第六十一話 再会
「ふぁぁぁ・・・。」
夕紀が大きなアクビと共に二階から降りてきた。
「大きく口が開いたな。夜更かしのしすぎだ。」
「あ、白夜おはよう。」
夕紀は慌てて口を隠すように手で覆い、誤魔化すように挨拶した。
「おはようと言う時間じゃ無いのだがな。夜更かししすぎじゃないのか?」
「そ、そんなことないよ。」
「まぁいいが・・・休みだからと言って、遅くまで起きて言い訳じゃないぞ。」
「ん~・・・でも、友達がなかなか寝させてくれなくて・・・。」
「言い訳はいい。・・・ほら。」
まだ寝ぼけて席に座る夕紀に、白夜はヤレヤレっと言った表情で、出来たてのご飯を茶碗に入れて渡した。
夕紀は、まだ眠たい目を擦りながらご飯を口に運んだ。
「今日は何をするんだ?」
「んー・・・友達と特に約束もないし、今日はのんびり家でごろごろする。」
「部屋の掃除でもしたらどうだ?」
「うっ・・・あ、明日から頑張るよ。」
「・・・それを言って頑張ったヤツは余り知らないな。」
「あうっ。」
白夜のツッコミにたじろう夕紀を見て、白夜は笑った。
そんな時、白夜はふと・・・目線を外に向けた。その仕草に、夕紀は不思議に思って尋ねた。
「・・・どうしたの?白夜。」
「ん・・・あ、いや。大した事はない。どうやら、客が来たみたいだな。」
「え?」
白夜は、湯飲みを取り出して急須に茶の葉を入れ始めた。その行動を眺めて、夕紀はあくびをすると特に気にすることなく朝ご飯を食べ始めた。
「ふぅ・・・座ってばかりだから、腰が痛くなったわね。」
夏希はバスから降りて、大きく背伸びをした。
「この街に帰ってくるのも久しぶりね。」
懐かしそうに辺りを見渡し、旅行カバンを手に我が家へと足を進めた。
ようやく、我が家が見えて足を踏み出した瞬間、滝が上から降ってきたかのような霊圧が身体を流れ落ちた。
それは、まるで・・・身体全体を一瞬で調べられたかのように纏わり付いた霊圧だった。・・・その霊圧の発生源は紛れもなく、自分の家から放たれたモノだった。
「夕紀・・・?」
夏希は、嫌な胸騒ぎと共に急いで家に向かった。
夕紀達は茶菓子を摘みながら雑談をしていた時、玄関の戸が勢いよく開き、誰かが走り込んできた。
「夕紀!」
「え?!マ、ママ?!」
「早くこっちに来なさい!」
「ちょ?!ど、どうしたのママ?」
夏希は夕紀の手を引っ張り、自分の元に引き寄せた。
驚き戸惑う夕紀を余所目に、白夜の方を睨み付けていた。
「マ、ママ?」
「貴方、一体何者?この家に何の用?」
険しい顔で白夜に問いかける母の見た事もない表情に、夕紀は戸惑っていた。
「コトと次第では、貴方には強制的に退場して貰うわ。」
身構える夏希に、夕紀は慌てて止めに入った。
「ま、待ってママ!白夜がなにしたっていうの?!」
「そう・・・貴方、白夜っていうのね?」
止める夕紀を見て、白夜の方を再び睨んだ。・・・が、白夜は動じずに笑うと、
「そうだな。自己紹介もまだだったな?まぁ・・・コノ姿では、初めまして・・・かな?」
「そう・・・。以前に何処かで会ったかしら?貴方ほどの霊位と対峙したことは無いわ。・・・それに、名前があると言うことは、誰かに使役されてるはずね・・・でも、とても貴方を制御できる術者は居ないと思うけど・・・誰からの差し金?一体何が目的?」
夏希の質問に白夜は大笑いした。
「何がおかしいの?!」
夕紀を後ろに下げて怒鳴る夏希に、白夜は謝った。
「いや。すまんすまん。良く同じコトを聞かれるのでな。それで、おかしくなってな。・・・誰に名を付けられたかって?ほれ、お前の後ろにいる娘に付けられたのだ。」
白夜の答えに、夏希は逆上した。
「嘘おっしゃい!この子は何の力もないタダの女の子よ?貴方みたいな霊位の妖を従える訳無いじゃないの!」
「え・・・?妖って・・・ママ?」
夏希は、夕紀の疑問にハッとして、慌てて口を押さえたが・・・もう、騙せないと思い、夕紀に打ち明けた。
「夕紀・・・今まで黙っててごめんなさい。実はね。ママは退魔師だったの。でも、貴方には普通の女の子に育って欲しくて今まで黙ってたの。」
「そう・・・なんだ。」
ショックを隠しきれない夕紀に、夏希は胸を痛めた。
「そして、落ち着いて聞いて、アノ女の子の正体は、妖って言う・・・人間じゃ無いお化けなのよ。」
夏希はそう夕紀に諭したが、その事に夕紀は動揺して無く、
「うん。白夜が人じゃないのは知ってるよ。」
「そう・・・だから、気を落とさないで・・・って、え?」
夕紀の帰って来た答えに、思わず夏希は聞き返した。
「知ったうえで、名前を付けて、一緒に暮らしてたもの。」
「そ、そんな・・・いつからなの?なにかされてないの?」
「何もされてないし・・・むしろ、して貰ってるもの。」
そう答える夕紀に、呆然としていた夏希は白夜の方を再び睨み付けたが、白夜は悠然とした態度で、
「どうやら、まだ信用してないみたいだな。・・・それとも、親がなかなか帰ってこずに、その娘の寂しさと親を恋しく思う心に付け込んで取り入った・・・とでも言えば納得するか?」
「な!?」
言い返せない夏希は、懐にあった呪符と武器を取り出したが、白夜は前に手を出して夏希の行動を制止した。
「やめておけ。冗談だ。お主は家を壊す気か?それに・・・目的は何かと聞いたな?」
白夜は腕を組んで深く座ると、
「・・・その娘が気に入ったから側に居るだけだ。・・・そう言えば、昔、同じコトを聞いてきたヤツが居たな。」
白夜はクスクスと笑いだし、夏希の顔を見て
「やはり、兄妹だな・・・お主の兄も同じコトを聞いてきたぞ。」
「え?そんな・・・まさか・・・。」
動揺する夏希を見て白夜は微笑むと、
「しかし・・・随分と無茶をしたようだな。鈴が壊れてるではないか。」
白夜はボロボロになった鈴を見せた。その鈴は見覚えのある鈴だったので、慌てて夏希は鈴を探したが何処にもなかった。
「貴方!それを返しなさい!」
怒る夏希に白夜は不思議そうに尋ねた。
「返す?コレをか?もう壊れているではないか。必要なかろう?」
「その鈴は、私をずっと支えてくれた大事なモノなの。・・・例えそれが壊れていても。」
「そうか・・・それだけ大事に思ってるのなら、今度から大事に使え。」
「え?」
そう言って、白夜が投げて鈴を返し、慌てて夏希がキャッチすると、鈴は新品のように修復されていた。
「これは・・・?」
「それは元々、妖力で作り上げた代物だ。だから、補充してやれば元通りの力を取り戻す。まぁ・・・もう少し強くしてやったがな。」
「やっぱり、貴方は・・・。」
予測が確信に変わった表情を見せた夏希を見て、
「ククク・・・”御守り”としては、役に立っただろ?」
と、白夜は笑った。