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第三十六話  夜の散歩


夕紀は自分の部屋でベッドに寝そべり、布団を被った。


「じゃぁ、電気を消すぞ?」

「あっ!待って!」

「ん?どうした?」


夕紀の呼び止めに、白夜は電気のスイッチから手を離した。


「白夜のその髪の色・・・直ぐ戻るかな?黒も良いけど、やっぱり白の方が私は綺麗で好きだなぁ。」

「ふむ・・・確かにワシも、元の髪色の方が落ち着くな。」


そう言って、白夜は自分の髪をなぞると黒から白へと変化していった。


「ワォ!凄い!!一瞬で戻った。」

「まぁの。」


感心する夕紀に、得意気な表情を浮かべながら白夜は笑った。

ふと、夕紀が神妙な顔持ちで白夜に問いかけた。


「ねぇ・・・白夜は、白夜はずっと一緒に居てくれるよね?」


夕紀の質問に白夜は口にしそうになった言葉を飲み込んで、夕紀に背を向けると


「当たり前だ。まだまだ、やらねばならん事は山ほどあるからな。だから、安心して寝ろ。・・・朝になったら起こしに来てやる。」


白夜は電気を消して部屋を後にして扉を閉めた。

扉の前でたたずむ白夜は、小さなタメ息をついた。そのタメ息は、夕紀についた小さな嘘に対してだった。

『ずっと一緒に居る。』コレは、守れるはずのない約束だからだ。たまたま、理解してくれる人が居たから今、こうして一緒に居られるが・・・いずれ離れる運命なのだと、人でない白夜には身に染みるほど味わった事だった。

だが、今の夕紀を一人にするのに、あの肩はあまりにも脆く儚い感じがした。


「まぁ・・・その時が来るまで、出来るだけ側に居てやるかな。」


白夜はそう呟いて、静かに夕紀の部屋から離れて一階に降りた。

そして、居間のガラス戸越しから外を眺めた。


「良い月夜じゃな・・・。」


ガラス戸を開けてツッカケを履き、月光で照らされた庭へ誘われるように歩み出た。


「久しぶりに散歩でもするかな。」


そう言って、月明かりに照らされた自分の影から白い犬を呼び出した。

呼び出された犬は、尻尾を振りながら白夜からの指示を待っていた。


「ワシが留守の間、この家の事を頼むぞ。」


そう頼むと、犬はコクリと頷いた。

白夜は微笑んで犬の頭を撫でた後、月に吸い込まれるようにゆっくりと宙へ舞い上がった。


まばらな街の光を見下ろしながら白夜は、空中散歩を気分良く堪能していた。


「本当に良い月夜だ。夜風が気持ちいいのぉ・・・。ん?」


空中散歩中、ふと見下ろした山頂付近に月明かりに照らされた不審な人影が、山道に沿って歩いてるのを見かけた。


「こんな夜遅く・・・山に人が?」


不審に思った白夜は山に降り立ち、気付かれないよう人影を追った。

その人影は丈夫そうな紐を片手に持って、月明かりを頼りに何かを探しているかのようだった。

そして、何かを見つけたかのように、その人影は足を止めた。


――・・・何をしているのだ?

そう思い白夜は、木陰に隠れて様子を見ていた。

その人影は、どうやら男性のようで思い詰めた表情を浮かべながら高い位置にある太い枝に、先端を輪っかにした紐を通して輪っかが一定の高さになるよう固定した。

そして、男は靴を脱ぎ、おもむろに木を登り始めて固定した紐の枝上に立つと紐を手繰り寄せて輪っかを自分の首に通した。


――まさか?!・・・白夜は慌てて、その男の方へと駆け出したと同時に、男は枝から飛び降りた。


男の首に付いた紐が伸びきる前に、空を斬る音が男の頭をかすめた。

そして、男はそのままの勢いで腰から地面に落ちて、短い悲鳴をあげた。


「イタタタ・・・クソ!一体何が・・・。」


そう言って、腰を擦りながら正面を向くと、月明かりに照らされた白夜が立っていた。

その姿に男は、一瞬言葉を失い呆然と見ていたが、首を振って正気に戻り白夜に問いかけた。


「こ、子供?どうして子供がこんな処に・・・。」


間抜け面の男に対して白夜は一喝した。


「たわけ!!お主は何をしようとしたのだ?!」


男は体をビクッとさせて戸惑った表情を浮かべたが、腰を擦りながら立ち上がった。


「そ、そんな事より・・・君みたいな子供がどうしてこんな場所に?」


話題をはぐらかし、男は逆に白夜に質問した。

質問を質問で返した男を睨み付け、男は少したじろった。白夜はタメ息をついて答えた。


「不審な行動をしているお主を見かけたからだ。」

「しかし・・・子供の脚でこんな場所に来られるはずが・・・。」

「ワシは質問に答えたぞ!お主も答えるべきではないのか?」

「・・・・。」


男は口をつぐんだまま、顔を伏せて黙っていた。その様子に白夜は再びタメ息をついた。


「何か言えない事情があるのだな?」

「君みたいな子供に話しても・・・。」


男の吐いた台詞に白夜はクスクスと笑った。


「お主・・・ワシが本当にタダの子供だと思ってるのか?」

「え?」


男は白夜の言葉を聞き直した。


「まぁ、良い。言いたくなければ別によい。折角助けた命だ。もう捨てるなよ?」


そう言って、去ろうと男に背を向けた時、男は思わず白夜を呼び止めた。


「ま、待ってくれ!君は・・・人間じゃ、ないのか?ま、まさか・・・死神?」


白夜は男の発した言葉に吹き出して笑った。戸惑う男に白夜は頷きながら、


「ハハハ!そうだな。だから、お主はまだ此処で死ぬ運命では無いって事だな。ワシが助けたのだからな。」

「し、信じられない。」

「何を言っておる。自分で言った事であろう?まぁ・・・信じなくてもいいさ。ワシの気まぐれだからな。」

「じ、じゃぁ・・・オレが死のうとしてた理由も本当は、わかってるんじゃないのか?」


迫る男の手を払いのけて、白夜は腕を組み、


「わからないから聞いたのでは無いか。」

「な、なら・・・オレの命を差し出すから、彼女を助けてくれ!頼む!!」


男は白夜にすがる様に掴み掛かり膝を付いて乞うた。

白夜は泣き崩れた男の肩を支えて、ヤレヤレっと言った感じで尋ねた。


「だいの男が泣くな!訳を話せ。力になれるかどうかが、わからんではないか。」

「そ、そうだな・・・すまない。」


男は腕で涙を拭って、立ち上がった。



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