第五十三話 ベースギター
二人と別れ、白夜と夕紀は貸し切り状態のバスに乗っていた。
「ねぇ?白夜。」
「ん?なんだ?」
流れる窓の風景を楽しんでいた白夜に、夕紀が声をかけた。
「本当に、あのお金はどうやって手に入れたの?」
「なんだ?まだ気にしてたのか?」
「当たり前よ。普通に稼げる金額じゃ無いわよ。」
「ふむ・・・まぁ、此処でなら話しても良いだろうな。」
白夜は外の景色に目をやりながら、お金を入手した経緯を話した。それを終始無言で聞いてた夕紀は、話が終わると目を少し潤ませながら白夜を叱った。
「どうして、危険な事するのよ!そんなお金、嬉しくないよ!」
「え?あ、いや・・・実際、大した事はなかったし・・・。」
「それでも!私・・・白夜に何かあったら、嫌だよ・・・。」
そう言って、夕紀はおでこを白夜の肩に当てた。
白夜はフッと微笑むと、夕紀の頭を撫でると、
「すまなかったな。・・・ワシを心配してくれたのだなろ?ありがとうな、夕紀。」
「・・・うん・・・でも、それ以上に許せないのが、あのロリコンよ!私の居ない間に、私の白夜を連れ出すなんて、許せない!!」
落ち着きを取り戻した夕紀は、矛先を海翔に向けて怒った。
「まぁ、良いではないか。ワシも何かしたいと思っていた事だし。適度に身体を動かしたかったからな。」
「んー・・・白夜がそう言うのなら仕方ないけど・・・それでも、今回みたいな危険な事はしないでよ?」
「わかった、わかった。お主が心配するようなら危険な事は避けよう。」
「本当?約束よ?」
「あぁ、約束だ。」
そう言って、指切りを交わすと、やっと二人の間に笑みが零れた。
「そうだ。白夜のそのお金・・・どうしようか?持って歩く訳にもいかないでしょ?」
「そうだな・・・それについて、千歳から一つ提案を受けたのだが?」
「提案って?千歳から?いつの間に・・・。」
「さっきの店に居た時に、銀行に預けてはどうかと。」
「なるほど・・・じゃぁ、白夜専用の通帳がいるわね。」
「ワシ専用?」
「そう。白夜のだから自分の好きな時に使えるから便利でしょ?」
「ふむ・・・なるほどな。」
白夜はお金が預けられるのが嬉しいのではなく、自分専用って言葉に心が高揚していた。
「それは何処で作れるのだ?」
キラキラと目を輝かせながら白夜は夕紀に尋ねたが、無邪気なその目を夕紀は直視出来なかった。
「やめて白夜。純真無垢な瞳で私を見ないで。」
「何を訳のわからない事を・・・まぁ、もう遅いから家に着いてからで良いか。」
「そうね。今後の事も話そうか?」
「うむ。」
二人は雑談を交えながら帰宅して、夕紀が玄関の鍵を開けた。
「ふぅ・・・ただいまぁ。」
疲れ切った表情の夕紀を見て、白夜は含み笑いをしていた。その事に気付き、夕紀は睨むように白夜を見た。
「なによぉ?何か言いたい事があるの?」
「いや・・・何も。」
口を尖らせて尋ねる夕紀に、白夜は目を背けて首を振った。、
「まぁ、いいわ。結構重かったけど、傷が付いてないか心配だし、早く中身取り出さないと。」
そう中身を見たい口実を付けて、上機嫌な足取りで居間の方へと向かって行った。
「本当は、買った物を早く出したいだけだろうに・・・まだまだ、子供だな。」
白夜はそう笑い、靴を脱いで夕紀の後を追った。
早速、今回買ってきたベースギターを大事そうに取り出して眺めていた。そして、手に持って構えてみた。
「へっへー。どうかな?白夜。」
「ほほぉ。格好いいでわないか。その、ベースというヤツが。」
「えぇ?!私じゃなくて?」
「・・・そうだな。弾けるようになってからだな。」
「ぬぬぬ・・・いいわよ!絶対、弾けるようになって、格好いいって言わせるんだからね!」
「フフフ・・・楽しみにしておこう。」
夕紀は早速、弦を弾いた・・・が鈍く弦が揺れるだけでいい音は出なかった。
「あれ?音が出ない?壊れてるのかな?」
「いや・・・普通、弦を弾けば音が出るはずだが・・・何か必要なんじゃないか?」
「んー・・・そうなのかなぁ。」
「まぁ・・・初心者が下手にいじるより、経験者に聞いた方がいいな。壊すだけだしな。」
「うぅ・・・仕方ない。明日、ヒロミに聞いてみようか。」
「そうした方がいい。さて・・・夕飯の支度をするから、早く片付けろ。」
「は~い。」
夕紀はベースギターを片付けて、自分の部屋に持って行った。
しばらく経っても、夕紀が降りてこないので白夜は夕紀の部屋に向かった。
白夜がドアを開けて中を覗いてみると、部屋の中でベースギターを持ってウロウロしてる夕紀が居た。
「何をしているのだ?」
「うひゃ!?・・・なんだ白夜か。脅かさないでよ。」
イキナリ声をかけられて、ベースギターを落としそうになった夕紀が慌ててキャッチして、落とさずに済んだ。
「いや・・・なかなか降りてこなかったのでな。気になって見に来たんだが・・・。」
「あぁ・・・うん。コレ、何処に置こうかなぁ・・・って思って。」
「そう言えば、台みたいなモノを貰わなかったか?」
「あっ!そうか。店で飾ってた台も付けてくれてたんだ。」
夕紀は店で貰った紙袋を漁り、黒いパイプが入ったビニール袋を取り出した。
「あったあった。コレだコレ。」
夕紀はビニール袋を開けてパイプを取り出して、悪戦苦闘しながらも台を組み立てた。
それを横で見ていた白夜は、苦笑いしながら呟いた。
「お主・・・不器用だな。」
「う、うるさいわね!ちゃんと出来たから良いじゃない!」
夕紀は慎重にベースギターを作りたての台に飾った。
「おぉ・・・様になるなぁ。」
「・・・さっ、無事飾る事も出来たし、下へ降りて夕飯にするぞ。」
「は~い。」
真剣な顔で飾る夕紀の後ろ姿に白夜は笑いを押し殺して、夕飯に来るよう促した。
満足した表情を浮かべて先に降りる夕紀が出るのを見届けて、白夜は部屋の電気を切りドアを閉めた。
暗い部屋の中、窓からこぼれる月光りに照らされて、飾られてるベースギターは静かに輝いていた。