第五十一話 購入
―――・・・灰華町で起きた怪事件が解決された次の日、平穏を取り戻した町の小さい小学校のクラスで、ちょっとした話題が起きていた。
「ねぇ、ねぇ、聞いた?」
「え?何を?」
「あのね。このクラスの沙耶ちゃんにそっくりな子が居たんだって!」
「え?」
その話を丁度、教室に入ってきた沙耶の耳に入ってきた。
「それ、本当?」
噂の話をしていた二人に興味有り気に沙耶は割り込んできた。
「うん、髪と目の色以外は身長も顔も全く同じみたいらしいよ。」
「え?嘘!・・・ちょっと、会ってみたいなぁ。何処に住んでるんだろ?」
「さぁ?それは、わからないけど・・・割と近くだったりして。」
「まっさか~!」
笑いを交えながら、謎の少女の話がやがて学校内で、いろいろな推測が折交わりながら広まりつつあった。
「クシュン!!」
「あら?白夜がクシャミ?珍しいね。」
「最近、多い気がするな。」
「あら、そうなの?風邪?」
「ハハハ・・・ワシが風邪を引く訳が無かろう?」
「あっ、それもそうか。」
二人は笑いながら食卓を囲んでいた。
「そうだ。今日、ヒロミ達と一緒に私が使う楽器を買いに行くんだけど・・・一緒に来る?」
それを聞いて、白夜はクスッと笑うと、
「聞くまでも無かろう?もちろん、同行するよ。」
「さっすがは白夜!じゃぁ、さっさと食べてから準備しようか。」
夕紀はご飯を流し込むように食べると、食器を流し台に持って行き駆け足で自分の部屋に戻っていった。
「家の中走るな!危ないぞ!」
「は~い。ごめんなさ~い。」
返事はするが、その声に反省は無さそうだった。白夜は、一息ついて夕紀が持っていった食器を洗ってから片づけた。
食器の片づけも終わり、白夜も余所行きの準備を始めた。
「まぁ・・・念の為に持って行くかな。」
白夜は以前、夕紀から貰ったウサギ型リュックに仕事の報酬を全額詰め込んだ。
「びゃくやぁ~・・・用意できたぁ?」
そう言いながら夕紀は階段を下りてきた。そして、白夜を見つけると、
「おぉぉ!?可愛いじゃない白夜!それ、この前買った服でしょ?」
「うむ・・・って、おわっ?!」
夕紀は思わず飛びついて、白夜に抱きついた時に勢い余って二人とも倒れた。
「危ないではないか!・・・まったく、お主は考えなしに飛びつくな!」
白夜に頭を小突かれて、夕紀は舌を少し出して謝った。
「えへへ・・・ごめんね♪」
「まったく・・・お主は・・・。」
緩みまくった笑顔の夕紀に、白夜に抱きつかれたままタメ息をついた。
「ほら!いつまで抱きついているのだ?さっさと行くぞ。」
「うぅ・・・至福の時間が・・・。」
「馬鹿な事言ってないで、行くぞ。」
白夜は夕紀を押しのけて立ち上がり、夕紀も渋々立ち上がって玄関を出た。
―――・・・二人は待ち合わせ場所に到着した。
「お?今回は早く着いたみたい。」
「そうみたいだな。・・・お主が馬鹿みたいな事しなければ、もっと早かったのだが・・・。」
「結果的には早く着いたんだし、問題なし!」
相変わらずの脳天気な笑顔に、白夜は呆れてタメ息をついた。
「お待たせ。今回は予定時間より早く着いたわね。」
「へっへー。私も本気出せばこんなものよ!」
「あら?あなたじゃなくて、白夜ちゃんのおかげじゃないの?」
「うっ?!」
千歳の的確なツッコミに夕紀は言い返せなかった。丁度、その時にヒロミも現れた。
「お?みんな早いなぁ。てっきり、夕紀より早く着いたと思ったんだけどなぁ。」
「もう!みんなして・・・まるで私が遅刻魔みたいじゃない!」
「え?ちがうの?」
「そうじゃない。」
「うわーん!!びゃくやぁ~・・・みんなが苛めるよぉ。」
夕紀はすがるように、白夜に抱きついた。
「仕方ない。日頃の行いだ。」
「えぇ?白夜までぇ?!」
そんな、コントじみた会話をしながら、楽器を販売してる店へと立ち寄った。
店に入った瞬間、夕紀は楽器の種類に圧倒された。
「うわぁ・・・凄い種類。・・・なんか、テンションが上がってくるね。」
「まぁね。・・・まぁ、今回は目的の物を探そうか。」
「そだね。行こうか?白夜。」
「う、うむ。」
目を輝かせながら食い入るように、ガラスケースの中にある金や銀色の鮮麗された楽器達を名残惜しそうにしながら、白夜は夕紀達の後を追った。
「ここが、ベースギターコーナーよ。」
「おぉ!」
ヒロミの案内で辿り着いた場所で、そのベースギターの種類に皆が驚きの声を上げた。
「この中から選ぶのか・・・。」
マジマジとベースギターを眺めてる夕紀にヒロミがアドバイスをした。
「できるだけネックが小さいヤツが良いよ。自分の手のサイズに合うのを選んで。」
「なるほど。」
夕紀はベースギターを眺めながら、一つずつ手で持ちながら探していた。その中に、一つだけ夕紀の目に留まる物があった。
それは、ガラスケースの中に並んでいたベースギターだった。
「うわぁ・・・コレ・・・すごく綺麗。」
「手に持ってみますか?」
夕紀の後ろから店員が声をかけてきた。
「え?いいんですか?」
「はい。」
「じゃぁ、お願いします。」
「わかりました。」
ワクワクと目を輝かしながら見ている夕紀の隣で、ガラスケースを開けて店員がベースギターを取り出した。
「どうぞ。」
夕紀は、店員からベースギターを手に取り持ってみた。
「・・・あ。なんか、しっくりくる。ねぇ、ねぇ、ヒロミ。これどうかな?」
夕紀はベースギターを持ったままヒロミを呼んだ。
「ヒロミ見て!どうかな?」
「お?いいんじゃない?それにする?」
「ちょっと待って、値段見てみる。」
夕紀はそう言って、値段表を覗き込むと・・・、
「え~と・・・6500円?」
「ちょっと待って。・・・0が一つ抜けてるわよ。」
「・・・65000円?・・・無理だ・・・。」
夕紀は高価なベースギターを持ったまま、値段表の前で座り込んだ。
「良いのに出会ったと思ったんだけどなぁ・・・。」
「まぁ、大体良いのは高いって。」
「はぁ・・・だよねぇ。」
落ち込む夕紀をヒロミが慰めた。
その後ろから、千歳と白夜が手を繋いでやってきた。
「あら?そんな処で座り込んで何してるの?」
「あっ、千歳・・・て、人が悩んでるのに何、白夜と手を繋いでるのよ!」
「あら?手を繋ぐ位、良いわよね?白夜ちゃん。」
「うむ。・・・それより、何を悩んでるんだ?」
「え?あ!うん。欲しいベースが見つかったんだけど・・・値段がね・・・。」
「ほぉ?いくら足りないんだ?」
「5万円ほど・・・はぁ・・・諦めるしかないね。中学生がすぐ出せる金額じゃないや。」
「ふむ・・・ちょっと待ってろ。」
そう言って、白夜はウサギ型リュックを下ろして中に手を突っ込んだ。
その中から、分厚い封筒が出てきた。
「え?何、その封筒?」
夕紀は不思議そうに尋ねると、白夜は無言で封筒の口を開けて中から五枚のお札を取り出した。
それを見た夕紀達は、驚きの声を上げた。
「ちょ?!ちょっと待って白夜!そ、そのお金どうしたの?!」
「・・・貰った?」
「疑問系?!いやいやいや・・・普通、貰える金額じゃないじゃん!・・・まさか、その封筒の中身は・・・全部、そのお札と同じ物?」
「うむ。」
「えぇぇぇ?!」
「ちょっと!大金じゃないの!」
騒ぐ周りに対して、白夜はいつも通りの落ち着いた口調で、
「気にするな。ワシが持っていても使い道がないんだし、こういう時に役に立つのなら、それに越した事はない。」
「えぇ・・・でも・・・。」
少し遠慮気味な夕紀に白夜は微笑んで、
「遠慮するな。折角、お主が頑張るというのなら、ワシは役に立ちたいだけだ。」
白夜の言葉に、夕紀は少し考えると、
「・・・わかったわ。絶対にがんばる!約束するよ白夜!」
「うむ。」
夕紀は白夜からお金を受け取ると、白夜に抱きついてからベースを持ってレジに走って行った。
購入して、満面の笑みで帰ってくる夕紀の姿を見て千歳はタメ息をした。
「もう、妬けちゃう位に幸せそうな顔をして!」
「痛い痛い!止めてよ千歳!!」
ニヤけた夕紀の頬をつねる千歳、その二人の行動が可笑しくて、白夜とヒロミは笑っていた。
「さて・・・買う物も買ったし・・・どっしようか?」
「そうねぇ・・・折角だから食事してから、遊ぶ?」
「賛成!」
「よし!明日からバンド再開を記念してパーッとやろう!」
「おーう!」
夕紀達は合わせてかけ声と共に拳を高く上げ、白夜もそれに釣られる様にマネをした。




