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第四十二話  電車


まだ寝静まってる街の朝、居間の戸を開けて白夜は外庭で鳥型の式神から紙を受け取り内容を読んだ。


「・・・ふむ、夕飯には間に合うかな・・・。」


頭を掻いて白夜は家に戻ると、朝ご飯の支度を始めた。

ご飯の支度も出来、夕紀を起こしに部屋に向かった。

再び騒々しい、いつもの日常、夕紀を学校に見送ると白夜は早速、簡単に出かける支度を済ませて戸締まりを確認した後、玄関を閉めてから夕紀に言われていた所に鍵を隠すと足早に家を離れ、指定された場所へ向かった。


人気の少ない無人駅の前で海翔が時計を見ながら、ウロウロと歩いていた。


「お主・・・挙動不審過ぎるぞ。何をウロウロしてるのだ?」


海翔の後ろから白夜が声をかけられ、驚いて後ろを振り向き視線を降ろした。


「なんだ・・・お前か、脅かすな。」

「なんだとは失礼なヤツだな。・・・まぁよい。で?ここからどうするんだ?」


ムッとした表情で白夜は海翔に尋ねた。


「あぁ。もうすぐ電車が来るからそれに乗って目的地へ向かう。」

「ほぉ?電車か・・・」

「む?どうした?・・・電車が苦手なのか?」

「い、いや・・・そうではない。・・・ただ、初めて乗る乗り物だから勝手が分からないのだ。」


戸惑う白夜の表情に、思わず海翔は吹き出した。


「何がおかしい?!当然だろう?人の乗り物などに頼って生きてきた訳ではないのだから!」

「い、いや、すまん。お前でもそう言う表情をするとは思っていなかったから、つい。」 「ふん!まぁ、良い。ちゃんと案内頼むぞ。」

「あ、あぁ・・・。おっと・・・それと、これが切符だ。」

「ふん!」


含み笑いする海翔が差し出した切符を白夜は不機嫌そうに受け取った。


「楽しい旅になりそうだな。」


皮肉っぽく言ってから先に進む白夜を海翔が呼び止めた。


「待て!どっちで乗るか分かってるのか?」


歩む足を止めてから白夜は海翔の側まで戻ってきて、うつむいたまま無言で海翔のスネを蹴った。

痛みで思わずスネを抱えて座り込む海翔に、白夜は顔を真っ赤にして


「そう言う事は早く言わんか!さっさと案内しろ。」


と言って、手を差し出した。


「勝手に進んだのはお前だろう。」


不服そうに呟くと海翔は白夜の手を取り、電車が来るホームへ向かった。

やがて、ホームに電車が着き白夜を先頭に二人は中に乗り込んだ。白夜が窓側の座席に座りその横へ海翔が座ったと同時に、ドアが閉まり電車が動き出した。

割と電車の中は空いていて、二人の間に会話もなく、白夜は移り変わる外の風景を眺めていた。海翔は通路側の肘掛けに肘を乗せて、頭を支える様な感じで目を閉じていた。

ふと、薄めで白夜の横顔を見たとき、子供のように目を輝かせながら外の風景を見ている姿が入り込んできた。


(こうして見ていると・・・タダの子供にしか見えないのだがな・・・。)


そう思い、自然とほころんでる自分の顔に気付き、慌てて頭を振った。そして、二つ目の駅に着いた時、着物を着た老婆が入ってきた。


「この席・・・いいかのぉ?」

「あ、どうぞ。」

「ありがとぉ。」


正面の席に座っていいか尋ねてきた老婆に、思わず返事した海翔に対して微笑んでお礼を言うと、重そうな荷物を窓際に置き座席に座った。


「娘さんと旅行ですか?」


老婆のイキナリの質問に海翔は慌てて否定した。


「あ、い、いや・・・娘じゃ無いんですけど・・・。」

「おや?じゃぁ、妹さんですか?」

「え?あ、いや・・・。」


確かに自分の顔は老けているかも知れないが、娘を持ってる年齢に間違われて、軽くショックを受けてる海翔の隣で白夜はクスクスと笑いながら、海翔のフォローをした。


「今日は、お兄ちゃんと一緒にお使いなの。」

「あら?そうなの?いいわねぇ。」


白夜は笑顔で頷くと、老婆も微笑みながら納得したようだった。


「その気持ち悪いしゃべり方はなんだ?それと、何時、貴様と兄妹になったんだ?!」

「なんだ?折角助けてやったのに・・・別に、幼女を連れ回す変態にしてもいいんだぞ?それは、それでおもしろいがな・・・クックックッ。」


海翔と白夜がコソコソと話している姿を見ていた老婆は、


「仲が良いい兄妹で・・・羨ましいのぉ。」


と笑っていた。

しばらくの間、老婆との話し相手は白夜がしていて、海翔は居づらそうに車内を見ていた。


「ところで・・・お二人は何処まで行くのかのぉ?」

「えーと・・・何処まで行くの?お兄ちゃん。」


白夜の問いかけに対して、海翔は無反応だった。


「お・に・い・ちゃん!」


反応の無い海翔に少しムカッとした白夜は、笑顔で寄りかかるように体重の乗った肘が、海翔の横腹に直撃した。

イキナリの攻撃に海翔は低く短い悲鳴を上げて横腹を押さえたまま、やや涙目で白夜を睨んだ。


「イキナリ何をする!」

「何処行くか聞いてるのに、無視するからだ!」


海翔は、横腹を擦りながら不機嫌そうに、


灰華町ハイカチョウまで行く予定だ。」

「あんた達・・・灰華町に行くのかい?なら・・・今、開発地になってる彩葉山イロハヤマには近づいちゃぁいけないよ。」


神妙な顔で注意する老婆に不思議そうな顔で白夜が尋ねた。


「どうして?おばぁちゃん。」

「祟りじゃよ。」

「たたり?」

「そう・・・山の開発に携わっていた作業員の一人が重傷ながらも、自力で下山したそうじゃ。その作業員は、恐怖の余り多くを語らなかったが・・・作業中、誤って古びた祠を壊したらしい・・・その際、祠の周辺に近寄った作業員が何者かに細切れにされ、その後、次々と同僚が殺されたらしい。」

「そんなことが・・・。」


神妙な顔持ちで聞く白夜の横で、顔を背けながらも聞き耳をたててる海翔を見ながら老婆は話を続けた。


「私の倅もその開発に携わっておったが・・・連絡が取れんのじゃ。その山に、幾人の霊媒師が呼ばれたが・・・誰一人帰ってこなかったと聞いて・・・倅もアノ山に入って帰って来れなくなったのかものぉ。」


老婆は悲しい表情を浮かべて、寂しげに笑った。


「今の私に出来る事は・・・倅の無事を祈るしかできないからのぉ。・・・すまんの・・・辛気くさい話になってしまったわい。」


丁度その時、次の駅のアナウンスが流れた。


「おっと、私は此処で降りるとするかのぉ。・・・老人の与太話に付き合わせてしまったわい。」


荷物を自分の方へ引き寄せて老婆は立ち上がると、ニッコリと笑って、


「それじゃぁ・・・二人とも仲良く、気をつけてなぁ。」


そう言って、頭を下げてから歩こうとした時に、白夜が声をかけた。


「おばぁちゃん!私がそのお化け、倒してあげるから。元気出して!」


と、手を振る白夜に、老婆はフフッと笑って、


「ありがとう。お嬢ちゃん・・・元気づけてくれて、ありがとう。」


そう言って、白夜の頭を優しく撫でてから、出口へと去っていった。


「いいのか?そんな約束して。」

「できないのか?」

「ふん。俺は他の霊媒師とは違う。」

「なら、良いじゃないか。」


ニコッと笑う白夜に、海翔は顔を背けた。


「まったく・・・人を元気づけるとは・・・変わった妖だ。」

「何か言った?」

「別に・・・。」


再び、二人の間に沈黙が続いたが、海翔の中で少しずつ・・・認識が変わりつつあった。



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