殴ろうとした男子生徒が何故か膝から落ちて倒れた。黒ずくめの男が何かした気配はしなかった。
「悪かったな。老け顔で・・・俺はこれでもまだ二十歳だ。」
男は無言で近づいてきたので、もう一人が突進して殴りかかったが、今度は空中で弧を描くように回転して倒れた。
男の歩みは止まらず、だんだん怖くなった男子生徒は、ヒロミを男の方へ向けて突き飛ばした。その拍子で倒れそうになったヒロミを男は駆け寄って支えるように抱いた。
男子生徒はその隙に倒れてる他の男子生徒を起こして、肩に抱えながら逃げるように去っるのを男は見送った。
「あ、あの・・・もう、大丈夫です。」
「あっ!すまない。」
ヒロミの言葉に男は気付いて、慌てて離れた。
男はヒロミが突き飛ばされた拍子で落ちたコンビニ弁当を拾いあげて渡した。
「怪我はないか?」
「だ、だいじょうぶです。ありがとうございます!」
コンビニ弁当を男から受け取ったヒロミは、赤面したまま一礼すると逃げるように走って行った。
それを見ていた男は頭を掻いて、ふと地面を見るとヒロミの生徒手帳が落ちていた。
「さっきの拍子で、落としていったか・・・。」
男はそう呟き、手帳を拾いあげて悪いと思いながら中を開けた。
「・・・工藤裕美か・・・ん?この学校は・・・。」
男は手帳を閉じるとポケットにしまい込み、コンビニの中に入っていった。
「もう!!私のバカバカバカ!!何で逃げちゃうのよ!」
全力疾走で道を走っているヒロミは、後悔と押し寄せる恥ずかしさから逃げるように走っていた。・・・やがて、息が切れ、電柱にもたれかけながら休んでいたヒロミはボソリと呟いた。
「あの人・・・格好良かったなぁ・・・名前、聞いてれば良かった。」
後悔しながらも取りあえず落ち着いたヒロミは、息を整えてから自宅まで帰って行った。
コンビニ袋の中の唐揚げ弁当は・・・落とした衝撃と、急な加速による遠心力で酷いことになっていた。