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第三十五話  事情


夕紀の自宅前に高級車が止まった。

「じゃぁ、夕紀。明日学校でね。」

「うん。またね。」

「白夜ちゃんもまたね。」

「うむ。またの。」


夕紀と白夜は車から降りて、千歳達ガ乗る車を手を振って見送った。


「さ!家に入ろうか?」

「そうだな。」


二人は家の中へ入っていった。

夕紀は玄関で靴を脱ぎながら、白夜に語りかけた。


「今日は楽しかったね!沢山歌って、喉がカラカラだよ。」

「そうか・・・なら、茶でも入れてやろうか?」

「うん。お願い。」

「わかった。」


白夜も履き物を脱いで荷物を居間に置いた後、台所に向かった。

夕紀は、居間で腰を下ろすと取りあえず、テレビの電源を入れた。

そして、机の上に体を倒すと、大きいタメ息をついた。丁度、そこへ白夜が茶を持って入ってきた。


「どうしたんだ?お主らしくないタメ息なんてついて。」

「ハハハ・・・実は、引き受けたのは良いけど・・・全く、自信が無くてさ。」

「なんだ?やる前から諦めてるのか?」


白夜はクスクスと笑いながら夕紀の前にお茶を置いた。


「もー何よぉ!白夜は自信ある訳?!」

「自信がある訳ではないが・・・お主が頑張ってくれるのだろ?なら、ワシも頑張るさ。」

「プッ・・・なにそれぇ!そうね・・・わかったわ!一緒に頑張ろうね。白夜。」

「うむ。」


夕紀は白夜が持ってきたお茶を飲み終えると、立ち上がり白夜の手を引き


「さっ!お風呂に入ろっか?」

「はぁ・・・仕方がないな。」

「あれ?今回は意外と素直ね?」

「無駄と分かってるからな。ただし、悪ふざけするなよ!」

「は~い。」


夕紀は白夜の手を握ったまま、お風呂へと向かった。


―――1時間後・・・


上機嫌で夕紀が先に出てきた後に、白夜がゲンナリした表情で出てきた。


「いや~。やっぱり白夜と入るお風呂は格別ね!」

「あれほど・・・ふざけるなって言ったのに・・・。」

「よーし!白夜からパワー貰ったし、がんばれそう!」

「大体、何故風呂場で引っ付く必要性があるんだ?洗いにくいだろ?!」

「そんなの・・・大好きだからに決まってるじゃない。」

「・・・お主、そんな事を真顔で言うモノではないぞ?」


白夜の問いかけにまじめな顔で答えた夕紀にあきれ顔だったが、頬はほんのり赤らんでいた。

二人は台所に入ると、夕紀は突然両手を突き上げて白夜の方へ振り向いた。


「今日はなんだか気分も良いし、料理手伝うよ!」

「ほぉ、手伝ってくれるのは有り難いが・・・余計な事をしそうで怖い。」

「し、しないわよ!ちゃんと白夜の言う通り動くわ。」


ちょっと戸惑う夕紀に、白夜はクスクスと笑って、


「冗談だ。頑張って美味しいのを作るぞ。」

「うん!」


夕紀は、ちゃんと白夜の指示通り余計な事をせず動いた。

しばらくして、談笑しながらも料理を完成させ、皿に盛りつけてから食卓へと運んだ。


「今日は、ちゃんと作れたな。」

「当たり前じゃない。白夜の指示通り動いたモノ。」

「以前は、余計な事をしたものなぁ・・・。」


そう言って、白夜は夕紀の方をジッと見たが、夕紀は目線を外してカラ笑いをして誤魔化した。

夕紀と白夜は食卓に座ると手を合わせてご飯を食べ始めた。


「そう言えば・・・演奏する楽器とか、どうするのだ?」


白夜の質問に夕紀はご飯を食べながら難しい顔で考え込み、おかずを口にして食べ終えてから答えた。


「取りあえず。ヒロミから教えて貰わないとちょっと分からないし・・・必要なら、ママに頼んでお金送ってもらわないといけないかな?」

「なるほど・・・高いモノではないのか?」

「どれ位するかは分からないけど・・・多分、安くはないかな?」

「ふむ。・・・処で、お主の母親はどんな仕事してるのだ?直ぐお金を用意できる訳でもあるまい?」

「あっ・・・まだ話してなかったね。んーと・・・。」


夕紀は、人差し指で自分のアゴを押さえると少し天井を見上げ、おぼろげに答えた。


「パパと一緒に世界中を飛び回ってる・・・OL・・・かな?」

「曖昧な答えだな。」

「うっ!だっ、だって・・・仕事の内容教えてくれないモノ・・・。」

「・・・訳有りか・・・。」


落ち込む夕紀の顔を見た白夜は慰めるように、頭を撫でた。


「まぁ・・・その内、話してくれるだろう。そう落ち込むな。」

「・・・うん。」


優しく微笑む白夜の顔を見て、夕紀も微笑むが・・・どことなく悲しそうだった。

そして、今まで不安だった言葉が夕紀の口から溢れた。


「本当はね。ママ達の仕事が何なのか全然知らないの・・・。だって、家に居る時は私が学校に行っていて、いつもスレ違い。電話も長時間出来ないほど忙しいみたいだし・・・。」


淡々と話してた夕紀の口調は、次第に涙声に変わってきた。


「大変な仕事だと思うの。だから、いつもワガママは言わなかったわ。『行ってらっしゃい』、『お仕事頑張ってね』それしか口からは出なかった・・・でも、本当は、学校の話や友達の話とか、一杯話がしたかった・・・でも、でも・・・。」


夕紀はついに押さえていたモノが溢れ出し、白夜にしがみつくように泣き出した。

白夜から見て、まだ夕紀は親に甘えたい年頃、それを我慢して、誰にも弱音を見せず気丈に振る舞っていたのだろう。天真爛漫で元気一杯の娘も、今は見る影もなく泣きじゃくる幼い娘でしかなかった。

・・・・どれ位、時間が経っただろうか?

泣き止むまで優しく抱いてた白夜から夕紀は離れて、立ち上がると背筋を伸ばして、


「あー・・・一杯泣いたら、なんだかスッキリしちゃった。ありがとうね!白夜。」


そう言って、いつもの様に笑う夕紀だったが、目は真っ赤になっていた。

その顔を見た白夜は吹き出し、声を出して笑った。


「アッ!ひど~い!そんなに笑わなくても良いじゃない!!」


膨れる夕紀に白夜は、近くに置いてあった小さな鏡を夕紀に渡し、


「それで自分の顔を見てみろ?結構笑えるぞ。」


笑う白夜から鏡を受け取った夕紀は、鏡に映った自分の顔を見た。

そこには、涙でぐしゃぐしゃになった自分の変な顔が写り混んでいた。


「ヤダ!変な顔になってる!!」


そう言って、鏡に映る自分の顔がなんだかおかしくなって白夜と一緒に夕紀も笑った。



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