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第四十八話  後悔


池に辿り着くと、獣は池に向かい大粒の涙を落とした。


「ゴメンヨ・・・兄チャンハ・・・ドウヤラ、オ前ニ会ワス顔ガ無イ。」


獣は声を出して号泣し続けた。その時、獣の後ろから物音がして振り向くと、其処には遠出の格好をした娘が恐怖の表情を浮かべて座り込んでいた。

恐怖で動けなくなった娘はただ震えて、獣を見ていた。獣は悲しそうな瞳をして娘に尋ねた。


「ワシガ怖イカ?」

「ひっ!?」


声をかけられて身をすくめた娘に、獣は再び顔を池の方へと向けた。


「怖イノハ無理モナイ・・・ワシハ、沢山ノ命ヲ刈リ取ッテキタ・・・当然ダ。」


外見とは裏腹に背中越しに泣いてる姿に、大きいはずの背中がとても小さく見え、娘は少しずつ恐怖心が和らいでいった。


「な、何故・・・泣いてるのでしょうか?」


娘は獣に尋ねた。獣は振り返ることなく答えた。


「今ニナッテ、己ノ罪ノ数ニ後悔シテイル・・・。最早、取リ返シガツカナイホドニ・・・。」


最初見た獣の姿は怖かったのだろうが、今の姿はとても弱々しい子供の姿が重なって見えた。娘は恐る恐る獣に近づき、隣に並んだ。獣は、娘の方に目もくれずに池の方をずっと眺めていた。


「池に何かあるのでございましょうか?」

「妹ガ眠ッテイル・・・。」


獣の声はひどく寂しそうだったが、獣は続けて語った。


「村ヲ襲ワレ。妹ヲ殺サレ、復讐ノ為ニ戦ッタガ・・・行キ着イタ先ガ妹ヲ殺シタ連中ト同ジニナッテイタ。・・・姿通リノ化物ニナッテシマッタ訳ダ・・・。」


それを聞いていた娘は突然、獣の手を強く握った。驚いた獣は娘の方を向いた。


「後悔なさったのでございましょう?・・・なら、次は償えばいいのでございます。」

「償ウ?」

「そうでございます。奪った命は帰って来ませんが、罪を償い続ける事は出来ましょう。」

「シカシ・・・ワシニハ、償ウ方法ナド・・・。」


戸惑う獣に対し、娘は優しく微笑んだ。


「奪った命以上に、困ってる人を助ければ良いのでございます。」

「困ッテル人ヲ助ケル・・・。」

「そうです。・・・今日までの貴方様を此処で捨ててしまいましょう。そして、明日から新しい貴方様で歩まれてはいかがでございましょうか?」


娘の言葉に救われたのか、獣の瞳は柔らかく・・・憑き物が落ちた様な表情になった。


「フフフ・・・ソウ上手ク行クハズモ無カロウ。シカシ、オ主ノ言葉デ、ワシハ歩ム道ガ見ツカッタカモシレン。礼ヲ言ウ。」

「いいえ・・・たぶん、妹様もそう望んでおられるかも知れません。」

「ソウダナ。ナラ・・・最初ノ手助ケニ、オ主ノ旅ノ手伝イヲサセテモラエナイダロウカ?」

「私のですか?」


驚く娘に獣は膝を付いて頭を下げた。


「ワシハ復讐ト憎シミデシカ、コノ世ヲ見テイナカッタ。ダカラ、オ主ノチカラヲ借リテ困ッテイル人ヲ助ケタイ。」


真剣に頼む獣に寄り添い、大きい手の上に娘の小さな手が重なった。


「今の貴方様はとても力強く感じます。・・・私で良ければどうぞ、使って下さいまし。」

「アリガトウ・・・。」


感謝する獣に、笠を脱いで優しく微笑む顔は鏡でも見ているくらい夕紀にそっくりだった。すると、夕紀の目の前が一気に真っ白になって、目が覚めたのだった。


「え?・・・夢?」


目が覚めた夕紀はどうしても、夢の内容が思い出せなかった。しかし、思い出せなくても、その夢はとても恐ろしく悲しい事だけは覚えていた。

夕紀はカーテンをめくりって外を覗いたが、まだ暗かったので携帯を手にとって時間を見た。


「まだ四時か・・・どうしよう。目が冴えてもう寝られないや。」


夕紀は隣で寝てる白夜の顔を見た。グッスリと寝息を立てながら寝ている白夜の頭を撫でて、


「まっ、いいか。もうちょっと、白夜の横で寝ようかな。」


そう言って、布団に潜り込むと寝ている白夜を抱き寄せた。

白夜の温もりを肌で感じるだけで、悪い夢を見た後でもなんだか安心できた。

それでも、寝付けなくなった夕紀は仕方なくベットから出ると服を着替えてから、音を立てないようにドアを閉めると下の階へ降りていった。


「・・・サヨ・・・。」


白夜は寝言で、そう名前を呟いて目が覚めた時に、目を擦ると涙が流れていた。


「久しぶりに、昔の夢を見てしまったか。・・・ん?夕紀は?」


辺りを見渡し、夕紀の姿を探したが見あたらなかった。

眠たい目を擦りながら白夜はベッドから降りると、乱れてる着衣を着直して下の階へと降りた。居間の方で物音がしたので覗いてみると、コーヒー片手にパンを食べてた夕紀が、白夜を見つけてにこやかに挨拶した。


「あっ!おはよう、白夜。よく眠れた?」

「・・・ん?あぁ、おはよう。・・・珍しく早いな。」

「んー・・・。夢見が悪かったから、それから寝付けなくってね。」

「そうか・・・実はワシもだ。」

「え?白夜も夢とか見るの?」


意外そうな表情で見る夕紀に、白夜は笑いながら、


「まぁ・・・普段、寝る事がないから夢を見る事もなかったのだがな。」

「へ~そうなんだ・・・あっ!何か食べる?」

「ふむ。じゃぁ、それを頂こうかな。」

「え?コレ?・・・私の食べかけなんて・・・マニアックね。白夜。」


頬を染めてニヤニヤ笑う夕紀に、白夜は頭を掻きながら、


「すまん。言葉が足りなかった。それと同じモノを頂こうか。」

「もぅ。照れちゃって・・・可愛いんだから。」

「茶化すな!」


などのやりとりで、二人はいつの間にか夢の事など忘れて普段通り談笑しているのであった。



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