第四十四話 共同戦線
「オイ!大丈夫か?」
海翔が白夜に尋ねた。白夜は横目で海翔をチラッと見ると、笑いながら答えた。
「クックックッ・・・ワシヨリモ、オ主ノ方ガ大丈夫ナノカ?」
白夜に一目で心情を見破られて何も言い返せずに目を伏せた。
「マァ良イ。ソレヨリ聞ケ。・・・アヤツハ、オ主ノ事ガ眼中ニ入ッテイナイ。」
「うっ・・・。」
白夜に改めて言われ、正直・・・海翔は深く傷ついていた。
「落チ込ンデイル暇ハナイゾ?逆ニ好機カモシレン。チョット、耳ヲ貸セ。」
そう言って、海翔の耳元で白夜が何かをささやいた。
「デキルカ?」
「あぁ・・・任せろ。失敗はしない。」
海翔は白夜から離れると、再び白夜が骸に向かって行った。
白夜は骸を攻撃するが、大剣によって再び攻撃権が変わり、防戦一方に変わってしまい、決定打を打てないでいた。
一方で海翔は、地面に方陣を書いて札を数枚取り出して、方陣の四方に打ち込んだ。そんな時に白夜は上手い事、骸の払い攻撃をかわして大剣を大きな岩にめり込ませる事に成功した。
「モラッタ!!」
一瞬で骸の背後に回り込み、大剣を持つ腕めがけて鋭い突きを打ち込もうとした時、ブチブチッと嫌な音を立てながら大剣の肉塊を引き裂き、めり込んでいない刃の方で白夜を攻撃した。
刃が当たる寸前の所で白夜は躱し、骸から距離を取った。
「チッ・・・ヤハリ、二刀流ニナルノカ。」
そう思って身構えた時、骸はめり込んだ刃を抜き取ると再び大剣に戻した。ふと、白夜は骸に異変を感じ取った。それは、二刀流にすれば明らかに優位なはずなのに、再び大剣に戻した事と、明らかに大量の妖気を消耗している感じだった。
その時、数枚の御札が骸めがけて飛んできて爆発した。
「コッチだ!」
海翔が白夜に向かって、大きく手招きをしていた。
白夜は、骸を警戒しながら海翔の方へ移動した。爆煙が晴れると今まで海翔の攻撃が通用しなかった骸がダメージを受けていた。
『ヴォォォォォォォ!!!』
怒るように咆えた骸が、白夜達の方へめがけて突進してきた。とっさに海翔がもう一枚、札を投げ爆発させたが、怯むことなく煙の中を突撃してきた骸は、海翔が作った方陣の中に足を踏み入れた。
その瞬間、骸の身体が痺れたように身動きできないようになった。
「かかったな。」
海翔はうっすらと笑った。そして、白夜は骸に近づき、
「オ主ノ敗因ハ、人間ヲ見クビッタ事ダ。」
そう言って、大剣をしっかり持ってる腕を切り落とし、地面に突き刺さった大剣に向けて、
「終ワリダ。」
と、呟いて弓のように引いた拳を打ち込んだ。その衝撃で大剣は粉々に砕けた。
その瞬間、骸は灰になり、大剣の肉塊も溶けるように消滅し、その中からおびただしい数の光の粒が上空に向けて登り始めた。
「囚われていた魂が解放されたようだな。」
海翔は昇る光の粒を見上げなら呟いた。
「ふぅ・・・流石に疲れたぞ・・・コレは、もう少し上乗せして貰わないと割に合わないな。」
いつの間にか少女の姿に戻った白夜は、その場に座り込んだ。
「助かったよ。・・・正直、俺一人じゃぁ無・・・・?!」
白夜に礼を言おうと海翔が振り向いた時、白夜が丸裸で座り込んでいたので、慌てて目を背けた。
「い、いきなり、人の姿に戻るな!ビックリするだろう!!」
「何時戻ろうが、ワシの勝手であろう?あの大きさを維持するより、少女の姿の方が消耗が少ないし、喋りやすいからな。」
白夜が見上げた時に、海翔の顔は真っ赤で目を背けていた事に気付いた。
「なんだ?お主、顔なんか真っ赤にして・・・さては、お主・・・女子の裸に耐性がないのか?・・・以外にウブじゃな。」
茶化しながらニヤニヤ笑う白夜に、服を投げ渡し
「五月蠅い!さっさと服を着ろ!」
「へいへい。」
誤魔化す海翔に、笑いながら気の抜けた返事をして白夜は服を着た。
服を着た白夜は立ち上がって、背伸びをすると
「さて、日が暮れる前に山を下りるかな?」
そう言って、海翔の方をジロジロと見ていた。ちょっと、ムズかゆくなったので海翔は理由を聞いた。
「何、ジロジロ見てるんだ?・・・気持ち悪い。」
「いや、お主は余り疲れてるように見えないからな。」
「確かに、余り消耗はしてないな。」
「ふむ。なるほどな・・・。」
白夜は何かに納得したかのように頷くと、軽く手を叩いて
「よし!お主が式神を出してこの山を一気に降りよう。」
「はっ?!何言ってやがる。」
拒絶する海翔に白夜は座り込んでいじけながら、
「ワシは疲れてもう一歩も動けんし分身を出す余力もない・・・。それに引き替え、お主はさほど『闘って無い』からなぁ・・・ワシより余裕があると思うのだが・・・。」
責めるように言う白夜に何も言い返せない海翔は、渋々承諾した。
「わかったわかった。今出すから、乗れ。」
「ほぉ。話がわかるではないか。」
「白々しい・・・。」
ブツブツ言いながらも海翔は大きく赤い鳥の式神を召喚した。
「ほら、さっさと乗れ。」
海翔は乗るように言うと、白夜は手を差しだし、
「言ったであろう?一歩も動けないと。こんな幼い子に無理させるのはどうかと思うぞ?」
「うぐぐぐ・・・。あーもう!わかったよ。ほら!」
海翔は白夜を抱きかかえて式神に乗せると、あとから白夜の後ろに乗り式神を飛翔させた。
赤く大きい鳥は空高く飛翔し、山の上で弧を描くように飛んでから山を一気に降りていった。