第二十八話 変質者
「そう言えば・・・白夜は現代の曲で何か歌えるのある?」
「いや・・・今の歌は知らない。」
「だよねぇ。」
そう言う話をしながら二人は歩いてると、途中、塀の影から一人の男がゆっくりと現れた。
その男は、深く被った帽子に薄汚いロングコートを着て、雨に濡れながら二人の方へ歩いてきた。
終始無言で、二人は避けるようにスレ違った。その時、
「危ない!」
と、白夜が叫んで、繋いでた夕紀の手を自分の方へ強く引っ張った。
その瞬間、空を切る音が夕紀の頭上をかすめて、持っていた夕紀の傘が強い力ではじき飛ばされた。
夕紀は、慌てて後ろを振り返ると、スレ違った先ほどの男が木製のバットを持って立っていた。
「あ、危ないわね!何するのよ!!」
夕紀は白夜にもたれ掛かったまま、その男に怒鳴った・・・が、男はブツブツと独り言を呟いて、夕紀の言葉は届いてなかった。
「何・・・アレ?」
少し不気味な感じの男に、夕紀は恐怖を感じていた。
白夜は、夕紀を自分の後ろに下がらして、その男に警戒していた。
「あと少しだったのに・・・おしいなぁ・・・気絶させてから、ボクの人形にして、家に飾ろうと思ったのに・・・。」
明らかに、男は異常をきたしていた。そして、再び男は手に持っていたバットを両手で握りしめ、
「今度は・・・外さないよぉ・・・二人ともボクの部屋にオイデ・・・。」
そう言って、大きくバットを振りかぶった。白夜も身構えたその瞬間、男の全身に電気が走り、そのショックで男は気を失って前のめりに倒れた。
男が倒れた場所に、もう一人の男が立って居た。
「あ!お主は・・・。」
思わず声を出した白夜に、夕紀が問いかけた。
「え?だれ?知り合い?」
「いや・・・知り合いと言うか・・・まさか、お主が助けてくれるとわな。海翔。」
男を倒したのは、退魔師の海翔だった。しかし、海翔自身は不服そうな表情を浮かべていた。
「ふん。気安く俺の名前を呼ぶな!それと、お前を助けた訳じゃない。むしろ、コノ男が殺されないように助けたようなモノだ。」
「ハッ!信用無いようだな。ワシは。」
「当たり前だ!」
睨み合う二人の間に、夕紀が割って入った。
「ちょっと待って!あなた誰よ?!」
「ん?何だお前は・・・お前、あの時にいた娘か?」
「あの時って・・・あっ!?デパートで白夜に声かけてきたロリコン!!」
「誰がロリコンだ!?」
今度は、夕紀と睨み合う海翔に白夜はヤレヤレと言った表情で、腕を組んで、
「其奴はワシを退治しに来た退魔師だ。」
「へ?退魔師?」
「そうだ。もっとも、ワシにコテンパンに負けたがな。ハハハ・・・。」
「黙れ!」
笑う白夜に対して、海翔は一喝してから夕紀の方へ視線を戻した。
「なによ?」
少し身構える夕紀に、海翔は一呼吸入れて、
「その様子だと、お前・・・そいつが何者か知ってるみたいだが・・・どういう関係だ?」
「その娘は、ワシに名前をくれた娘だ。」
夕紀の代わりに答えた白夜の言葉に、海翔は驚いた表情を見せた。
「バカな!こんな・・・何の力も持たない娘が、お前のような強力な妖を使役できる訳がないだろ!適当な事を言うな!」
「クックックッ・・・残念ながら事実だ。」
「おい!娘!!」
「な、なによ!イキナリ怒鳴らないでよ!」
海翔の怒鳴り声にビックリした夕紀は、少し身構えた。
「お前・・・その化け物に騙されてるぞ。・・・用が済めばお前を殺しかねない。」
「騙されてなんかいないわ!それに、白夜は私を何回も助けてくれたのよ。」
海翔は信用する気もなく、夕紀の言葉を鼻で笑った。
「いつか、本性を現してお前を裏切るぞ?」
「もし・・・白夜が私を裏切るのなら・・・それは、私が悪いはず・・・その時、殺されたとしても、私は白夜を恨まないよ。」
真っ直ぐとした瞳で、海翔の目を見た。
「何故?何故そこまで、得体の知れないモノを信じられる?」
海翔は、夕紀の答えに理解できなかった。
「もし・・・白夜の優しさが偽りだったとしても、私はその優しさに救われたの。だから、私は信じるよ。何があっても・・・ね?白夜。」
夕紀は白夜の方へ振り返って微笑んだ。その微笑みに、白夜も微笑んで夕紀の横に並んだ。
「そう言う訳だ。ワシはこの娘に信じられているらしいから、裏切る訳にはいかんからの。・・・今日の処は、引いて貰えぬか?」
二人の顔を見て、海翔はタメ息をつくと、無言で背を向けて倒した男を肩に担ぎ、数歩進んで足を止めた。
「元々、お前と戦えるほど傷も癒えていない。今日は見逃してやる・・・だが、次は必ず退治してやる。・・・それまで、そこのバカ女の面倒でも見ていろ。」
そう言い残して、軽く手を振ってから歩き始めた。
「ちょっと!バカ女って私の事?!」
怒る夕紀をなだめる白夜だが、 その顔は笑っていた。
「何で白夜も笑ってるのよぉ?」
笑う白夜の顔を見て、ふくれっ面で白夜を睨んだ。
「クックックッ・・・わるいわるい。だが、ヤツも根は悪い奴じゃ無いみたいだし、許してやれ。」
「むぅ・・・。」
不服そうな表情を浮かべる夕紀に、白夜は空を見上げ、
「雨も止んだみたいだし、そろそろ帰ろう。」
そう言って、夕紀をなだめながら、白夜は壊れた傘を拾いあげ上機嫌に歩き始めた。