第三十九話 転校生 ※注意!挿絵が有ります
夜が明け、白夜が部屋に入ってきて、布団の中で寝ている夕紀の体を揺さぶった。
「夕紀!もう、いい加減起きろ!遅刻するぞ!」
「ん~・・・後もう少し・・・。」
「もう、三回くらい起こしに来たんだぞ。ほら、起きろ。」
「う~ん・・・。」
なかなか起きない夕紀に白夜はタメ息をついてから、布団をはぎ取った。しかし、まだ起きない夕紀に悩む白夜は、何かを閃いたのか夕紀の上に馬乗りした。その時、短いうめき声を出したがそれでもまだ寝続ける夕紀の上で、邪悪な笑みを浮かべて両手をワキワキと動かして、そのまま夕紀の脇をこそばした。
夕紀は笑い声と一緒に目を覚ました。
「きゃはははは!ちょ、わ、わかったから、お、起きるから!やめて~!!あはははは!」
こそばしていた手を離してから白夜はヤレヤレと言った表情で、
「やっと起きたか。手間の掛かるヤツめ。」
そう言って、夕紀の上からゆっくりと降りた。夕紀も息切れしながらもゆっくり起きると頬に手を当てて、
「もう・・・朝から激しいんだから・・・白夜は。」
「ハイハイ。馬鹿な事言ってないでさっさと用意しないと遅れるぞ。」
夕紀の冗談を軽くあしらって、部屋を出た。
「ん~・・・今何時だろ?」
頭を掻きながら、夕紀は自分の携帯を手にとって時間を確認した。
「げっ?!やっばぁ!もうこんな時間だ!!」
夕紀は慌てて制服に着替えて、クシもそこそこに部屋を飛び出た。
慌ただしく下の階に降りてきて、朝ご飯を用意していた白夜の元へ滑り込んできた。
「ごめん、白夜!ご飯とお味噌汁だけ頂くね!」
「コラ!行儀が悪いぞ。」
白夜に叱られながらも、夕紀は席に座らずに立ったままご飯を口に詰めて、味噌汁で流し込んだ。
途中、喉に詰まったのか・・・胸を叩いて飲み込み、カバンを手に取って、玄関へと走って行った。
「いってきま~す!!」
そう言って、靴を履きながら家を出て行った。
「ヤレヤレ・・・朝から騒がしい娘だ。」
と、苦笑いしながらそう呟くと、おかずをラップで包み冷蔵庫に片付けて、夕紀の食べた食器を流し台へと運んだ。
夕紀が出て行った後の玄関から呼び鈴が鳴った。
「ん?こんな時間に誰だ?ワシが出る訳にもいかないのだが・・・。確認だけするかな。」
洗い物を中断して、白夜は玄関へ向かい呼び鈴を押す主を確認しに行った。
一方・・・――何とか間に合ったバスの中にて、息切れをしながら席に座る夕紀が居た。
「ふひぃ・・・。なんとか間に合った。」
「朝から全力疾走だったわね。」
グッタリしている夕紀の横で笑いながらヒロミが話しかけた。
「もう・・・1日分の体力を使い切った気がする。」
「最近は早かったけど、今日は珍しいわね?」
ヒロミの質問に苦笑いしながら、
「んー・・・安心した。て言うか・・・頼りきってるって言うか・・・。目覚ましで起きられなくなって。」
「え?誰に頼ってるの?」
「白夜。」
「あーあー・・・て、小さい子に頼って起こして貰うな!」
「アイタッ?!殴る事無いじゃない!」
「うるさい!あんたが羨ましいのよ!・・・私の妹もそれくらい尽くしてくれたらなぁ。」
恨めしそうに夕紀の顔を見るヒロミに、夕紀は目をそらして乾いた笑い声で笑った。
やがて、バスが学校前に止まって、他の学生と一緒に夕紀達が降りてきた。
すれ違う友人達と朝の挨拶を交わしながら教室へと向かった。
夕紀が自分の席に座ると、カバンを置いたヒロミと一緒に数名の女子が夕紀を取り囲んだ。
「え?な、なに?どうしたの?そんなに集まって?」
夕紀は少し引き気味で質問した。
すると女子の一人が答えた。
「あのね。今日、転校生が来るんだって!」
「え?本当?どんな子なの?」
興味津々で体を乗り出して、夕紀は尋ねた。
「私が聞いた話だと・・・女の子みたいなの。」
「えー?私は男の子って聞いたわよ?」
「え?そうなの?」
情報が混線している中、ドアが開いて先生が教室に入ってきた。
「さっさと座れ!馬鹿共!!HR始めるぞ!」
凛とした態度で眼鏡を軽く押し上げながら、暴言を吐いた。
学校内で男子生徒と一部の女子から絶大な人気を誇ってる宝塚に出てきそうな位の容姿をした女教師で、『女王様』と呼ばれるほど厳しいが、可愛い女子には優しい表情を見せる二面性のある先生だ。
「出席を取る前に、転校生が来てる。・・・おい!!そこの男子、私語を慎め!踏んでやらんぞ!」
「すみませんでした!!」
そして、このクラスの男子生徒は先生に調教・・・指導されており、どんな不良も先生の手により、一周間後には忠実な僕に更生していたのである。
「喜べ。私の権限を使って、獲得した転校生だ。・・・入ってこい。」
どんな権限を使ったのか・・・今更なので突っ込めなかった。
そして、先生に呼ばれて入ってきたのは、男子生徒の服を着ていなければ美少女と間違う位、小柄で可愛い転校生が入ってきた。
「よし。自分で自己紹介しろ。」
先生に言われ、少し戸惑った様子だが小声で、
「・・・龍造寺 憐です。・・・よろしく。」
と喋った。・・・少女の様な声を聞いた男子生徒は歓喜の叫びを上げた。
「男の娘来たぁぁぁ!!ついに、ついに・・・リアル萌えキャラコンプリートだぜぇぇ!!」
抱き合って喜ぶ男子の中に混ざって、一緒に喜ぶ夕紀の姿があった。
その異様な光景に、流石の転校生もドン引きだった。
「落ち着け!馬鹿共!」
先生の一言で、騒いでた生徒は一瞬で静かに席に戻った。
「取りあえず、席だが・・・。」
先生は辺りを見渡してから、教壇前に座ってる男子に指をさし、
「そこのお前。その席を転校生に譲れ。」
「え?」
「はい!喜んで!!」
「えぇ?!」
「よし。良い子だ。」
困惑するレンに対して、指名された男子生徒は、速やかに席を空けたと同時に挙手して先生に尋ねた。
「先生!僕は何処に座ればよいでしょうか?」
「そうだな・・・お前、ここで私の腰掛けになれ。」
「喜んで!」
先生の指示通り、男子生徒は喜々として四つん這いになった。
「冗談だ・・・本当にするな。」
「放置プレイですね!ありがとうございます!」
「プレイとか言うな。」
席に座るのを躊躇するレンとは対照的に、先生からご褒美?を貰って喜んでる男子生徒に対して、他の男子から嫉妬のこもった妬みが声があがった。
「くっそぉ・・・羨ましいな。」
「全くだ。俺が指名されたかったぜ。」
このクラスの男子は先生に忠実で、それ故に、クラスの別名は『女王部屋』や『よく調教されたクラス』などと呼ばれている。そして、今日もまた一人、新しい生け贄がこのクラスに来てしまった。
子羊のように戸惑い、席に着けずにいレンに狼のような先生が、席に着くよう促した。
「どうした?早く席に着きなさい。」
「え?で、でも・・・。」
「大丈夫だ。誰も取って食わないさ。」
そう言ってる先生の目が、取って食いそうな目をしているように感じて、慌ててレンは席に着いた。
「それじゃ、転校生の紹介も終わったし。仲良くするんだぞ。わかったな?」
「はい!」
「よろしい。では、HRも始める。」
―――HRが終了して、レンの周りに生徒が集まってきた。
「ねぇ、ねぇ!レン君!前の学校ってどうだった?」
「兄弟とか居る?」
次々と質問が来て答えられずに居るレンに、微笑みながら夕紀が尋ねてきた。
「レン君に彼氏とか居る?」
「え?!ぼ、僕男だよ?居る訳無いじゃん。」
「だってさ!よかったね。男子。」
「よっしゃぁぁぁぁ!!」
「えぇ?!」
夕紀の妙な質問に答えて、異様なやる気を出してる他の男子生徒を見て、レンはこのクラスで友達を作るのが絶望的に思えてきた。
そこへ、もう一人、レンに質問をしてきた。
「レン君は、楽器とか興味有る?」
「え?まぁ・・・嫌いじゃないかな?」
「私とバンド組まない?」
「えぇ?!イキナリそんな事言われても・・・。」
「お願い!ドラムの子がどうしても見つからないの!」
「あ!ズルイわよ、ヒロミ。レン君狙ってるのは、貴方だけじゃないのよ?」
「そうだ、そうだ!」
「うるさい男子!あんた達は別の意味で狙ってるだけでしょ?」
「・・・・。」
「否定しなさいよ!」
ヒロミは一息ついてからレンの手を両手でガッチリ握って、改めて頼んだ。
「学校祭までにドラム出来る子が欲しいの。簡単な楽器じゃ無いから無理強いは出来ないけど、やっても良いかな?って思ったら私に声を掛けてくれるだけで良いから。その時は、大歓迎するわ。」
そう言ってヒロミが離れると、夕紀がヒロミの側へと駆け寄って何かを話しているようだった。
―――・・・一方、夕紀の家に来た訪問者は・・・、見覚えのある顔だった。
白夜はあえて、居留守を使って訪問者が帰るのを待ったが、しきりにチャイムを鳴らし、ドアを叩いていた。
「居るのは分かってるんだ!此処を開けろ!」
ドアの外で怒鳴り声を上げているが、白夜は無視をして片付けをしていた。
しばらくして、チャイムとドアを叩く音がしなくなり、帰ったかな?っと白夜が安堵した時、玄関から異様に高まる霊圧を感じたので、まさか?!と思い玄関に向かうと、呪文を唱える声がしてきたので、白夜は急いでドアを開けた。
「お主は人様の家のドアを破壊するつもりか?!」
白夜の姿を確認した後でも、唱えるのを止めなかったので、
「やめんか!」
「ホッ?!」
と言う怒鳴り声と一緒に、白夜はストレートを放ち、訪問者の腰が軽く宙に浮いた。 うずくまり、体を丸くして股間を押さえながら小刻みに震える訪問者を腕を組みながら見下して尋ねた。
「全く・・・どういう了見だ?龍造寺 海翔よ。」
悶絶しながらも途切れ途切れに答えた。
「ふ、不本意だが・・・貴様の力を借りにきた・・・。」
「そうか・・・。残念だが、他を当たってくれ。」
素早く切り捨てて、白夜は玄関のドアを閉めようとしたが、海翔はうずくまりながらも必死に戸が閉まらないよう手で押さえてた。
「は、話だけでも聞いてくれ!」
白夜も必死になってる海翔を見て、タメ息をついた。
「わかった。そこまで必死になるって事は、理由があるのだろう。」
そう言って、ドアを開け海翔に手を差し伸べた。
その手を取って海翔は立ち上がり服のホコリを払って、毅然とした表情で立っているが、まだダメージが残ってるみたいで足がガクガクだった。
「大丈夫か?立ってるのがやっとみたいだが・・・。」
「だ、大丈夫だ。問題ない。」
白夜は笑いを堪えながら、海翔を家に招き入れた。