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第五十話  ハプニング

「さて、思いのほか長い時間居てしまったな。そろそろ帰るかな。」

「あぁ、わざわざ来てくれて・・・すまなかった。」

「お?なんだ?やけに素直だな。」

「う、うるさい。此処までして貰って、礼が言えない人間ではない。」


茶化しながら笑う白夜に、頭を掻きながら海翔は礼を言った。

白夜は食べ終わった食器を片付けて、帰ろうとしたとき、


「あ!待ってくれ。まだ、報酬を渡してなかった。」


海翔は立ち上がり、白夜の方へ向かおうとした時、机に脚を引っかけ、白夜を巻き込んで倒れてしまった。


「イテテ・・・すまん!大丈夫か?」

「あぁ・・・大丈夫だ。」


その時、レンが扉を開けて帰って来た。


「ただい・・・ま。」


レンは、兄がまだ幼い少女の上に覆いかぶさっている現場を目撃して、ゆっくりと玄関の扉を閉めた。

海翔は慌てて飛び出し、レンを呼び止めた。


「ち、違うんだ!レン!」

「大丈夫だよ。兄さん、例え犯罪を犯しても僕は兄さんを信じてるよ。」

「お前、絶対信じてないだろ!」


信じると言ったレンは、海翔と一切、目を合わそうとしてなかった。


「だったら、あの女の子はなんだい?あんな幼い子を部屋に連れ込んでる時点で疑われるよ?」

「ちゃんと理由もある!それに、さっきのは事故だ!!」


必死に弁明する海翔に、疑いの眼差しを向けたまま部屋に戻ってきた。その時・・・白夜はすすり泣いていた。


「兄さん・・・自首しよう。僕も付き添うから。」


レンは海翔の肩に手を置いて、哀れむ瞳で自首を勧めた。


「だから、違うんだって!!貴様も嘘泣きするな!!」


白夜を指さして怒鳴る海翔の指をレンはそっと下に降ろさせた。


「ひどいよ。兄さん・・・本当に怖かったのはあの子の筈なんだよ?」

「騙されるな!あいつは俺をからかってるだけなんだ!」


レンは、海翔の言葉に耳を貸さずに白夜に近づいた。


「もう大丈夫だよ。僕の兄が迷惑をかけたね。」


レンの優しい声かけに、白夜はすすり泣きながら小さく頷いた・・・が、その口元は少し笑っていた。海翔はその小さな行動を見逃さなかった。


「そいつの口元を見てみろ!笑っているぞ!」

「兄さん・・・見苦しいよ。男なら潔くしないと。」


海翔の必死な行動も、レンの心には届いてなかった。海翔は膝を折り床に手を突いた。


「信じてくれ・・・そいつは、嘘泣きなんだ・・・。」

「兄さん!まだそんな事を!」


切実に語る海翔がそろそろ、可哀想になってきた白夜は、レンの腕を引き


「すまない。そやつを苛めるのが楽しくなって、つい調子に乗ってしまった。そろそろ許してやってくれ。」


それを聞いたレンは、ゆっくりと海翔に近づいて肩に手を乗せると、


「兄さん。僕は信じてたよ。」

「レン・・・。」


レンは晴れやかな表情で微笑んでいたが、海翔はレンの腕を取り、すぐさま床に伏せさすと馬乗りになってレンのこめかみに拳を当てグリグリっとし始めた。


「い、痛い!痛い!兄さん、痛いよ!!」

「俺の言ってる事を信用しなかったヤツへのお仕置きだ!」


海翔の注意がレンに向いてる内に、白夜はソーッと抜け出そうとしていたが、


「お前も何処行こうとしている?」


と、海翔に睨まれながら呼び止められた。


「いや・・・邪魔したら悪いし、ワシもそろそろ帰ろうかと・・・。」


苦笑いしながら振り向いた白夜に海翔は、


「元を正せば・・・お前が発端なんだ。俺に言う事があるんじゃないか?」


と尋ねられ、白夜は腕を組んで考えると、何か思いついてニコやかな笑顔で、


「コレにこりたら、もう幼女には手を出すなよ。」

「てめぇ!誰のせいでこんな目に!」


乗り出した海翔の手をヒラリと躱した白夜は、玄関の扉に隠れるように顔を出し、


報酬コレは貰っていく。それと、また作りに来てやるから、仲良くするんだぞ。」


そう微笑みながら、手を振って扉を閉めた。


「チッ・・・余計なお世話だ。」

「兄さん・・・本当にあの子は誰なの?」


少し涙目のレンが尋ねると、海翔は呆れた顔をして、


「お前・・・あれだけ近くによって本当に気付かなかったのか?」

「え?」


キョトンとしているレンに、海翔は頭を掻いてタメ息をもらした。


「お前も能力者なら気付け。・・・あいつは妖だ。」

「えぇ?!でも、可愛い女の子だったよ?」

「容姿だけはな。しかし、中身は別物だ。」

「そうなんだ・・・でも、それなら尚更驚きだよ!兄さんが妖を部屋に入れるなんて・・・部屋に入れてるから、妖なんてわかる訳無いじゃん!」


レンのツッコミに、海翔は難しい顔をして頭を掻いた。


「確かに・・・昔の俺ならそうかもな。・・・だけど、あいつに会ってから妙に調子が狂わされるんだ。」


初めて見せる海翔の戸惑った表情にレンは思わず笑ってしまった。


「何が可笑しいんだ?」

「あ!ごめんごめん。・・・でも、変わった妖も居るんだね。」

「確かにな・・・あっ!そうだ。あいつ、帰り際に肉じゃがを作っていったんだが・・・食べるか?」

「え?本当?・・・やっとまともなご飯が食べられるんだね。・・・って、何で妖がご飯作りに来てるの?」


再び驚くレンに、無言で首をすくめた海翔は肉じゃがを温め直した。

その後ろ姿を見ながらレンがボソリと呟いた。


「兄さん・・・もぅ、あの子と一緒になったら?」

「・・・あっつ!?い、イキナリ何、言ってやがる!」


レンの一言に動揺して海翔は熱くなってる鍋に触れて、指を吹いて冷やした。


「だって、兄さんが妖を倒さず好意を持ってるんでしょ?」

「ばっ!ちがう!・・・俺だって最初は、あいつを消滅させようと戦いを挑んださ。」

「え?そうなの?その後、どうなったの?」


興味津々に聞くレンの前に鍋を置いて、海翔は話を続けた。


「ハッキリ言って、俺の惨敗だ。あいつに俺のもてる全てのワザが通用しなかった。むしろ・・・手加減されていたくらいだ。」

「え?!そんなに強力な妖だったの?・・・とても、そんな風に思えない。」


レンは意外そうな表情で話を聞きながら、海翔は茶碗に二人分のご飯をついで机に置いた。


「もうこの話は終わりにして、温い内に食べるぞ。」

「あ、うん。・・・でも気になるなぁ。」


二人は、合掌してからご飯を食べ始めた。


「あ!おいしい!」


レンは肉じゃがを食べながら、その味に感動していた。その前で海翔も遠慮がちに食べながらも、数分で鍋の中の肉じゃがは空になった。



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