第八十一話 説教部屋
地下にある狭く薄暗い通路を、千歳が先頭で中村と歩いていた。
「お嬢様。このような場所へ・・・、一体どのようなご用が?」
中村の質問に千歳は少し間を置いて、
「いいから、黙って付いてきなさい。」
そう言って、足早に通路を進み・・・突き当たりの部屋に到着し、千歳は持っていた部屋の鍵を取り出して扉の鍵を開けた。
扉を開けると部屋の中には中央に椅子があるだけで、特に変わった物があるようではなかった。
「お嬢様?」
立ち止まってる千歳に中村が声をかけると、中村の方へ千歳は振り向き椅子の方へ指をさすと、
「中村。あそこの椅子へ座りなさい。」
「・・・?わかりました。」
中村は一瞬戸惑ったが、千歳の指示通りに中央に置いてある椅子に腰をかけた。
「お嬢様?一体何を?」
中村の質問に答えず千歳は無言で扉を閉めると、扉の横に置いてある台からベルトの様な物を手に取りゆっくりと座る中村に近づいて来た。
「お、お嬢様?」
「動かないで、中村。」
そう言って千歳が中村の前でしゃがみ込み、両足首をベルトで固定しはじめた。
足首を固定されている中、中村は言いようのない期待に若干興奮気味だった。そして、足首を固定し終えて千歳は立ち上がると、今度は手首を肘掛けに固定し始めたので、中村は冷静を装いながら千歳に尋ねた。
「お嬢様。コレは、一体どう言ったご褒美で?」
中村の質問に千歳は手を止めて答えた。
「別にあなたにご褒美を与えるつもりは無いわよ?」
そう言って、最後のベルトを力一杯締めてから離れると、壁に掛かっていた鞭を手に取り、再び中村の前に立った。そして、鞭の柄の部分で中村のアゴをすくい上げるように持ち上げて、千歳は顔を近づけてから尋ねた。
「中村・・・。コレからあなたにお仕置きをしようと思うのだけど・・・一応聞くはね。」
「え?お嬢様。私がお仕置きを受ける心当たりが・・・。」
「あるでしょ?」
「は、はい。し、しかし、一体どの事でお叱りを受けるのでしょうか?」
「あなたが思ってること全部よ。」
千歳との会話をしながらも中村は妄想と期待に胸を膨らませて、生唾を飲み込んだ。
「そうね。もし・・・執事を止めると言うのなら、お仕置きはしないであげるけど・・・、それでも止めないと言うのなら・・・受ける覚悟は出来る?」
「もちろん。止めるつもりはございません!」
千歳の質問に、お預けに我慢できない『犬』の様に中村は考えるコト無く、即答で答えた。
「・・・そう。わかったわ。じゃぁ、覚悟しなさい。」
そう言って、千歳が離れると、中村は目を輝かせながら期待で満ちあふれていた。
しかし、千歳は中村に背を向けたまま扉を開けた。その瞬間、中村は自分の目を疑った。・・・扉の奥から筋肉隆々な屈強な白人男性達が入ってきたからだ。その姿は、黒いレザーマスクと純白のブリーフ姿という異様な出で立ちだった。
「お、お嬢様?そ、その者達は?」
期待に胸を膨らませていた中村は、急速に不安と身の危険を感じて声を震わせながら千歳に尋ねた。尋ねられた千歳は笑顔で振り向くと、
「安心なさい。あなたには一切、手を触れないから。じゃぁ、後はお願いね。」
「Yaー。」
部屋を出る千歳に任された男達は白い歯を覗かせながら微笑んで承諾すると、扉を閉めた。
「お、お嬢様!お嬢様ぁぁぁ!!!」
千歳を呼ぶ中村の断末魔と共に閉じられた部屋から、肉体と肉体がぶつかる音と共に、布が破ける音が響いていた。