第四十一話 電話
投稿遅れました。
申し訳ありません!!
・・・―――だいぶ日が傾いてきた夕暮れの道を、全力疾走で家に向かう夕紀の姿があった。
そして、そのままの勢いで、玄関へと駆け込んだ。
「はぁ、はぁ・・・た、だいまぁ!」
玄関を入って直ぐ、フロアに寝転がった。
そこへ、白夜が顔を出した。
「騒がしいと思ったら、夕紀か?お主・・・何故、そんなに疲れ切ってるのだ?」
「えへへ・・・急いで帰って来ちゃった。」
ヤレヤレと近づいて来た白夜に両手を伸ばして、
「あ~ん・・・白夜ぁ。起こして~。」
っと、甘え声で白夜に起こしてくれるよう頼んだ。
白夜は苦笑いをして、仰向けで寝転がってる夕紀をまたがって、両手を掴み起こすと、夕紀はそのまま白夜に抱きついた。
「な、何をしておるのだお主?早く離れないか。」
「うーん、もうちょっとこのままで居たい。」
白夜のお腹に顔を擦りつけながら、甘えた声を出してる夕紀にタメ息をついて、微笑みながら夕紀の頭を軽く叩き、
「まったく、お主は・・・早く服着替えて風呂に行ってこい。その間に夕飯の支度をしておく。」
「はーい。白夜は一緒に入らないの?」
「ハハハ・・・、たわけ!お主が夕飯食べてる間に入るさ。」
「えー!一緒に入ろうよぉ。」
「はぁ・・・今度、一緒に入ってやるから、今回は諦めろ。」
「むぅ・・・残念!」
抱きついてた手を離して白夜を解放すると、夕紀は靴を脱いでから自分の部屋へ荷物を置きに行った。
夕紀が着替えを持って降りてくると、ふと、白夜に尋ねた。
「ねぇ白夜?今日は変わった事無かった?」
「ん?どうしたんだ?突然・・・。」
「んー・・・。何となく聞いてみただけ!」
「そうか・・・まぁ、早く入らないと夕飯は、直ぐ出来てしまうぞ?」
「あ!待って待って!直ぐ入るから!」
白夜に急かされて、夕紀は慌てて風呂場に駆け込むその後ろ姿を眺めながら、
「海翔が来た事は黙っておくかな・・・。」
っと、頬を掻きながら、そう呟いて台所へ向かった。
しばらくして、風呂場から夕紀が頭を拭きながら出てきた。
「あぁ・・・お腹空いた。」
「そう言うと思ってたぞ。だから、食事の準備も済ませてある。」
「やった!」
夕紀は喜び急いで、おかずをつまみ食いした。
「ん~・・・おいし♪」
「コラ!行儀が悪い!ちゃんと座って食べろ。」
「は~い。」
腰に手を当てて叱る白夜に、舌を出して返事をしてから夕紀は席に座った。
「まったく・・・、取りあえず風呂に行ってくるから、後は頼んだぞ。」
「は~い。ゆっくりしてらっしゃい。」
「うむ。」
箸をくわえて微笑みながら手を振り、白夜を見送った後に思い出したかのように席を立つと、夕紀は自分の部屋へ戻って行った。
白夜が風呂場から出てきた時、綺麗に食べ終えた食器はそのままで、箸を口にくわえたまま、上下に揺らしながら携帯電話とにらめっこをしていた。
「何とにらみ合いをしておるのだ?」
「わっ?!・・・ビックリしたぁ・・・。」
急に白夜に声を掛けられたから、口にくわえてた箸を下に落とした。
落とした箸を拾いながら、夕紀は答えた。
「んー・・・しょっと、えーと・・・楽器を購入する資金について、親に何て言おうか考えてたの。」
「ほぉ・・・まぁ、滅多に使わない場所を使っても仕方ないだろ?」
「あ!ひどーい!」
怒る夕紀をよそ目に笑う白夜。しかし、白夜の一言に踏ん切りがついたのか、夕紀は携帯を片手に席を立った。
「ありがとう。白夜。考えても仕方ないよね!」
よしっ!っと気合いを入れる夕紀を見て、クスクスと笑いながら、
「悪態付いて、感謝されたのは初めてだな。」
と言って、白夜は夕紀に歩み寄った。
「じゃぁ、ちょっと電話するから静かにしててね。」
「あぁ。わかった。」
夕紀は深呼吸してから、真剣な顔で番号を打ち込んでいたが、夕紀の顔を見ながら声を殺して笑っている白夜に釣られて、夕紀も笑いだした。
「もう!何、笑ってるの!思わず笑っちゃったじゃない!」
「くっくっくっ・・・いや、すまない。お主の真剣な顔が余りにもおかしくって・・・。」
笑いながら怒る夕紀に白夜もまた、笑いながら謝った。
気を取り直して電話をかけたが、まだ笑みが残ったままの夕紀だった。
しばらく、無言が続いた。・・・そして、ようやく繋がった。
「あっ、ママ?・・・ごめん。寝てた?・・・うん。・・・あのね。実は、折り入ってお願いしたい事があるの。」
端から見るとなんだか声の大きい独り言に見えてしまう。
再び夕紀の視界に白夜の笑ってる顔が映り、叩く素振りを見せる夕紀に対して、声を殺して笑いながら白夜は体を反らして避けた。
「え?・・・ううん。何でもないの。それで・・・あの・・・友達と一緒にバンドやってみようと思うの。だから楽器を買おうと思うんだけど・・・。」
夕紀は少し言葉を詰まらせた。仕事の内容は分からないが、親が大変な仕事をしている事は分かっているから、金額を提示する事が心苦しかったのだろう。少しの沈黙から夕紀は思いきって話を切り出した。
「・・・あのね。楽器を買うお金を送って欲しいの。・・・うん。うん。えーと・・・二万位するみたいだから・・・うん・・・お願い。・・・うん。」
重い表情から段々と明るい表情へと夕紀の顔が変化してきた。
「本当?うん。うん。やった!・・・うん。絶対、大切にする!うん。ありがとう!うん。じゃぁ、仕事頑張って!うん。また電話する!じゃぁね。」
夕紀は明るい表情で白夜に抱きつくと、
「ママがお金送ってくれるって!私、がんばるよ!」
「そうか。よかったな。」
はしゃぐ夕紀の姿を見て、白夜も自分の事のように一緒に喜んでいた。
―――・・・一方、夕紀の両親が泊まってる外国のホテル内、
「誰からなんだい?」
父親がゆっくりとベットから起き上がり、母親に尋ねた。
「珍しく・・・あの子から電話がかかってきたわ。」
「へぇ・・・本当に珍しいね。普段はコッチからかける事はあるんだけどね。・・・どんな用事だい?」
「バンドやりたいから、楽器を買うお金を送って欲しいんだって。」
「そうなんだ・・・いつも遠慮していたあの子がそんな事を?」
「そうなの。でも・・・なんだか安心したわ。」
「・・・?どうしてだい?」
不思議そうに聞く父親に、微笑みながら母親が答えた。
「以前までは、なんだか強がってる様な感じだったけど・・・今日の声を聞いたら、本当に楽しそうに話してくれたの。・・・好きな子が出来たのかも?」
「え?!」
茶化すように笑う母親に、動揺する父親が、
「いやいやいや・・・ま、まだ子供だよ?!」
「あら?子供だって恋はするものよ。家に居ない間に、娘が余所の男に取られるかも知れないわよ~?」
「いいいい、いや!だ、だめだ!お父さんは許さないからな!」
「フフフ・・・。冗談よ。」
ベットから立ち上がって吠える父親を笑いながら母親がなだめた。