第六十二話 布告
落ち着きを取り戻した夏希は、席に座り、白夜の入れたお茶を飲んでいた。
「一時はどうなるかと思ったよぉ・・・。」
「まぁ・・・得体の知れないのが居たら、普通に警戒はするだろ。」
そう言って、茶をすする白夜を見ながら夏希は、まだ、何処か納得していなかった。
「・・・なんだ?まっだ納得して無さそうだな?」
「あ、当たり前でしょ?イキナリ納得しろって言うのは難しいわよ。」
「まぁのぉ・・・。しかし、子供の頃はあんなに柔軟な考えだったのに、歳を取ったら考えが堅くなったなぁ・・・。」
苦笑いしながら、白夜は茶をちびちびとすすっていた。その姿を見ながらムッとした表情で夏希もお茶を飲み、気まずい空気の中、夕紀は耐えきれずに話を切り替えた。
「あ、あのさ。パパはいつ帰ってくるの?」
「え?ん・・・多分、明後日には帰ってくるんじゃないかしら?」
「やった!久しぶりに家族が揃うんだね?」
喜ぶ夕紀の姿を見て、やっと、夏希の顔がほころんだ。
「そうね・・・。いつぶりかしら?」
「しばらく居るんでしょ?」
「そうね・・・。」
「・・・?どうしたの、ママ?さっきの鈴なんか眺めて?」
「大方、迷っておるのだろ?」
「え?」
白夜は大きいタメ息をすると、
「鈴が原因で悩むなら、その鈴を返してくれてもいいのだぞ?」
「・・・。確かに、そうなんだけど・・・でも、ダメね。いつの間にか、身体に染みついてしまったみたいね。」
夏希は悲しそうな顔で、
「鈴が壊れて、踏ん切りが付いたと思ったけど・・・直って帰って来た時に、正直、仕事のことが頭の中をよぎったの。ごめんなさい、夕紀・・・ママね。やっぱり、今の仕事を続けていたいの。」
と、夕紀の顔を見て謝った・・・が、夕紀は微笑みながら、
「大丈夫よ。ママ。今まで心配してたのは、ママがどんな仕事をしていたのかわからなかったからよ。今はどんな仕事かわかったし、白夜の御守りがあるなら心配しなくても良さそうだしね。」
「・・・そう、今まで黙っててごめんなさいね。夕紀。」
夏希は、優しく夕紀に抱きついて再び謝った。
「もう!また謝って!それよりさ。ママの昔の話聞かせて、よく考えたら、ママが小さかった時の話聞いたことないしさ。」
夕紀の願いに夏希は腕を組んで、しばらく考えてから一息ついて、
「恥ずかしいから、余り話したくないんだけど・・・仕方ないわね。」
そう言って、夏希の過去の話を語り始めた。興味津々に話を聞く夕紀達の姿を見つめて茶を飲みながら白夜はクスッと笑って、夏希の話に耳を傾けていた。
夏希は今まで夕紀に話さなかった本家の話や、どんな事を生業にした仕事か、どんな能力かを話していた。
夕紀も夏希の話を聞きながら、だんだんと自分にも、何か特殊な能力があるのではないかと、期待を膨らませていた。
話が終わり、早速、夕紀は思ったことを夏希に聞いた。
「ママが凄いのがわかったわ。って事は・・・私もママと同じ修行をすればママみたいになれるの?」
期待に満ちた瞳で問いかける夕紀に対して、夏希は申し訳なさそうに答えた。
「残念だけど・・・貴方に私みたいに特殊な力は無いの。どちらかと言うと、パパの血を強く引いたみたいだから。」
「えぇ?!そんなぁ・・・。・・・はぁ、私も活躍できると思ったのに・・・。」
落ち込む夕紀をフォローするように、夏希は手振り身振りで慰めた。
「そんなに落ち込まないで、むしろ私は良かったと思ってるのよ?」
「え?」
「だって、危険な仕事だもの。この鈴があるから、私は生きてこられたけど・・・無かったら、此処まで生き残れなかったかも知れないのよ?」
そう言って夕紀の頭を優しく撫でると、
「だから、貴方は自分の進む道を行きなさい。私のように縛られちゃだめよ?」
「うー・・・わかってるけど・・・ちょっと残念。」
白夜はお茶を飲みながら、残念そうにしてる夕紀を慰める夏希の姿を眺めて、少し疑問に思った。
「(・・・確かに、夕紀からは、ほとんど霊力を感じ無かった。母親の霊力からして、全く受け継いでないのがおかしいな・・・。それに、ワシが近くに居ても、霊力の影響が感じられない。)」
「・・・や?・・・くや!・・・白夜!」
「?!ん?な、なんだ?」
「なんだじゃないわよ!ぼーっとして!」
「あ、あぁ・・・少し考え事をな。」
難しい顔で白夜が考え事中に、突然、夕紀に声をかけられ少しビックリした顔をしていた。
「ママが話したいことがあるんだって。」
「ワシにか?」
「そう。・・・これから、貴方を見極めさせて貰えないかしら?」
真剣な面持ちで問いかける夏希に、白夜はタメ息を吐きながら頭を掻いた。
「それで気が済むなら良いだろう。・・・で、どうすればよいのだ?」
「そうね・・・それじゃぁ、私と戦ってくれるかしら?」
「な、何言ってるの!ママ!」
夏希の提案に、白夜は笑った。
「ハハハ!良いだろう。ワシも丁度試してみたかったのだ。」
「えぇ!?白夜まで・・・もう知らないよ!」
呆れる夕紀を余所目に、二人は席を立って睨み合っていた