第六十五話 決着
一方的に攻める夏希だが、分身の一撃以降、決定的なダメージはおろか、擦ることさえなかった。
次第に息が切れる夏希の攻撃は、ついに止まった。
「ハァ・・・ハァ・・・こっちは二人で攻めてるのに・・・何で・・・攻撃が・・・当たらないのよ?・・・ハァ・・・ハァ・・・。」
最早、夏希の吐く言葉も途切れ途切れになってきた。
「クックックッ・・・サテナ。・・・ホレ、モウ終イカ?」
夏希の相棒の攻撃を躱しながら、まだ余裕を見せている白夜が、ある程度後ろへ進んだその時に、白夜の身体が何かに縛り付けられたように動けなくなった。と、同時に相棒が夏希の元に素早く戻った。
「かかったわね!私が無意味に、タダ攻撃してると思った?貴方ほどのモノを縛るには、ソレ相応の仕込みが必要だったのよ。・・・さて、コレでお終いよ!」
今まで呪符と一緒に投げていた杭が、一つの巨大な方陣になっていた。
夏希は自分の足下に最後の杭を打ち込むと、白夜を縛っていた光りが、より一層強く輝き、やがて細く小さくなると、白夜は封じ込まれて小さな宝石の様なモノだけが残った。
「え?白夜・・・やられちゃったの?」
複雑な心境の夕紀は戸惑いながら、海翔に攻撃していた手が止まった。
「上手く誘導したな。しかし・・・妙に呆気なすぎる・・・。」
夕紀の攻撃をあしらいながら、戦いを見ていた海翔は、余りにもあっさり終わったことに自分の中で、歯痒いさを感じていた。
「終わった・・・のかしら?」
封印した当事者である夏希も、簡単な幕引きに違和感を感じていたが、取りあえず封印した石に近づいて、慎重に拾いあげた。
「逃れた様子もないし、微かに妖力も石から感じるから、成功したみたいね。」
そう言って、気を抜いてタメ息をついた時、
「なかなか、強力な封印術だな。事前に知っていなければ危ういところだった。」
「え?!」
背後から声をかけられて、夏希はビックリして後ろを振り向くと、中途半端な獣状態で幼女化して居る白夜が後ろに立っていた。
「あ、貴方!どうやって、あの術を抜けれたの?!」
「ん?あぁ・・・術が完成する前に、分身を残して抜け出したのだ。・・・安心して気を抜くのを待っていた。」
「そう・・・なの。」
「で?どうする?まだ続けるか?」
不敵に笑う白夜に、夏希は微笑みながら首を振ると、
「残念だけど、あの術は私が持てる最大の術、故に大幅な霊力を消費したこの状態で貴方に勝てる術はないわ。・・・私の負けね。・・・でも、あの術は見せ方事無いはずよ?何故、知っていたの?」
夏希の質問に、白夜はクックックッ・・・っと笑うと、
「実はな。分身を一度戻すと、その分身が持っていた記憶も戻ってくるのだ。」
「な!それ、ズルイじゃない!」
「まぁな。だが、正直、肝を冷やしたのは事実だ。あと少し、遅れていたら今頃、ワシはその中だ。」
白夜は笑いながら、石に指をさした。夏希は大きなタメ息を漏らして、から、座り込んだ。
ソレを見て白夜は、夏希に手を差し伸べて、
「それに、まだ封印される訳には行かないしな。」
そう言って、心配げな表情を浮かべて見ている夕紀の方へと、白夜は目線を向けた。
「・・・そう。わかったわ。」
白夜の横顔を見て、夏希は微笑む、差し出された手を掴んで立ち上がった。
「もう!ハラハラしたぁ・・・でも、終わったみたいね。よかったぁ。」
「まぁ・・・あの程度で封印されるとは思わなかったさ。」
安心して座り込む夕紀の隣で、内心ではホッとして白夜達を見ている海翔だった。
二人が夕紀達の方へと歩いて戻ってくると、夕紀は二人に勢いよく抱きついた。その反動で、思わず後ろへと倒れ込んだ。
「もう!心配したんだから、二人とも!もうこんな事しないでよね!」
「わかった。わかった。だから退いてくれ。互いに疲れてるんだ。」
「本当にわかってるの?」
夕紀は立ち上がって二人の手を引っ張って起こした。
「あぁ、わかってる。ワシも最後の術を受けて、力の大半を持って行かれたからな。」
「え?そうなの?」
意外そうに驚く夏希に、白夜はタメ息混じりで頭を掻くと、
「慌てて脱出したから、残した分身の力加減が出来なかったからな。おかげで、今日はもう、力が出ないさ。」
「お前・・・ソレを、俺の前で言うか?」
呆れた顔で尋ねる海翔に、白夜はクスッと笑うと、
「今なら、お前でもワシが倒せるかもな。」
と、笑った白夜に、海翔はハァ・・・とタメ息を漏らし、
「そんな状態のお前を倒して、俺が満足すると思うのか?何時か、万全な状態のお前を倒す。それだけは覚えてろ。」
白夜の方へ指をさして、宣戦布告する海翔に、白夜は受け流すように、
「はいはい。期待しないで待っておくよ。」
と笑った。そんな白夜を、夏希は微笑みながら見つめている処へ、夕紀が寄り添ってきた。
「ねぇ、ママ。さっき拾っていた石みたいなの見せてくれる?」
「え?コレのこと?」
夏希は夕紀に頼まれて、懐にしまっていた白夜の分身を封じ込めた石を見せた。
「へぇ・・・綺麗な石ね。コレに、封じ込められそうになったんだ・・・白夜。」
もの珍しそうに見つめる夕紀に、夏希は微笑んで、
「封印に失敗したモノだから、夕紀にあげるわ。」
そう言って、封印石を夕紀に渡した。
「え?いいの?」
「えぇ。失敗したモノとは言え・・・強力な妖気が詰まった封印石は、それ自体に魔除けの効果があるの。持っていて損にはならないわ。」
「やった!ありがとう。ママ!」
はしゃぐ夕紀を見ている夏希の隣に白夜が近づいて来た。
「いいのか?」
「なにが?」
「いや、分身とは言え、膨大な妖気が詰まってる封印石を、あんなに簡単に渡して。」
白夜の質問に、夏希は少し目をつむってから、嬉しそうにはしゃぐ夕紀を見つめ、
「大丈夫よ。私だって、確かな保証がなかったら簡単には渡さないわ。」
そう言って、白夜と目線をあわすようにしゃがみ込むと、
「だから、私が居ない間、あの子をお願いするわ。」
夏希はそう言って、白夜の両手をしっかりと握って頼んだ。