第六話 不運 ※注意!挿絵が有ります
二人は緊張感の張り巡る銀行内で、呆然とソファーに座って居た。
「どうしてこうなった?」
「全くだ。お主、本当に運がないのぉ。」
「ちょ、ちょっと!これって、私のせい?!」
-数分前-
二人が銀行に駆け込んで、構内に据え付けてあるATMから夕紀がお金を引き出し、振り返った瞬間、覆面をして武装してる四人の男性が正面入り口から駆け込んできたのだ。
入ってすぐ、リーダーらしき人物が合図を出すと、三人はすぐさま分かれて、手際よく配置についた。
強盗団のリーダーが一人の部下に指示を出して受け付けカウンターに向かわせた。
その間、仲間が緊張した面持ちで銃を構えて構内にいる客全員を威嚇していた。
かなり手慣れているみたいで、まるで映画のワンシーンでも見ているような感じだった。
その中、退屈そうにアクビをしている白夜がうらやましかった。
夕紀は何か閃いたのか、白夜に小さな声で訪ねた。
「ねぇ、あなたならあの犯人全員倒せるよね?」
夕紀の問いに白夜は、首を横に振った。
「え?なんで?だって、あの時は一瞬で・・・。」
「うむ。あの姿になって良いのなら話は別だが・・・。」
「あ・・そっか・・・やっぱまずいよね。」
夕紀は理解した・・・アノ獣の姿になれば確かに強盗は倒せるかもしれないが、別の問題が発生するのは確実だった。夕紀は残念そうにタメ息をした。
その時、女の人が抱いてた赤ん坊が静寂をやぶるように泣き出した。
女の人は慌ててあやすが、時すでに遅し・・・強盗の一人が銃を構えてゆっくり近づいて着た。
「その赤ん坊を早く黙らせろ!無理なら・・・殺すまでだ!」
怒鳴りあげた男の声で更に泣き声を強めた赤ん坊に対して銃口を向けた。
「やめてぇ!」
赤ん坊を庇おうとする女の人の前に、夕紀が立ちはだかった。
「何だぁ・・・お前?!先に死にたいらしいな!」
怒鳴る男の声と同時に乾いた銃声が鳴り響き・・・騒然とする構内・・・夕紀は力なく座り込んだ。
「な、何だ?テメ・・。」
「たわけが!お主は死にたいのか?!」
男の声よりも、遙かに大きい怒鳴り声で白夜が夕紀を叱った。
間一髪の処で、白夜が拳銃を持つ男の手を横に押して銃口を反らしてくれていた。
夕紀は、目一杯に涙をため・・・震える声で
「ごめん・・・白夜・・・でも…私の目の前で人が死ぬの・・見たくなかったの。」
この台詞に、白夜は呆れた顔で、タメ息をついた。
「それで、お主が死んでしまったら意味がないではないか・・・」
「でも・・・白夜が助けてくれるでしょ?」
涙を流し・・・震えながらも必死に笑おうとする夕紀の顔を見て、白夜はもう一度タメ息をついた。
「まったく・・・困った娘に付いてきてしまったようだ・・・。」
そう言って微笑んだ。その時、白夜の襟首を掴んで犯人が怒鳴りつけた。
「このガキ・・・邪魔するんじゃねぇ!」
「・・・なせ。」
「あぁ?!何て言ってるんだ?!命乞いか?!」
白夜は襟首を掴んでる男の腕を掴んで
「離せと言っているのだ・・・服が傷む。」
そう言って、とても少女の細腕とは思えぬほどの力で握られ、あまりの痛さに男は悲鳴を上げた。
男の手が服から離れた瞬間、白夜は体を右へ一歩踏み出して、みぞおちに掌打を放つと同時に左足で足をかけ、バランスを崩させ後方へ倒し、すかさず男の額に掌打のトドメをさした。
男はそのままピクリとも動かなくなった。
強盗の一人を倒した白夜を捕まえようと、もう一人が襲いかかってきた。
白夜は、素早く襲いかかってきた強盗の背後に回り込んだ。
「この!ウロチョロとぉ・・・逃げ回るんじゃねぇ!!」
強盗は白夜を追うように素早く振り向き、手を伸ばしてきた。その伸ばしてきた手を白夜は両手で絡め取り一本背負いで、受付カウンターに居る強盗めがけて投げ飛ばした。
白夜は投げ飛ばした強盗を追うように走り、二人が重なった瞬間に合わせて蹴りを放った。
二人は受付カウンターに衝突して力なく倒れ込んだ。白夜は間を空けずに、倒れ込んだ強盗の銃を拾い上げ最後に残った強盗のリーダーめがけて放り投げた。
リーダーは、投げられた拳銃をすぐに避けて、白夜がいた方向に銃を構えたが・・・そこには白夜の姿は無く、同時に腹部から重い痛みが走り、呼吸困難に陥った。
リーダーへ向けて放り投げた拳銃に一瞬、意識が逸れた時に体を低くして走り、百夜がリーダーの死角から懐に潜り込み、みぞおちに肘を打ち込んだ。
リーダーはたまらず左膝を地につけた・・・その時、かろうじて耐えてる右膝を白夜は駆け上がるように踏み台にして、膝蹴りを放ち・・・リーダーは、後方に仰け反っり白目をむいて倒れ、白夜は弧を描くように着地した。
落ちた帽子を拾いあげてホコリをはらい、白夜は被り直した。まるで、漫画やアニメのような出来事に全員が唖然としていた。
「すまぬが・・・紐か何か縛るモノはないか?」
白夜は、呆然としている受付の女性に話しかけた。
「えっ?あっ、は、はい!ちょっと待ってね」
我に返った女性は、慌てて縛れるモノを探したが・・・伝票をまとめる短い紐しか出てこなかった。
「ご、ごめんなさい・・・短い紐しかないの・・・。」
「ふむ・・・ソレで十分だ。もらえるか?」
女性は頷くと白夜に短い紐を数本渡した。
「ありがとう。」
白夜は笑顔で受け取ると、気絶してる強盗達の方へ駆けだし、うつぶせにして手を後ろに回し、親指同士をきつく括り付けた。
「これで良し!」
白夜は強盗全員の親指を縛り上げ、ゆっくり立ち上がり、両手を叩いてから夕紀の方へ駆け寄った。
「立てるか?夕紀。」
「う、うん・・・ありがとう」
白夜の伸ばした手を取り起き上がろうとしたが、夕紀の足に力が入らなかった。
「あはは・・・ごめん、腰が抜けちゃったみたい。」
「ふぅ・・・そんな状態になるくらいなら、大人しくしてろ。」
「うっ!ご、ごめん」
あきれ顔の白夜に対して、うつむく夕紀。その横から泣き止んだ赤ん坊を抱えた女性が二人に深々と頭を下げてお礼を言った。
「助けて頂き、ありがとうございます。」
夕紀は申し訳なさそうに、
「私は何もしてませんよ・・・。怖くて、起き上がれないぐらいですし・・・。」
女の人は首を横に振り、笑顔で夕紀の方へしゃがみ込み
「私とこの子の笑顔を守ったのは、間違いなく貴方達のおかげよ。」
ちょっと照れくさそうに笑う夕紀の方へ向けて、手の平を伸ばす赤ん坊は笑顔だった。それを見ていた白夜は、一息ついて夕紀の方を見て笑顔で語りかけた。
「赤ん坊と言うモノは、周囲の感情に敏感でな。お前の行動は、決して褒められた事じゃないが・・・『守りたい』と言う正直な思いは、その子にも伝わっているのだろう。」
そう言って夕紀の頭を撫でた。
「それにしても・・・あなた。まだ幼いのに、大人の男性四人を一瞬で倒してしまうなんて・・・。」
「うっ!?」
女性からの質問に白夜は言葉を詰まらせ、動きが止まった。
その時、銀行からの通報で駆け付けた複数のパトカーが銀行前に集まり始めた。
「ぬっ!やばい!夕紀!!早くここから出るぞ!」
「へっ?なんで?」
慌てる白夜に対して、間抜け面の夕紀に、
「此処での出来事が説明できると思うのか?お主は!」
「痛!イタタタタ!」
白夜は夕紀の左右の頬を引っ張って言った。
「ほら!早く立て!」
「いったぁ・・・あ、ごめん。まだ立てないや。」
「ぬぅ・・・まったく世話の焼ける奴だ。」
そう言って、白夜は夕紀を背負い、銀行員に裏口を訪ねた。
白夜の勢いに押され、裏口の場所を答えた。
「ありがとう!」
礼を言ってさっそうと裏口へと走り去って、銀行を後にした。