第二話 名 ※注意!挿絵が有ります
空から舞い降りた彼は、辺りを見渡しながら、ゆっくりと地面に足を付けた。
「此処ナラ、人ニ見ツカラナイダロウ・・・。」
家の裏庭に着地して彼がそう呟き、そっと降ろしてくれた。
「あ、ありがとう・・・あっ!」
「・・・ン?ドウシタ?」
「あっ、えーと、学校の鞄・・・どこかに落としたみたいなの・・・。」
たぶん、連れ出された時に落としたのだろう・・・不安そうにしてる夕紀の頭を軽く 撫でて、
「ワシガ探シテオイテヤルカラ、主ハ家ノ中デ待ッテロ」
「あっ!」
彼はさっそうと飛び去ったが、本当は一人になるのが不安で側に居てほしかった。でも彼が飛び去った後だったので仕方なく言われた通り、家の中に入って足早にお風呂場へ向かった。
破れた服を全部脱ぎ、シャワーのノブをひねり・・・まだ冷たいシャワーを浴びた。
今となって・・・再び襲われた恐怖が蘇り、力なく座り込みすすり泣きはじめた。
しばらく泣いてると、扉の方に気配を感じ振り向くと・・・スリガラス越しに白い影が見えた。その影は、ガラス越しから声を掛けてきた。
「鞄ハ見ツケタカラ此処ニ置イテオク。」
そう言って、立ち去ろうとした彼を呼び止めた。
「待って!お願い・・・しばらく・・・一人にしないで・・・。」
スリガラス越しから、聞こえる。涙ながらの夕紀の訴えに彼は、少し間を置き
「解ッタ・・・此処デ待ツ訳ニモイクマイ。」
そう言って出て行った。少し、ホッとしたが・・・ふと考えてみたら、彼の名前を知らなかった。夕紀は追いかけるように濡れた体のまま急いで脱衣所を出るとすぐそこで待っていてくれた。
「よかったぁ・・・まだ、名前聞いてなかったから不安で・・・。」
「ソウカ・・・取リアエズ、体ヲ拭イテ服ヲ着ロ。」
そう言って、彼は近くにあったバスタオル掴み、夕紀に向けて投げた。
それで自分がまだ裸なのに気づき、顔を真っ赤にし慌てて脱衣所に戻った。しかし、下着と服を持ってきてなかったのに気づいてこっそりと扉から申し訳なさそうに顔を出した。
「あの・・・服と下着取りに行ってもいいかな?」
すると、彼は小さく笑った。
「クックックッ。気ニスルコトハ無カロウ。ワシハ見テノ通リ人デハナイ。」
「でも・・・。」
恥ずかしそうにする夕紀を見て彼は、やれやれっと言った顔で
「少シ姿ヲ消ソウ。着替エタラ呼ンデクレ」
「あっ!待って!名前を聞かせて・・・。」
すると彼は振り向きもせず、
「名前ハ無イ。好キニ呼ベバイイ。」
そう言って彼は壁の中に姿を消していった。
夕紀はバスタオルを体に巻いて、急いで二階の自分の部屋に駆け込んだ。
パジャマに着替え、濡れた髪を乾かしながら、彼の名前を考えていた。
「ねぇ?まだ近くに居る?」
夕紀は、一人の部屋で訪ねた。すると、壁から彼が現れた。
「モウイイノカ?」
彼の問いに夕紀は、コクリと頷き続けて質問した。
「ねぇ・・・あなた、他の姿にも変身とかできるの?」
「ドウシテダ?」
不思議そうに彼は聞き返してきた。
「私の部屋じゃぁ・・・ちょっと窮屈そうだから。」
「フム・・・確カニ、コノ姿デハ狭イシ、シャベリニクイナ・・ドレ・・・。」
そう言って、彼はみるみる姿を変えて…白髪の若い男性の姿に変わった。
「これで、いいかな?」
「う、うん・・・でも、正直、今日は男性の姿を見たくはないかも・・・。」
肩を震わせ、無理な笑顔を見て彼は、
「そうだな・・・、まだ恐怖が残っているだろうから、別の姿にするか。」
次は、白髪ロングヘアーでモデル体型の女性に変身したが、少女はそれを見てちょっと不服そうだった。
「ちょっと!それは、私へのあてつけ?!どうせ、子供体型ですよ!」
そう言って、拗ねる夕紀を見て彼女(?)は、呆れた顔で
「やれやれ。注文の多い子供じゃ・・・。」
と呟きながら彼女は徐々に縮んでいき、私と同じ歳かそれより少し低めの少女へと変身してくれた。
「どうじゃ?これで文句はなかろう?」
「かわいい・・・。」
「は?」
獲物を見つけた狩人の目・・・もとい、キラキラした瞳で、少女を見ていて、少し身の危険を感じた。
「あ、あのさ・・・その姿のままで、耳と尻尾を生やせる?」
「か、可能だが?」
迫る夕紀の勢いに圧倒され、少女は言われた通りに犬耳と尻尾を生やした瞬間、奇声と共に夕紀が抱きついてきた。
「うわぁー!うわぁー!!生で耳と尻尾付き少女に逢えるなんて感激!」
「は、離れんか!馬鹿者!」
少女は、頭を撫でる夕紀の手を振り払って立ち上がった。
「それだけの元気があれば大丈夫だろう!ワシは帰るぞ。」
「あっ、ま、まって!ごめんなさい!!行かないで」
立ち去ろうとする少女の手を掴み夕紀は、必死に謝った。
少女はため息をついて留まってくれた。
「それで、ワシにどうしてほしいのじゃ?」
「あ、あのさ・・・名前考えたんだけど聞いてくれる?」
「ほぉ。」
少女は、興味有りそうに右腕を腰に当ててこちらを見た。
「白夜って言うのは…どうかな?夜でも、とても綺麗な白い姿だったから・・・。」
「ふむ・・・いい名前だな。しかし、お主はワシ等の様なモノに名を付けると言う意味を知っているか?」
「え?」
無論、理由なんて解らない。・・・驚いた顔の夕紀を見て白夜は、含み笑いをした。
「クックックッ。無知とは、怖いモノだな・・・、名を付ける。即ち、『使役する。』と言う意味だ。」
「えぇ?!そ、そうなの?も、もしかして・・・悪いことしちゃったの?」
夕紀は瞳を潤ましながら、申し訳なさそうに白夜を見た。
しかし、白夜は優しい微笑んで夕紀に近づき、頭を撫でた。
「何、気にするな。どうも、お主は危なっかしそうだし・・・付いて行くのも悪くない。」
その言葉に、涙ながらも夕紀の顔から笑みがこぼれた。
それを見た白夜にも自然と笑みがこぼれていた。そして、夕紀の肩を軽く叩き
「さぁ・・・もう寝ろ。しばらく、側に居てやるから安心しろ。」
「うん。」
そう言って、夕紀はゆっくりと横になり目をつぶった・・・小さくも暖かい手が、優しく握ってくれていた。夕紀は安堵感に身を委ね・・・深い眠りについたのだった。