第三十四話 歌う白夜 ※注意!挿絵有ります
曲が始まり、モニターに歌詞が表示された。白夜はヒロミが歌ってたテンポで歌い始めた。
白夜が歌い始めてからは、皆で盛り上げていたが次第に白夜の歌声に飲まれるように盛り上げるのも忘れて聞き入っていた。
――白夜は歌いきったが、皆はボーッとした感じの表情だった。
「ど、どうしたのだ?ボーッとして。」
「え?あ!もう終わったの?いやぁ・・・聞き入ってた。」
照れ笑いする夕紀に、興奮気味でヒロミが語りかけた。
「ちょっと!夕紀!!この子、天才じゃないの?」
ヒロミの発言に同意するように頷きながら千歳も
「ホント・・・綺麗な歌声ね。私、感動したわ。」
「決めた!!この子、今回の学祭でやるバンドのボーカルにしたい。」
「え?ダメよ。関係者以外を採用するなんて・・・。」
「生徒会長の力で何とかならない?!」
「い、いくら何でも私でも無理よ・・・。」
強引に頼み込むヒロミに、戸惑う千歳は夕紀に助けを求めたが、夕紀は千歳の肩に手を置き親指を立てて
「私からもお願いするわ。」
「え?ちょ?!貴方まで?」
「まぁ・・・丁度、白夜をどうやって学祭に連れて行こうかと考えてた所だし・・・。頼れるのは千歳だけだから・・・お願い!ね?」
千歳は腕を組んでしばらく考えると、深いタメ息をもらし
「はぁ・・・仕方ないわ。交渉はしてみるけど期待はしないでね。」
「やった!」
夕紀とヒロミはハイタッチして喜んだ。二人のその姿を見て肩をがっくりと落として、再びタメ息をもらした千歳を慰めるように、白夜が優しくソッと肩に手を添えた。
「さて!じゃぁ・・・サクサク歌っていこうか!」
「よーし!私からよね。」
ヒロミは曲を入力してから、千歳に機械を渡してマイクを握った。
「白夜ちゃんの後だと結構、歌いつらいけど負けないわよ!」
気合いを入れて、ヒロミは熱唱した。
――・・・その後も皆盛り上げながら歌い、再び白夜の番が回ってきた。
「さ~て・・・今度はコレを歌って貰いましょうか?」
夕紀は最初に千歳が歌った曲を入力した。
「ぬ?そ、それを歌うのか?」
「そ!頑張ってね。白夜♪」
「うぬぬぬ・・・・。」
そして・・・曲が流れ始めた。
「あっ!始まった!はい!マイク。」
渋々マイクを受け取る白夜に、皆が期待を込めた眼差しで見ていた。
白夜は歌い始めたが・・・目が死んでいた
「歌は上手いのに・・・目が死んでるわ。」
「ほら!白夜、恥ずかしがらないで!」
「そうそう、私もお踊ってあげるから一緒に楽しく踊って歌いましょう。白夜ちゃん。」
『え?!こ、こうか?』
白夜はマイクを持ったまま返事したので、声が反響した。それから、千歳が白夜の隣で踊り、それを真似るようにぎこちないながらも踊った。
「ほらほら、恥ずかしがらないで!リズムに乗って!」
「キャー!可愛いわよ。白夜!」
そして、曲の最後、千歳と一緒に決めポーズを決めて、白夜は歌いきり夕紀達から盛大な拍手を受けた。
「楽しめた?白夜ちゃん。」
膝を付いて、うな垂れている白夜に千歳が手を差し伸べた。
「いろいろと、失った気もしたがな・・・。」
千歳の手を取り、半笑いで白夜が答えた。
「まだまだ!ここでもっと失わさないと!」
「そうね。夕紀はもう、失う恥なんて無いモノね?」
「ひど?!」
千歳の鋭いツッコミに凹む夕紀の姿に、皆が大笑いし、更に落ち込んでしまった。
時間も忘れ、大いに歌い楽しみ、カラオケショップを出るときには、すっかり辺りは暗くなっていた。
「結構、長い時間楽しんだわね。」
「ホント。暗くなったわね。」
「夜道は危険よぉ?迎え呼ばないと。」
「じゃぁ・・・迎えの車呼んでみるから、それで送ってあげる。」
「ホント?やった!助かるわ。」
「ふふ・・・。じゃぁ、少し待っていてね。」
千歳が電話を掛けてる間に、ヒロミが夕紀に話しかけた。
「ねぇ?夕紀、ちょっといい?」
「ん?な、何?」
ヒロミはいつになく真剣な表情だったので、ちょっと引き気味で答えた。
「ボーカルは白夜ちゃんとして・・・実は・・・あれから探したんだけど、バンドメンバーがまだ集まってないのよ。後で千歳にも頼むけど、どうしても夕紀に参加して貰いたいの。」
「え?えぇ?!前にも言ったけど、期待に答えられないかもよ?」
「大丈夫よ。ベースなら直ぐ覚えられるから、お願い!ね?」
「え、え~・・・で、でもぉ・・・。」
拝んで頼むヒロミに戸惑う夕紀、その時、電話を終えた千歳がヒロミに助け船を出した。
「あら?良いじゃない。出てあげたら夕紀。」
「で、でも・・・大勢の前に出るなんて・・・」
「白夜ちゃんを参加させたいんでしょ?あなたが一緒に出るって言うのなら、絶対通してあげるわ。」
「うっ、う~・・・。わ、わかったわ。」
「やった!ありがとう!!あと・・・千歳もお願いできない?」
「私は構わないわ。キーボードだったら弾けるから、それで良いなら・・・。」
「十分、十分!後は・・・ドラムだけかぁ・・・誰か出てこないかなぁ。」
「そんな、タイミング良く出てくる訳無いじゃん。」
ヒロミのわがままに苦笑いする夕紀と千歳、その中、白夜は静かに手を挙げた。
「あら?どうしたの白夜ちゃん?何か言いたそうね?」
気づいた千歳が白夜に尋ねた。
「先ほどから、話が勝手に進んでおるのだが・・・。ワシに拒否権は無いのか?」
皆は素早く頷いた。
「そうか・・・。何となく、わかってはいたがな・・・。」
白夜は半分諦めに似た感じを漂わせながら笑った。
「冗談よ。白夜、やりたくなかったら別に良いのよ?」
慌ててフォローする夕紀だが、白夜は首を横に振って、
「なに、言ってみただけだ。心配するな。折角、夕紀がやる気になってるのだ。削ぐ訳にもいくまい?」
そう言って、白夜は笑った。その笑顔に何も言えなくなり、夕紀も覚悟を決めた。
「そうね・・・。白夜の晴れ舞台ですもの。死ぬ気で頑張ります。」
夕紀は皆に深々とお辞儀をした。丁度その時、千歳が呼んだ迎えの車が到着した。
「お待たせしました。お嬢様。」
車の中から、ゆっくりと執事の中村が出てきた。
「相変わらず、早いのね。」
「恐れ入ります。」
中村は深々と頭を下げて、後部座席のドアを開けた。
「さ、御友学の皆様も中にお乗り下さい。」
「あっ、ありがとうございます。」
中村に勧められるように、夕紀達は頭を下げてから車の中に乗り込んだ。
全員が乗り込むのを確認したのち、中村も運転席に乗り込んで車を発進させた。