第七十五話 お出かけ
朝・・・白夜は夕紀を見送った後、まだ起きてこない夏希等の為に朝ご飯を再度温めていた。
そうしていると、大きなあくびと共に章仁が起きてきた。
「・・・おはよう。もう、夕紀は出たのかい?」
「おはよう。うむ。今日は、朝練するから早く出ていったぞ。」
「そうなんだ。」
「ほい。ちょうど、温めたから冷めないうちに食べると良い。」
「あっ。ありがとう。じゃぁ、いただくよ。」
章仁は合掌してから茶碗を手に取った。
「しかし、夏希のヤツはまだ起きないのか?このままだと朝と昼のご飯が一緒になるぞ?」
白夜は寝ている夏希の方を見ながら、章仁に問いかけた。
「そうだね。・・・多分、安心しているのと、まだ時差ボケが抜けてないのかもね。」 「ふ~む・・・大変だな。」
「本来、寝起きは良い方なんだけどね。彼女は・・・。」
「へぇ。意外だな。家に帰ってきたとは、結構遅くまで寝てたから。朝は弱いモノだと思ってたよ。」
「まぁ、普段は緊張した状態で寝てたから。そのせいもあるかもね。・・・さて、ご馳走様。美味しかったよ。」
「お?もういいのか?」
「ハハハ。僕自身はあまり食べないからね。そうだ。何時位に出る?」
「ん?あっ、そうか。そうだな・・・。」
白夜は、食器を片付けながら時計の方を見て、
「夕紀の方の用事もあるし・・・コレ片付けたら準備して行くかな。」
「OK。わかった。じゃぁ、僕の方も準備しておくよ。」
「うむ。」
章仁は席を立って、着替えに自分の部屋に戻った。
白夜は食器を片付けて、夏希の分のご飯をラップに包んで机の中央へ並べた。
「コレで良し。さて・・・ワシも着替えてくるからな。」
夕紀の部屋に着替えを取りに行った。互いに行く準備が終わり、居間に降りてくると夏希が眠たい目を擦りながら起きてきた。
「お?ようやく起きたか?まだ、冷めてないはずだからご飯を食べると良い。」
「あ・・・うん。ありがと。・・・何処かでかけるの?」
ボーッと、まだ寝ぼけてる夏希の質問に白夜は苦笑いすると、
「まだ、寝ぼけてるみたいだな。昨日言ってた携帯をとやらを買いに行くから、他に何か買ってきて欲しいモノがあるなら言ってくれ。」
「う~ん・・・。」
夏希はまだハッキリしない寝ぼけた頭を掻きながら考えたが、特に思うこともなく、
「特にないわね。まぁ・・・私の事は気にしないで良いから、今日は楽しんできたらいいわ。あなた。ちゃんと白夜をエスコートするのよ?」
「ハハハ。まぁ、がんばってみよ。・・・じゃぁ、行ってくるよ。」
「えぇ。いってらっしゃい。」
夏希は玄関まで着いていき、小さく手を振って二人を見送った。
二人は家を出て、バス停に向かって歩いていた。
「車があれば運転できるんだけど、長期間家に居ないから管理できないから、こういう時は不便だよ。」
「まぁ、良いんじゃないか?ワシは今の乗り物は結構好きだな。」
「へぇ・・・そうなんだ。意外だね。」
「ん?そうか?」
「あ、いや、割と毛嫌いしてるモノとか居るからさ。」
「フフフ。確かに、溶け込めない奴らはそう言うかも知れないが、ワシは移り変わる世界を楽しんで歩んでるさ。」
「ハハハ。変わってるね。君は。」
そうこう話してるうちにバスが到着したので、二人が乗り込むとバスは街に向けて発車した。
バスの中で窓にへばり付いて外の風景を眺めている白夜の姿を見て、章仁は笑いながら尋ねた。
「そんなに、外の風景が珍しいのかい?」
「ん?あぁ・・・いや。珍しいというか、座って流れる風景を見ていると飽きないからな。」
「言われてみれば、そうかも知れないね。」
二人で外の風景を眺めていると、目的地に到着するアナウンスが流れ始めた。それに反応した白夜は急いで降りるボタンを押そうとしたが、誰かに先に押されてしまった。
「ぬぅ・・・遅かったか・・・。」
章仁は本当に悔しそうにする白夜の姿が、なんだか微笑ましく思えた。
「夕紀が気に入るのも頷けるよ。」
「ん?どういう意味だ?」
「んー・・・夕紀は昔から、可愛いのが大好きだからね。君の仕草に心奪われたのだろう。」
「ふむ・・・コノ姿だからかな。・・・やはり、男の姿の方がよかったか・・・。」
「それは駄目だ!親として、それだけは容認できない!」
穏やかな表情から一変して、怖い表情になった章仁に白夜は少したじろった。
「じょ、冗談だ。本気にするな。」
「そう・・・よかった。」
「ほ、ほれ。もうすぐ停まるぞ。」
「あ、ごめん。つい、取り乱したようだ。」
章仁の地雷を踏んでしまった白夜は誤魔化すように話題をそらした。
バスは目的地に停車して、他の乗客に紛れて二人は降りた。
「それじゃぁ、時間がかかる携帯の方を先に行こうか?」
「うむ。そちらに任せる。」
「君に合った携帯が見つかると良いね。」
「あまり複雑な機能の物は勘弁してくれよ。」
「OK、任せて。僕は、こういう物に対しては目が利く方だから。」
「ほぉ、それは心強いな。期待してるぞ。」
二人は割と打ち解けた感じで会話しながらゆっくりと歩いて、目的の店に向かった。