第二十五話 ちょこぱふぇ? ※注意!挿絵が有ります
降りしきる雨、学校の下駄箱付近で二人の少女が途方に暮れていた。
「ぬぅ・・・雨が止まない・・・。」
「はぁ・・・傘を持ってくるの忘れてたよ。千歳はまだ会議中なのかな?」
「たぶんね。千歳に頼んで、車に乗せていって貰おうと思ったのに・・・。」
ヒロミは座り込みながら雨空を見上げ、その隣で柱に寄りかかって、千歳が来ないか構内を見渡す夕紀が居た。
「あれ?小さな女の子が学校に入ってきたけど、何処の子かな?」
ヒロミは、校門を越えて真っ直ぐ向かってきてる白い傘の少女に気づいた。
夕紀はヒロミの言葉で、校門の方に目を向けると、思わず声を上げてしまった。
「アッ!」
「どうしたの?知り合い?」
「あ・・・う、うん。そうなんだけどね・・・。」
「?」
夕紀の歯切れの悪い答えに、ヒロミは首を傾げた。
やがて・・・その少女が二人の前に立った。
「夕紀。傘忘れてたろ?持ってきてやったぞ。」
「あ、ありがとう・・・。」
白夜から傘を受け取った夕紀だが、ヒロミから送られる興味津々の眼差しに戸惑っていた。
「ねっ!ねっ!誰、誰?何処の子?夕紀に妹居ないよね?」
「う、うん。・・・まぁ・・ね。従兄弟の子なんだぁ。」
「ほほぉ。」
真っ直ぐ質問するヒロミに対して、目が泳ぐ夕紀。今度は、白夜の前にヒロミが屈み、目線を白夜に合わせて挨拶した。
「はじめまして!夕紀のクラスメートのヒロミって言うの。よろしくね。」
ニコニコと笑顔で挨拶をして右手を差し出すヒロミに、白夜も微笑んで握手に応じて挨拶した。
「白夜だ。よろしく。」
「早速だけど、聞いてもいい?」
「ん?なんだ?」
「どうして帽子を被ってるの?傘に帽子は変よ?」
「うっ?あ・・・え~と・・・。」
ヒロミの質問に戸惑う白夜に、ヒロミは更に近づいた。
「んー・・・。折角の可愛い顔も隠れちゃってるし、取った方がいいよ。」
そう言って、ヒロミは白夜の被っていた帽子を取り上げた。
「あっ!」
白夜は慌てて帽子を押さえようとしたが間に合わず、手は空を切った。
「ほら。やっぱり可愛い。それに、綺麗な白髪じゃない。・・・ん?・・・白髪?」
帽子の中に納めていた髪がほどけ、長い白髪が降りた。
それを見た夕紀は、慌ててヒロミが持っていた白夜の帽子を取り上げた。
「ゆ、夕紀?そ、その子まさか・・・。」
夕紀は白夜に帽子を被せると、振り返ってヒロミの口を押さえた。
「ヒロミ・・・。言いたい事は分かるけど、この事は誰にも言わないでね。OK?」
鬼気迫る夕紀の表情に、ヒロミは頷く事しか出来なかった。
「あら?白夜ちゃん来てたの?」
後ろから声がしたので、夕紀とヒロミが振り向くと、そこには千歳が立っていた。
そして、不思議そうに二人に尋ねた。
「処で何してるの?二人とも・・・。」
「あ・・・いや・・・その・・・。」
戸惑う夕紀の手を振り払って、ヒロミが千歳にも問いかけた。
「千歳は、この子の事知ってたの?」
千歳は動揺はしてなかったが、少し困った顔をして、
「えぇ・・・まぁ、知ってたけど。・・・ヒロミにはバレちゃったみたいね。」
「何で教えてくれなかったの?」
ヒロミは千歳に迫ったが、千歳は落ち着いた口調で、
「余り言いふらすと、白夜ちゃんに迷惑がかかるでしょ?夕紀だけが困るなら、別に構わないんだけどね。」
「ちょっと・・・どういう意味かなぁ?」
睨み付ける夕紀から、目線を反らす千歳。
しかし、ヒロミはちょっと納得いかない顔だった。
「だから、ヒロミ。この事は秘密にしてもらえる?」
千歳の申し出に、ヒロミは腕を組んで考え込むと、
「分かったわ。じゃぁ・・・口止め料として、チョコパフェ奢ってもらうわよ。二人とも!」
「うっ?!私お金ないし・・・。」
そう言って、夕紀は千歳の方を見た。
その視線に気づいた千歳は、タメ息をついてヤレヤレと言った顔で、
「仕方ないわね・・・。いいわ。奢ってあげる。」
「やった!今から行く?」
「そうね。分かったわ。ちょっと、迎え呼ぶから待ってね。」
千歳は携帯を取り出し、電話をかけた。
ホッと胸をなで下ろす夕紀の服を、何か質問したそうな顔の白夜が軽く引っ張った。
「ん?どうしたの白夜?」
「その・・・『ちょこぱふぇ』って・・・なんじゃ?」
その質問に夕紀は、思わず吹き出してしまった。
また、千歳もヒロミも白夜の方を驚いた表情で見ていた。
皆の表情を見て、白夜は少しタジろった。
「な、何かまずい事でも言ったか?」
戸惑う白夜の様を見て、三人は頬を赤らめていた。
そして、夕紀が白夜の両肩に手を置いて、
「安心して白夜、みんながあなたの可愛さにメロメロなだけよ。」
「ちょっと!夕紀!まだこんなレアな女の子が居たの?!」
「これは・・・食べに行くしかないわね。二人とも。」
携帯を閉じて、千歳は夕紀とヒロミに問うと、
「もちろんよ!」
「異論はないわ。」
と、ほぼ同時に答えた。
千歳は二人を見て頷くと、白夜に近づき、
「じゃぁ・・・白夜ちゃん。『ちょこぱふぇ』見に行こうか?」
と聞くと、目を輝かせて頷いた。