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第七十三話  日常


「たっだいまー!!」


元気の良い声で、夕紀が学校から帰ってきた。その勢いのまま、部屋に滑り込んできた。


「ただいま!」

「おかえり。」

「あれ?ママは?」


洗濯物をたたんでいる白夜に問いかけた。


「一足遅かったな。さっき出ていったばかりだ。なんでも、役場に書類申請してくると言って二人で出ていったぞ?」

「二人?・・・あっ!パパも帰ってきたの?」

「うむ。あと、買い物もしてくるって言ってたな。」

「ふ~ん・・・ちょっと残念。まっ、いっか。そうだ。白夜に頼みたいことがあるんだ。」

「頼み?また、ロクでもない事じゃないのか?」


夕紀の頼み事に、疑心暗鬼な白夜を見て苦笑いして誤魔化すと、


「え、えっと・・・真面目な話。実は、一度みんなで集まって音合わせてみようって事になったから、明日の午後三時に学校にこれる?」

「ん?あぁ・・・バンドとか言うヤツか。ふむ。わかった。午後三時だな?」

「よっし!ありがと。じゃぁ・・・ちょっと、着替えたらお風呂行ってくるね。」

「うむ。」


夕紀は自分の部屋に向かい、しばらくして、着替えを持って降りてくると白夜が居る部屋に顔を出して、


「一緒に入る?」


と尋ねると、白夜はタメ息を吐き、


「何もしないなら、入ってやる。」


と、答えると夕紀は二つ返事で頷き満面の笑みを浮かべた。

白夜も大体答えは分かっていたので、諦めてはいた。


「はぁ・・・わかった。着替え持ってくるから、先行っててくれ。」

「へへ~。待ってるわよ。白夜~。」


夕紀は駆け足で、風呂場に向かった。

浴場に白夜が入ってきた時、夕紀が浴槽に浸かって手の甲を眺めていた。それを見た白夜が疑問に思い問いかけた。


「どうしたんだ?手なんか眺めて。」

「え?うん・・・あの、白夜から貰った紋章が、あれ以来浮かんでこないから心配になっちゃって・・・タトゥーみたいで格好良かったのに・・・。」

「たとぅー?」

「あー・・・え~と・・・そう、入れ墨かな?」

「あ~・・・まぁ、入れ墨は古来より魔除けの意味があるから、意味合い的には間違ってないな。だが、私生活では目立つから、消えてる方が良いだろ?」

「うん。まぁ、そうなんだけど・・・こう・・・ある条件を満たしたら発動!・・・みたいにならないかなぁと思って。」


夢見るような瞳で語る夕紀に、あきれ顔で、


「ゲームのやり過ぎだ。・・・まぁ、見えないだろうが御守りには違いない。さっさと、身体洗え。お主はただでさえ長風呂なんだからな。」


腕を組んで文句を言う白夜に、ヤレヤレと言った表情で夕紀が


「わかってないなぁ。女の子のお風呂は長いのよ?」

「はぁ・・・まぁいい、二人が帰ってくる前に夕飯の準備は、しておきたい。」

「は~い。じゃぁ・・・一緒に身体洗おうか?」

「ばっ!一人で洗える!」

「いいの、いいの。遠慮しないの。変な事しないから、後で私も洗ってね。」


う~っ、と唸って嫌そうにしてる白夜をなだめながら、無理矢理座らせて、ボディソープをスポンジに乗せて泡立てた。


「ほらほら、ジッとして。変な事しないって。」

「うー・・・・。」


夕紀は白夜の小さな背中を洗いながら、クスッと笑った。


「どうした?何がおかしいんだ?」

「え?あ~・・・白夜は、イヤイヤ言う割にちゃんと一緒に入ってくれるから、優しいなぁ・・・と思って。」

「断ったら、もっとひどくなるから、諦めた。」

「私は、白夜と一緒に入るのが好きだなぁ。楽しいし。」

「ワシは疲れるがな。」

「へへへ。はい。流すよ~。」

「うむ。」


夕紀は、シャワーで白夜の背中を綺麗に洗い流した。


「うん。綺麗になった。じゃぁ、私もお願いね。白夜。」

「はいはい。ちょっと、待ってろ。」


夕紀からスポンジを受け取ると、ボディーソープをスポンジに乗せて夕紀の背中を擦り始めた。


「へへ・・・なんだか嬉しいなぁ。ちゃんとした姉妹になったんだね?」

「ん?ん~・・・まぁ、そうだな。手のかかる妹だがな。」

「え~!?そんなことないよぉ?それに、傍目から見たら私の方がお姉さんだし。」

「はいはい。・・・このやり取りも、何回目かな?」

「さぁね?でも・・・今回は、ちょっと違うよね?」

「そうだな。・・・よし。流すぞ。」

「うん。」


白夜がシャワーで流している時に、夕紀が呟いた。


「ずっと、一緒だよね?白夜。」


一瞬、白夜の手が止まった・・・が次の瞬間、夕紀の頭にシャワーをかけられ、驚いた夕紀がバランスを崩して白夜の方へ倒れると、


「ずっと、一緒に居られる訳がないだろ?」

「え?」


白夜の言葉に耳を疑い夕紀が困惑した表情を浮かべていたが、白夜は笑って


「ワシは化け物だ。お主が死ぬより長生きするからな、それまでは近くに居てやるから、心配するな。」

「ずるいよ。白夜。ちょっと、涙腺が緩むじゃない。」

「ハハハ。悪かった。さっ、身体温めてから、夕飯の準備するぞ。父親にお主の手作り料理でもてなすぞ。」

「うん。そうだね。よーし!先に頭洗うから、白夜は準備お願い。」

「わかった。早く出てこいよ。」

「うん。」


白夜は、先に出て身体を拭き、服を着替えて台所に向かった。

風呂から出てきた白夜は、米を洗いご飯を炊く準備に取りかかっていた。

しばらくして、夕紀も風呂から出てきた。


「おまたせ~!ママ達はまだ帰って来てない?」

「うむ。・・・早めに取りかかろうか?」

「OK。じゃぁ・・・私、野菜切るね。」

「うむ。」


白夜達が料理を作り始めてから、そう経たないうちに夏希達が帰って来た。


「ただいま。」

「あっ。おかえり~。今、ご飯作ってるから、もう少し待ってて。」

「いいわよ。そんなに、焦らなくても。」


夏希達は、荷物を持って台所に顔を出した。


「ただいま。あら?お風呂に入ったの?」

「うん。白夜と一緒に入ったんだ。」

「ふふふ。相変わらず仲が良さそうね。」

「残念だなぁ。久しぶりに夕紀と一緒にお風呂入りたかったな。」


夏希の後ろから、章仁が顔を出して会話に参加してきた。

章仁の言葉に夕紀は笑いながら、


「やだよ。もう、中二だよ?恥ずかしいもん。」

「な、なんだってー?!」


夕紀に拒否された章仁は、膝から崩れ落ちた。


「そんな・・・夕紀とお風呂に入るのが楽しみだったのに・・・。」

「そんなに残念がることか?年頃の娘だから、当たり前の反応では?」

「去年までは、一緒に入ってくれたんだよ?!」


悲痛な叫びに似た章仁の訴えに、白夜は少し引いた。


「もう!子供じゃないんだし。何時までも一緒に入れないよ。」

「うぅ・・・とうとう、親離れの時期が来てしまったか・・・。」

「ま、まぁ、子供は成長が早いから、温かく見守ることだな。」


激しく落ち込む章仁に、白夜は慰めるように言葉をかけた。


「そうよ。そんなに落ち込まなくても良いじゃない。それに、成長した娘の手料理食べさせてあげるんだから、その間にお風呂でも行ってきたら?」

「そうね。ほら、あなた!夕紀も、こう言ってるんだし、いつまで黄昏れてるの。」

「あ、あぁ・・・ごめん。そうだね。夕紀の手料理が楽しみだ。」

「じゃぁ、私達はお風呂行ってくるから御馳走、楽しみにしてるわ。」

「うん!まかせてよ!」


夕紀の元気な返事に、二人は微笑んでから各々風呂に向かった。


「よーし!気合い入ったし、出てくるまでに作っちゃおうか?」

「フフッ。そうだな。じゃぁ、頑張るか。」


夕紀と白夜は張り切って料理を再開した。その時、野菜を切っていた夕紀が誤って自分の指を切った。


「あいたっ!!」

「ん?あ!指を切ったのか?見せてみろ。あー・・・皮を切っただけだな。ちょっと、待ってろ。今、傷薬持って来てやる。」

「うん。」


白夜は急いで薬箱を持って来た。


「張り切るのは良いが、気を付けるんだぞ。」

「ふぁい。」


涙目で返事する夕紀に、白夜は傷の手当てを終わらせてから微笑んで


「・・・だが、頑張ることは良いことだ。残りは切っておくから、炒めてくれ。」

「ううん。ちゃんと、最後まで切るわ。親に良いとこ見せたいモノ。」

「そうか。わかった。気を付けて切るんだぞ。」

「うん。」


怪我をしても諦めずに料理を続ける夕紀の姿に白夜は感心してみていた。

そして、料理も大半が出来上がった時に夏希と章仁が覗き込むように顔を見せた。


「いいニオイ。」

「本当だ。豪華な料理だね。」

「へへへ。ちょっと、気合い入れ過ぎちゃった。さっ。座って、座って。」


夕紀は、夏希と章仁の背中を押して席まで勧めた。



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