第四十話 依頼
「で?話とは何だ?」
居間に通した海翔の前にお茶を置いて尋ねた。
「あぁ・・・実は・・・。」
話を切り出そうとした時に、海翔の腹の音大きく鳴った。
それを聞いた白夜は吹き出して笑い、海翔は慌てて誤魔化そうとしていた。
「ハハハ!何だお主。飯を食べてなかったのか?だから、朝からカリカリするんだ。」 「あ・・・いや・・・コレはその・・・。」
「まぁよい。ちょっと待っておれ。」
そう言って、白夜は台所へ向かい、冷蔵庫から朝に作ったおかずを取り出して、レンジで温めてからご飯と一緒に海翔の前に置いた。
「ほれ、コレでも食え。話はコレを食った後だ。」
「いや。俺はそんなつもりで、ここに来た訳ではない」
「頑固なヤツだなぁ。心配せんでも毒など入れておらん。」
「だが・・・。」
海翔に箸を渡して食べるように促したが、一向に食べようとしないので、白夜はヤレヤレっと言った表情でテーブルを挟んで、海翔の正面に座った。
「まぁ、食べぬのなら構わんよ。無理強いはせん。しかし、お主のその腹の音を聞いてると、緊張感が台無しなのでな。」
海翔の意志とは裏腹に、体は正直なのか・・・白夜が持って来たおかずに反応して、ずっと腹が鳴っていた。
正直、ここ数日まともな飯を食べてなかった海翔の腹は目の前に置いてある御馳走に、早く食え!っと言わんばかりに段々と音が大きくなってる感じだった。
クスクスと笑う白夜を目の前にして、海翔も真剣な話が到底出来そうに無いと感じ、覚悟を決めて箸を取った。
「・・・わかった。確かにこのままじゃ、話しにならないな。・・・頂く。」
海翔は恐る恐る箸を勧めておかずを一口食べた瞬間、久々のまともな食事の味に自然と箸が進んだ。
そして、気がつくと、いつの間にか皿の上にあったモノを綺麗に平らげていた。
「クックックッ。体は正直だな。」
「・・・すまない。馳走になった。」
茶化す白夜に反論できず、海翔は小声で礼を述べた。
白夜は食べ終わった食器を下げてから、空になっていた湯飲みに茶を注ぐと再び海翔の正面に腰を据えた。
「さて、コレで本題に入れるな?・・・で、用件は?」
白夜が質問すると、海翔は一枚の紙を差し出した。
「コレは?」
白夜は差し出された紙を手に取り、再び尋ねた。
「この街から、少し離れた山奥に人を襲う化け物が出るらしい・・・それを退治してくれないかって言う依頼書だ。」
「それと、ワシがどういう関係があると?」
「手伝ってくれないか?」
唐突な申し出に、一瞬目を丸くしてから白夜は笑い出した。
「ハハハ!イキナリ何を言い出すかと思えば・・・言うなれば、ワシとお主は敵対同士だぞ?」
「わかっている!だが・・・お前ほどの強大な力を持ちながら、話が出来る妖には会ったことが無い。・・・無茶を承知で頼んでいるんだ!この通りだ!!」
海翔は白夜の前で土下座をしながら頼んだ。
それを目の当たりにして、白夜はタメ息をついて尋ねた。
「敵に何故そこまでする?」
「・・・この化け物は、普通の人間では歯が立たないらしい。我々からも手練れが数人派遣されたが一人として帰ってこなかった。」
「ほぉ・・・それで、ワシに手伝えと?」
海翔は無言で頷いて、
「戦力は少しでも多い方がいい。だが・・・この化け物に弟を連れて行くにはまだ早すぎる。」
「お主に弟がいるのか?」
「あぁ・・・式神は使えるが・・・まだ子供だ。そんな、危険な場所へ連れて行ける訳がない。」
「ほぉ・・・なるほどな・・・事情はわかった。」
「じゃぁ・・・。」
海翔が顔を上げると、白夜は手を差し出した。
「・・・?なんだ?その手は?」
白夜は海翔の顔の前で、手の平を上下に揺らしながら、
「決まっておろう?・・・まさか、無償で手伝うと思っていたのか?」
「グッ・・・何が望みだ?」
「そうだな・・・。」
人差し指で自分のアゴを数回触れてから、白夜は手を叩くと、
「ワシもこの家では居候の身、肩身が狭い思いをしておったのだ・・・丁度良い、手伝い賃を頂こうか?」
「うっ・・・すまないが、今、持ち合わせが・・・。」
「・・・その依頼に、報奨金は出ないのか?」
「いや・・・危険度の高い依頼だから、それなりの金額が出る。」
「なら、その報奨金から四割位頂こう。それでよかろう?」
「うっ・・・わ、わかった。それで良いなら。」
「よし!交渉成立だな?」
「・・・あぁ、よろしく頼む。」
海翔は立ち上がり、白夜と握手を交わした。
「じゃぁ・・・俺はこれで失礼する。日時は、また後日連絡する。」
「わかった。・・・処で、怪我の方はもう大丈夫なのか?」
「あぁ・・・問題ない。」
白夜の問いかけに振り向かずに答えると、玄関を出て行った。
フゥ・・・と白夜は息を漏らすと、
「全然、大丈夫そうに見えんな。傷も癒えぬうちにまた、新しい傷が増えてるではないか。・・・まったく、無茶をする男だ。」
そう言って、白夜は後片付けをしに部屋に戻っていった。その時、再び海翔が置いていった紙を手に取り、白夜は頭を掻いた。
「人を襲う化け物か・・・つい最近、出てきた化け物か?」
白夜は、自分の知らない場所で異変が起きているのではないかと、嫌な予感がしていた。
―――授業も終わり、放課後・・・
部活に行こうとするヒロミを夕紀が呼び止めた。
「あ!待って、待って!・・・ねぇ、ヒロミ。ベースって一体いくら位するの?」
「え?イキナリどうしたの?」
「えーとね。本格的にやりたいから、参考に聞いてみようと思って。」
夕紀の答えにヒロミは驚きながら、夕紀の後ろ肩を叩いた。
「おー!気合い入ってるね!!良い事だ!」
「ちょ、痛い痛い!」
「あー・・・ごめんごめん。えーと・・・そうねぇ。大体、安くても二万円程度はするかな?」
「え?!そんなにするの?」
「そうよ。」
夕紀はヒロミから聞かされた値段に肩を落とした。
「結構するのね・・・。」
「まぁ・・・中学生でその値段は、でないよねぇ。」
ヒロミも苦笑いしながら、夕紀を元気付けた。
「大丈夫よ!貸してくれるアテはあるから。」
しかし、夕紀は首を横に振り、
「ううん。やっぱり、借り物は性に合わないし・・・親に頼んでみる。」
「え?夕紀の親って・・・海外でしょ?大丈夫なの?」
「んー・・・わかんないけど、やると決めたからには、私はやるよ!何とか説得してみる。」
「おぉ・・・その意気だ!もしダメでも、ベースは借りられるから心配しないで。」 「うん。その時はお願いね。あっ!後、もし説得成功出来たら、選ぶの手伝ってね?私分からないから。」
「OK、OK!任せて、じゃぁ・・・部活行ってくるけど頑張ってね!」
「うん!じゃぁね!」
「バイバイ!」
ヒロミは走り去りながら、夕紀に向かい手を振って別れた。
「あら?凄いやる気じゃない、夕紀。」
「うわ!ビックリした・・・突然出てこないでよ。」
千歳が背後から語りかけたので、夕紀はビックリして飛び退いた。
「失礼ね。沸いて出てきみたいに言わないでくれる?」
ちょっとふくれ気味の千歳に、夕紀は手を合わせて謝った。
「ごめんごめん。」
「まぁいいわ。それより、もし練習するときは、私の家にいらっしゃい。演奏できる場所があるから。」
「本当?助かるわ。流石に、家で大きい音出せないもんね。」
そう言って喜ぶ夕紀に、千歳は人差し指を立てて、
「ただし!白夜ちゃんは絶対同伴だからね?わかった?」
「あなた・・・練習は口実で・・・実は白夜目的ね?」
「当然よ。どのみち、白夜ちゃんも練習しないといけないだから、別に良いでしょ?」
「うっ・・・まぁね。」
「あのぉ・・・ちょっといいかな?」
夕紀と千歳が話してる処に、レンが会話に入ってきた。
「あら?どうしたの?レン君。」
「あー・・・えっと・・・ヒロミって子を探してるんだけど・・・。」
「あー。ヒロミなら部活に行ったけど?」
「そう・・・なんだ。・・・今朝の返事しようと思ったんだけどなぁ。」
困った表情でどうしようか考えてるレンに、千歳が話しかけた。
「ヒロミに用件があるなら聞いてあげるわよ?丁度、ヒロミの処へ行くつもりだったの。」
「あっ。じゃぁ・・・お願いします。えーと・・・バンドやってみたいのでお願いしますと・・・。」
「朝の勧誘OKなの?」
「うん。自分も新しい事をやってみたかったし。」
「そうなんだ。じゃぁ、私達仲間ね。」
「え?君達も?」
微笑んで頷く千歳の横で、親指を立てて満面の笑みの夕紀に申し訳なさそうな顔で二人の顔を見ていた。
「ん?どうしたの?」
夕紀は自分達の顔を見てるレンに尋ねた。
「えっ?あ・・・いや、僕、楽器とかほとんど触った事無いから、みんなに迷惑がかかるかも知れないけど、良いのかな?って思って・・・。」
そう答えたレンの肩に夕紀が手を置き、
「大丈夫よ!私もまだ練習もしてないけど、何とかなるわ。」
と、自信満々に答えるが、逆にレンは不安になった。
「え?それって大丈夫なの?」
「先の事なんて考えたって仕方ないでしょ?」
「ごめんなさいね。この子、アホな子だから。」
「ちょ!ひどい!!」
千歳に喰い掛かる夕紀達の姿に、思わずレンはクスクスと笑った。
それを見た夕紀は、レンにも突っかかってきた。
「な~に笑ってるのかなぁ?」
「あ!ご、ごめん。」
驚いて、つい謝るレンに夕紀は微笑んで、
「冗談よ。まぁ、初心者同士仲良くしましょ。」
そう言って、夕紀は手を差しだし握手を求めた。
「あ、うん。こちらこそ、よろしく。」
「あら?私も忘れないでね?」
「あっ、ごめん。」
慌てて千歳とも握手を交わした。
「じゃぁ、僕はこれで。」
「えぇ。ちゃんと報告しておきますわ。」
「お願いします。」
二人に頭を下げると、レンはゆっくりした足取りで帰った。
「じゃぁ、私も帰って、白夜とイチャイチャしようかな。」
「あら?それだったら、私の手伝いして貰おうかなぁ。」
「やーよ!じゃ!バイバイ!」
「あ!コラ!・・・もう!」
夕紀は断って、千歳にあっかんべ―をして逃げるように去ってい行った。
途中、レンとすれ違い様に肩を叩いた後、手を振って帰った。