第六十四話 手合わせ
一行が乗った怪鳥は、無人の採石場へと降り立った。
「着いたわね?」
夏希が一番最初に降りると、背を伸ばし準備運動を始めた。
「ねぇ?本当に戦うの?」
「うむ。断る理由が見あたらないからな。」
心配そうにうつむく夕紀の頭を白夜は軽く叩くと、
「心配するな。出来るだけ怪我をさせないようにする。」
「何言ってるの!白夜も怪我をしないこと!いいわね?」
夕紀の思わぬ台詞に、面を食らった顔の白夜は頭を掻いて、
「わかった。善処しよう。・・・それじゃぁ、この服を頼む。」
「?!」
おもむろに服を脱ぎだした白夜を、夕紀は慌てて止めた。
「イキナリ何をするんだ?」
「それは、こっちの台詞よ!・・・何見てんのよ!早く降りなさいよ!」
海翔と目が合った夕紀は威嚇するように言うと、その威圧に海翔は慌てて式神から降りた。
「よく考えたら・・・何で俺が降りないといけないんだ?」
海翔は文句を呟きながら、二人が降りてくるのを待っていた。
はぁ・・・と深いタメ息をして、少し気を抜いた時に、隣に獣状態の白夜が降り立ち、少しビックリした海翔が白夜の方へ振り向いた。
「脅かすなよ・・・って、イキナリその姿で戦うのか?」
白夜は海翔の方を横目で見て微笑むと、
「オ主ト違ッテ、余裕ヲ持ッテ戦エル相手デハ無イカラナ。」
そう話して、海翔が何かを言おうとした時、白夜の上に夕紀が飛び降りて背中にしがみついた。
「おぉ?!ふかふかぁ~♪」
白夜の上で顔を擦りつけながら、遊んでる夕紀を両手で抱え上げ
「早ク降リロ。」
と言って、夕紀を降ろした。
白夜は夕紀を降ろすと、神妙な面持ちで立っている夏希の元へと歩いて行った。
「本当にあの時の妖だったのね。」
「当然ダ。ダカラ言ッタデアロウ?」
「普通、あんな可愛い姿から信用出来ると思う?」
「クックックッ・・・マァナ。」
二人はしばらく笑い会うと、夏希が一呼吸置いて、
「それじゃぁ・・・始めましょうか?」
「ソウダナ。」
白夜が答えると、一瞬で空気が張り詰めた。
静寂のなか、最初に動いたのは夏希だった。
白夜に向け、夏希は札に紛らせて楔も一緒に投げて攻撃したが、白夜は素早く避けて夏希の背後に回った。
「クッ!」
背後に回った白夜に、無理な体勢から警棒の様なモノで薙ぎ払ったが、空をかすめて白夜の一撃が、夏希の身体を捉えた。
「イカン・・・ワシトシタコトガ、少シ加減ガ出来ナカッタ。」
夏希の安否を気にかける白夜に向けて、土埃を払うように真空の刃が襲いかかってきた。
「クッ?!」
真空の刃を、辛うじて回避したが白夜の身体をかすめた。
土埃が晴れると、白夜の分身に抱えられて夏希が現れた。
「ホホォ・・・オモシロイナ。本体ニ刃ヲ向ケルカ?」
「貴方がそういう風にしたんじゃないの?」
「ワシガ?・・・イヤ、ソウ言ウ風ニ仕向ケルホド、変態デハナイ。」
白夜は少し、考えながら自分の分身を見つめて、
「フム・・・オ主ノ影響カ。ワシガ余計ナ”妖力”ヲ込メタセイデ、自我ヲ持ッタノカモナ。」
そう言って、白夜は笑ってから身構えた。
「興味深イナ。・・・サテ、続キヲ始メヨウジャナイカ。」
白夜が夏希の居る方へと突撃すると夏希を抱えたまま分身は白夜の攻撃を躱した。
「この子は私の味方で良いのね。」
夏希は土埃が舞う中にいる白夜に問いかけた。
「アァ。ソレガ、ソヤツノ意志ダ。ワシガ縛ル理由ハ無イ。」
「そう・・・じゃぁ、頼むわよ。相棒。」
夏希は少し笑みをこぼしてから、相棒の腕から降りた。
遠目から、海翔の後ろで心配そうに見ていた夕紀が呟いた。
「なんで・・・二人とも楽しそうなんだろ?怪我をするかも知れないのに。さっきだって下手したら、大怪我だったのに・・・見ててヒヤヒヤだよ。」
海翔は二人の戦いから目を離さずに、夕紀の質問に推測だが答えた。
「さぁな・・・俺にはわからないが、あの二人の関係はわからないが・・・戦いを見ていると、昔の師匠との手合わせを思い出すな。」
「はぁ?なんで?」
関係無いじゃないっと言った表情で、海翔を見る夕紀の方へ飛んできた小石を防いでから、
「そうだな・・・まるで、相手の成長を確認するかのような感じだな。」
「ふ~ん・・・私にはわからないや。」
不機嫌そうにしてる夕紀を横目で見て、海翔は鼻で笑うと、それに気づいた夕紀がイキナリ海翔の足を蹴った。
「痛った!?何しやがる!この馬鹿女!!」
「うっさい!なんか、ムカツクのよ!」
白夜達の戦いの他に、もう一つの戦いが始まろうとしてた。