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第五十九話  仕事


靴を脱ぎ捨てて、滑り込むように居間に向かう夕紀の後から、脱ぎ捨てた夕紀の靴を並べて白夜も居間へと向かった。


「今日は、なんだか疲れた~!!」

「まったく・・・靴ぐらいちゃんと揃えろ。」

「ごめんなさーい。」

「反省が足りん。」

「えへへへ・・・。」


白夜に小突かれて、舌を出して夕紀は笑った。


「あぁ!それにしても・・・ホント、ママ達って何の仕事してるんだろ?輸入関係みたいなことを言っていたけど・・・それだったら隠す必要ないと思うんだけどなぁ。」


夕紀はそんな事を呟き、考えながら床に寝そべった。


「理由があるのだろ?」

「理由かぁ・・・子供にも言えない理由って何だろう?」


しばらく考え込んでいた夕紀だが、イキナリ大声上げて起き上がると、


「止め止め!どうせ考えたってわからないんだし!それに、おじいさんだって輸送関係の営業だって言ってたし、それで良いか。ね?白夜。」

「うむ。・・・しかし、あの老人の話・・・何か引っかかる・・・本当は知っていたのかも・・・。」


その答えに、夕紀は白夜の顔を見て、苦そうな顔をしていた。


「・・・もう!白夜がそんなこと言ったら、消化不良のままになるじゃない!!」

「ん?あぁ・・・悪かった。何か口にして忘れろ。」


夕紀はすねた顔で両頬を膨らませて、


「じゃぁ!早く、美味しいモノ白夜作って!」

「ハイハイ。じゃぁ、早く作るために手伝え。」

「ぇ~!わかったよぉ。手伝うわよぉ。」


文句を言いながらも、微笑む白夜から差し出された手を取り、夕紀は起き上がって二人で台所へ向かった


―――・・・一方、とある辺境の外国で、壮絶な戦闘が繰り広げられていた。 

化け物からの怒濤のような攻撃を躱していた女性が、木陰に身を潜めて一息ついた時、化け物の爪が木々諸共に貫いた。・・・しかし、その攻撃は傷だらけの犬の頭をした鎧武者だった。

身体にめり込んだ化け物の爪を離さないように片手で掴むと、腰の刀を抜刀して、化け物の身体を一刀両断して倒した・・・が、倒した瞬間に女性が持っていた金色の鈴に戻ると同時に、紐が裂けて地面へと転がった。

その転がった鈴を拾いあげると、悲しそうな瞳で見つめて、


「ありがとう。・・・ご苦労様。」


と、呟いた。


戦闘が終わり、ホテルに戻って一室のドアを開けた。そこで、PCの前でにらめっこしていた男性が、女性の帰宅に気付き声をかけた。


「あ、お帰り。ご苦労様。どうだった?」

「えぇ。ちゃんと終わらせてきたわ。」

「そう?その割には、なんだか元気がないみたいだけど?」


微笑んで答えた女性だったが・・・長年付き合っていた男性には誤魔化すことは出来なかった。


「はぁ・・・やっぱり、あなたには隠し事できないわね。」

「何かあったの?」

「実は・・・。」


そう言って、朽ちた金色の鈴を取り出して男性に見せた。


「これは・・・君がいつも持っていた・・・大事なお守りじゃないか。壊れたの?」

「そう。長い間、私を護ってくれた。大事なお守り・・・でも、もうそれも、今日で終わってしまったわ。」

「紐が切れたのなら、新しいのに変えればいいんじゃない?」


男性の質問に、女性は無言で悲しそうに首を振ると、


「いいえ。このお守りは特別なモノなの。替えが効くようなモノでもないの。・・・コレがあったから今日まで生きてこられたけど、それも終わりね。」

「・・・と言うことは・・・もう、この仕事から引退?」


女性は頷くと、互いにしばらく無言になった。


「・・・よかったよ。」

「え?」

「これで、君への心配事が減るし・・・何より、この請求書の量を見なくて済むしね。」

「もう!人が真剣に話してるのに・・・まだまだ、請求書の数増やそうと思ってたのに!」

「おいおい・・・勘弁してくれよ。・・・それに、夕紀にも会えるからね。」

「そうね。長い事、親らしい事してなかったし・・・愛想尽かされてなければいいけど・・・。」

「嫌なこと言うなよ。そうだ!まだ僕は、この請求書の山を処理しないといけないから君は先に帰るといいよ。」

「ごめんなさいね。面倒ごと残して・・・。」

「気にしなくて良いよ。何時ものことだからさ。」


申し訳なさそうに謝る女性に、男性は眼鏡をかけ直してから微笑んだ。

女性は手軽に荷物を整えてから、男性の居る部屋に顔を出して、


「後お願いね。」

「あぁ。任せて。早く、夕紀に会いに行ってあげて。」

「ありがとう。じゃぁ、早めに帰って来てね。」


そう言い残し、男性は手を振って返事をすると、女性は足早に空港へと向かった。

飛行機に乗り込み、女性は席に座ると窓から外を見て一息ついた。


「ふふふ・・・突然帰ったら驚くかしら?夕紀は・・・。」


そう呟いて、ふと・・・ボロボロの鈴を取り出して眺めた。


「この鈴には随分と助けられたわ。・・・コレを貰ってから、もう何年経つだろう。アノ妖も、成長した私の事見てくれてるかしら?」


鈴に語りかけるように深く座り、背もたれにもたれかかって、昔を思い出すように目を閉じた。


-20年前・・・


当時、私がまだ少女だった頃・・・我が家は代々続く退魔師としての家系で、普段から余りにも厳しい修行だったので、耐えきれずに家出をした。

何も持たず勢いで飛び出したので、いつの間にか山に迷い込み、途方に暮れながら山の中を歩いていると・・・森を抜けて、もう誰も住んでいない雑草の茂る鉄筋コンクリートのアパートを見つけた。

日も暮れ始め・・・ソレも相まってか、不気味さがより一層際立っていた。しかし、泊まる場所も無く、お金も持っていなかったので、背に腹は変えられずに鍵の開いてる部屋を探した。

しばらく探して、ようやく空いてる部屋を見つけ、部屋の隅で膝を抱えて座り込んだ。


「コレからどうしよう・・・。」


何の計画も立てずに飛び出したので、先行きの見えない不安に堪えきれずに涙が溢れ始めて声を殺して泣いていたが・・・此処まで歩いた疲労も重なり、いつの間にか眠ってしまった。

・・・しばらくして、どこからとも無く歌が聞こえてきて、ソレで目を覚ました。


「歌・・・?」


風や木々・・・または、鳥の鳴き声ではない、歌詞は無いが紛れもなく誰かの歌声だった。

その歌は、外から聞こえてきた。

私は、目を擦りながら身体を起こして、歌に導かれるままに部屋を出た。

歌は屋上から聞こえてきたので、私は階段を上って屋上のドアノブに手をかけた。

屋上のドアは鍵が付いて無く、錆び付いてはいたが出来るだけ音と立てないように恐る恐るドアを開けた。

辺りを見渡し、歌ってる主を捜した。・・・その時、歌声が止まり頭の上から、


「誰ダ?」


と、声をかけられ思わず短い悲鳴と一緒に後ろへと座り込み、その反動で大きい音を立ててドアが閉まった。

その音に数秒身を縮めてから、何とか気を取り戻し、再びドアを開けて入り口の上を見上げえると、月を背に黒く大きな獣が座って居た。

その眼光に睨まれ、崩れるように座り込むと這いずるように後ろに下がりドアを閉めた。


「ほ、本物の妖・・・?」


当時、私は話で聞くか書物で見るしか妖を知らず、式神等は使ってる人が居たから妖も居るのだろうとは思っていた・・・思ってはいたが実物を目の前にして、今まで学んできた修行の一環が頭の中から吹き飛ぶほど真っ白になっていた。

私じゃ無理だ・・・そう思い、逃げだそうとした時、再び歌のない歌が耳に入ってきた。

その悲しそうな歌に、ふと我に還った。今まで学び聞いてきた妖は、見境無く襲ってくる排除すべき存在と聞いてきた・・・しかし、今日出会った妖は、聞いてきたモノと違うように感じた。

襲ってくる事も追ってくる気配も無く、ただ、悲しい歌を歌ってるだけだった。

私は・・・もしかしたら、話が出来るんじゃないかと思った。無論、何の保障もなかったし、今度は襲われるかも知れなかった。

それでも、震える足を立たせて、私は再びドアを開けた。そして、二、三歩前に進み妖と対峙した。

歌を止めた妖は、ゆっくりと視線を落として私を見た。


「逃ゲタノデハナイノカ?」


修行をしていたからわかる・・・妖が発する一言一言に、強力な霊圧を感じていた。 震える身体を押さえつけて、私は精一杯の一言を絞り出した。


「・・・どうして・・・そんなに悲しそうなの?」


私の質問に、無言で立ち上がると、私の隣に降りて手を伸ばしてきた。

・・・殺される!!そう思い身を縮めると、妖は優しく私の頭を撫でて、


「悲シイ・・・カ。確カニ・・・コノ月夜ニナルト昔ヲ思イ出ス。」


私の頭を撫でる妖の瞳は、泣いてるような悲しい瞳をしていた。


「ソレヨリ。何故、子供ガ此処ニ居ル?」

「うっ・・・実は・・・。」


痛いところを聞かれたが、私は素直に答えた。・・・今思えば、どうして喋ったのかわからない。でも、撫でる手には一切の敵意は感じず、むしろ、安心感を覚えていた。

経緯を全部喋ってる間、妖は無言で聞いてくれていた。

私の話が終わる頃、自分の中に貯まっていたモノが全部出たようにスッキリした。


「あのね。私・・・妖は全て悪い奴だって教えられて育ってきたの。・・・でも、貴方みたいにちゃんと話できる、良い妖も居るんだってわかったわ。」


私がそう言うと、妖は笑って


「クックックッ・・・実ハ油断サセテ、襲ウカモ知レナイゾ?」

「フフフ・・・でも、わざわざそんなことを言う方がおかしいわよ。変な妖ね。」

「ソレモソウカ・・・。」


当時の私は未熟で、相手の力量も計れず辛い修行ばかりで、今思えば、こんなに笑ったのは・・・その時が初めてだったかも知れない。



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