第三話 二人の朝 ※注意!挿絵が有ります
朝――閉じたカーテンの隙間からまばゆい太陽の光が差し込み、小鳥のさえずりが窓の外から聞こえてきた。
ゆっくりと夕紀は目を覚ました。眠たそうな目を擦り・・・ふと、何かを探すように周りを見渡した。
「あれ?白夜は・・・?」
そこには、昨日出会ったモノの姿は無かった。夢・・・そう思うには、まだ手に暖かい誰かの感触が残っていた。
悪夢の様な事件から夢のような出会い・・・夕紀は現実とかけ離れた出来事に、本当は、すべて夢だったのだろうか?と錯覚するぐらいだった。
寝ボケた頭で考えても整理が付かない・・・そう思い、布団から出て洗面所で顔を洗おうと一階に下りると・・・台所の方から物音がしていた。
「あれ?誰か居るのかな?」
恐る恐る覗いてみると・・・そこには、白髪の少女が炊事場に立っていた。
「あっ!」
夕紀は、思わず声を出した。その声に気づいた少女が振り返った。
身長が届かないのか、踏み台に登って調理してる姿に、ちょっと萌えてしまった。
「ん?おぉ!起きたか?朝飯出来たぞ。」
「あ、ありがとう。・・・・朝ご飯作ってくれたの?」
「うむ。・・・ん?不思議そうな顔をしてるな。」
当然である。人外であるはずの白夜が自分より手際よく炊飯器やレンジ等、家電製品を使ってる姿に敗北感を感じていた。
「伊達に長生きはしてないぞ。最近は、特に便利な機械が増えて料理が楽になったな。」
そう言って笑いながら、味噌汁の味見をしていた。
よく考えたら・・・まともな朝ご飯を食べたことがなかったかもしれない。
「さて、こんなモノだろ・・・いつまでもそこで呆けてないで、こっちに来て食べろ。」
白夜は手招きし、夕紀を椅子に座らせた。そして、テーブルの上に朝ご飯定食が並んだ。
「あれ?白夜の分は?」
そう、夕紀が訪ねると
「あぁ・・・、ワシは別に食べなくとも平気だからな。必要なら食べるが・・・まぁ、今は気にするな。食べてみろ?結構、味には自信があるぞ」
得意気な顔で見る白夜に勧められ、おかずを一口食べた。
「あっ・・・凄く美味しい・・・。」
「だろ?」
朝は普段から、そんなに食べずにいた。そして、今回も正直、この量は無理だろうなぁ・・・と思いつつ食べてみると、不思議と箸が進んだ。
その隣で、黙々と食べる夕紀の横顔を椅子に座ってニコニコと眺めてる、あどけない白夜の姿があった。
夕紀は食べながら、そんな白夜の姿を見て『可愛いなぁ』と心底飛びつきたい衝動を耐えていた。
「ふぅ・・・ご馳走様!」
「どういたしまして。」
何気ない応対に、二人して笑った。――朝から笑ったのは、久しぶりかもしれない。
片づける白夜と一緒に、自然と夕紀も手伝っていた。
「あっ!そうだ!!ねぇ、後でちょっと買い物を手伝ってくれない?」
「ぬ?別に構わぬが・・・コノ姿でか?」
「もちろん!」
「コノ姿では、いろいろと不便かもしれぬが・・・。」
「その姿でいいの!ちょっと、お礼もしたいしさ。」
二人は一緒に食器を洗いながら、後で買い物に行く約束をした。洗い物が終わり、夕紀はよそ行き用の準備をし始めたが、白夜はただ夕紀の準備が終わるのを待っていた。
「?・・・まさか、その格好で出かけるの?」
「ぬ?そうだが?まずいのか?」
「ダ、ダメよ!当たり前じゃない!ちょっと、こっちに来なさいよ。」
「お、おい?」
夕紀は強引に白夜の手を引っ張って自分の部屋に連れ込んだ。
「私の服貸してあげる。ちょっと待ってて・・・。」
「いや、コノ格好でも・・・。」
「ダ・メ!布一枚じゃない。・・・・ちょっと!下着はいてないの?!」
夕紀は白夜が着ている布をめくった。流石の白夜も慌てて押さえて赤面した。
「は、離さんか!馬鹿者!」
「もう、私の下着も貸してあげるから・・・。」
「ちょ、まて、自分で着るから、は、離・・・うわっ!」
その後・・・白夜の悲鳴が虚しく響いた。
「これで良し!」
満面の笑みで満足気な夕紀とは対照的に、燃え尽きた様にベットにもたれかかって座り込む白夜が居た。
「何故・・・ワシが、こんな格好を・・・。」
「何言ってるの!似合ってるわよ!もっっの凄くカワイイ!今すぐにも抱きしめたい位よ!」
夕紀は両手をワキワキさせながら、ジリジリと白夜に近づいてきてた。
「なんだその手は!なんだその手は!!」
身の危険を感じたのか、白夜は座り込んだまま後ずさりした。
「あはは・・・冗談だよ冗談。」
「・・・嘘だ。」
疑心暗鬼でおびえる白夜、夕紀はお構いなしに白夜の手をとって立たした。
「うん。やっぱりカワイイ!似合うよ」
「そ、そうか?さっきのと、余り変わらないような気が・・・。」
「全然違うわよ!そっちの方がいいって」
無理矢理着させられたピンクのワンピースだったが、白夜もまんざらでも無いようだった。
夕紀は、うんうんと頷いて軽く両手を叩いて、白夜の手を引いた。
「さて!準備も出来たし!行こうか!」
「う、うむ」
そして、二人は家を後にして、バスに乗って街へと向かった。