第七十七話 寸法
自己紹介を済ませたマキは、白夜の周りを回りながら観察するように見ていた。
ふむふむっと言いながら観察するマキに、白夜は戸惑いながら視線に辛抱できずに問いかけた。
「な、なにしているのだ?」
「ん?あ~ごめんごめん。つい、クセであなたに似合う服を思案してたや。」
「服?」
「そう!将来、ファッションデザイナーになるつもりなの。」
「ほぉ・・・立派な夢だな。」
「でしょう?」
誇らしげに胸を張るマキの姿に白夜は感心していた。
「あっ。じゃぁ、この子の舞台衣装も作らないといけないのよね?」
「うん。それもかねて、来て貰ったんだ。」
「そうなの・・・。ふ~ん。じゃぁ、サイズ計るから服脱いでくれるかな?」
「ん?わかった。」
「ちょ?!まっ!!」
マキの指示通りに服を脱ごうとした白夜を夕紀は慌てて止めた。
「ちょっと!人が見てるんだから脱いじゃ駄目よ!」
「ん?あ・・・。」
「あはは。素直な子だね。」
「あんたも変な事言わないでよ!」
「だって、可愛い子の嫌がる顔が大好きだもの。」
「真顔で答えるな変態!」
真顔で答えるマキに、夕紀の鋭いツッコミが入った。
叩かれた頭を擦りながら、夕紀の方をジッと見ていた。
「な、なによ?あなたが悪いんだから、あやまらないからね!」
「ん~・・・夕紀もサイズ変わったんじゃない?」
「え?」
マキはそう言って、素早く夕紀の背後に回っり、胸を鷲掴みにした。それを見ていた白夜はマキの素早い行動に正直、「素早い」っと感心した。
「ん~・・・やっぱり、成長してるね~。計り直さないと・・・。」
「ちょ?!ば、ばか、人が見てる・・・。」
「ふふふ。良い表情してるわよ。夕紀。」
頬を赤らめて段々息も荒くなり、抵抗が弱くなる夕紀を見て教室の外から見ていたギャラリーとマキが興奮してきた。その時、周りのカーテンが閉められ、悪ノリしていたマキと夕紀の間に白夜が止めに入った。
「そこまでだ。悪ノリが過ぎるぞ。」
「テヘッ。つい、興奮しちゃった。」
白夜はヤレヤレっと言った表情でタメ息をつくと、顔を火照らしたまま座り込んでる夕紀に手を差し伸べた。
「夕紀・・・大丈夫か?」
「あ、あぶなかった・・・あまりにも気持ちよすぎて、危うく・・・。」
「あやうく?」
余韻に浸っていた夕紀は、白夜の声で我に戻った。
「え?あっ、な、なんでもない。ちょっと、マキ!さっきのテク、私にも教えなさいよ!」
「OK!いいわよ。」
夕紀は怒るどころか、技の伝授を懇願しマキは快く承諾した。その流れに、思わず白夜は流されそうになった。
「ちょっと待て。その反応はおかしい。」
「ん~・・・まぁ、何時もの流れかな?それはそうと、夕紀の方もちゃんと計らないといけないから、服脱いで。」
「え?今?!ダ、ダメよ。人目もあるし・・・。」
「ふふふ。そんなこと言って、本当は好きなくせに。」
「あっ、ダメ・・・。」
「はいはい。下手な芝居もそこまでにして、真面目にしろ。」
ドラマ風のノリで絡む二人を冷めた目で見ながら、手を叩いて白夜が止めた。
「もう。ノリが悪い子ねぇ。」
「白夜ものってくれないと。」
「放置してたら、ずっと続けてただろ?計るなら普通に計れ。」
ぶーぶーっと文句をたれる二人を隅に押していき、白夜は急かすように指示した。
マキは渋々、ポケットから布製の小型の巻き尺を取り出して、服をたくし上げて下着の上から計ってた。
「お?やったじゃん夕紀。バストアップしてるよ。」
「え?ほんと!やった!!」
「でも・・・ウェストも増えてるよ。」
「え?・・・マジ?」
一瞬の喜びが、絶望に変わった瞬間の夕紀の表情が少し笑えた。
「夕紀・・・私の作る服を着るために、ウェストを絞るのよ!」
「え?合わせてくれないの?」
「当たり前でしょ!スタイルを維持するのはモデルの仕事よ!」
「え~?増えたって言っても少しだけでしょ?」
夕紀の答えに、マキは指を振りながら舌を鳴らした。
「甘いわね。その油断が取り返しの付かないことになるのよ。・・・そうね。もし、私の服が着られなかったら・・・この、スリーサイズを大々的にバラすわよ!」
「いやー!!やめてー!!そ、それだけは勘弁して!」
「うふふふ。良い表情だわ。」
「鬼!悪魔!サディスト!!」
「失礼ね。私は鬼でも悪魔でもないわよ。兎に角!やせること!いいわね。」
「ぬぬぅ・・・わ、わかったわよ。絶対やせるわよ。」
「うふふふ。楽しみね。」
二人の会話を聞いていて、悪意に満ちた笑顔のマキに白夜は突っ込もうと思ったが止めた。
「さて・・・次はこの子かな?」
「ん?なにがだ?」
「決まってるでしょ?白夜のサイズを測るんじゃない。」
「なるほど・・・計るのはわかるが・・・何だ?その不安を煽る指の動きは?」
夕紀とマキはジリジリと挟む様に間合いを詰め、身構える白夜はいつの間にか壁際に追い込まれていた。
「それ~!」
「うわぁ!!」
二人はかけ声と一緒に飛びかかり、白夜を捕まえた。