第二十四話 激闘の末
「はぁ・・・はぁ・・・、コレを喰らって消滅しなかった妖は居ない・・・。」
勝利を確信した退魔師だった・・・が、蒸気が晴れて中から小さな影が立っていた。
「バ、バカな・・・」
驚きを隠せない退魔師に対して、白夜はゆっくりと近づきながら、
「なかなかの攻撃だ。正直、驚いたが・・・しかし、ワシまでは届かなかったようだな。」
と微笑を浮かべながら、退魔師を素通りして去ろうとした時、
「待て!」
退魔師が白夜を呼び止めた。
「なんじゃ?勝負はついたであろう?」
白夜は振り向くと、退魔師はボロボロで力の入らない手で、一枚の札を取りだした。
「まだ・・・勝負はついていない!!」
そう言って、呪文を唱え始めると、札から一本の禍々しい刀が出てきた。
その刀を見た瞬間、白夜の表情がこわばった。
「お主・・・その刀は・・・」
白夜の声に緊張感が走った。退魔師はうっすらと微笑むと、刀を手に取り
「最早、オレの体では貴様と戦えない。だが・・・この妖刀『月蝕』の力を借りて、貴様を滅する!」
力の入らない手で刀を抜こうとした瞬間、白夜が退魔師の腹部に拳を打ち込み刀を抜くのを阻止した。
「愚かな・・・そうまでして勝つ必要性があるのか?」
そう呟き、気を失った退魔師を悲しげな瞳で見つめていた。
白夜は再び鎧武者を出して、気を失っている退魔師を連れて採石所近くの使用されていない小屋の中へと運んだ。
「―――・・・ろ。・・きろ。・・・起きろ!」
白夜は、退魔師の頬をつねった。
退魔師は思わず、悲鳴を上げて飛び起きたが、体全体に痛みが走り、体を押さえた。 その時、両手を見て応急手当てされてる事に気づいた。
「どういう事だ?」
退魔師は、白夜の方を見ずに質問した。
「手当のことか?お主が起きてると、抵抗するじゃろ?だから、気を失ってる内にさせてもらったのじゃ。」
そう言って、白夜が笑うと、退魔師は声を荒げた。
「そう言う意味じゃない!何故、トドメをささない!」
その言葉に、白夜は腕を組みタメ息をついた。
「何じゃお主?死にたいのか?」
「そうではない!だが、オレはお前を殺しに来たんだぞ!その相手を何故助ける?!助けても、再びお前を狙うかも知れないんだぞ!」
その言葉に、白夜は鼻で笑った。
白夜の態度に退魔師は、激怒した。
「何がおかしい!!」
「いや、すまんすまん。お主・・・本気でワシが倒せると思っておったのか?」
「なん・・・だと?」
白夜は、手頃な場所で腰を下ろすと、
「お主が相手をしていたのは、ワシの分身・・・しかも、かなり力を抑えたヤツじゃ。」
その言葉に退魔師は、耳を疑った。
「苦し紛れな嘘を!」
喰い掛かる退魔師に対して、白夜は笑いながら、
「もし嘘だとしても、お主を苦しめたヤツを複数体出せるとしたら?」
「なに?」
こわばった顔の退魔師を見て、白夜は再び笑う、
「そんな顔をするな、それより聞きたい事がある・・・。この刀、コレを使うと、どうなるか分かって使おうとしたのか?」
「クッ!返せ!」
「たわけ!」
必死に伸ばしてきた退魔師の腕を白夜は無情に払った。
払われた腕に激痛が走ったのか、退魔師は押さえ込んでうずくまった。
白夜は一息入れてから、静かな口調で再度、同じ質問をした。
「この刀がどういうモノかは、分かっていたのか?」
「・・・・。」
白夜が問い詰めるが、退魔師は腕を押さえたまま、うつむいて語ろうとはしなかった。 ヤレヤレと言った表情で白夜は、刀を持って立ち上がると
「まぁ良い。答えなくとも、この刀はワシが預かる。」
白夜の言葉に退魔師は血相を変えた。
「何を言ってる!ふざけるな!」
退魔師の言葉に白夜は笑顔のまま近づき、鞘で収まってる刀で腹の傷にグリグリと押し当てた。
「ふざけた事を言ってるのは・・・お主だろ?」
退魔師は、声にならない悲鳴を上げてた。
「勝負を挑んできて、負けたのだ。何の代償も無い訳がなかろう?」
そう言って、傷口に押し当てるのを止めると、白夜は背を向けて小屋の出口に向かった。
出口付近で足を止め、振り向かずに退魔師に語りかけた。
「そうじゃ・・・。お主、名はなんと言う?刀を預かるのだから、名ぐらいは覚えておいてやろう。」
少し涙目の退魔師は、不服そうな表情を浮かべていたが、小さな声で
「竜造寺 海翔だ。」
「ふむ・・・。覚えておこう。返して欲しければ何時でも来い。相手ぐらいはしてやる。」
そう言って、白夜は軽く手を振り微笑んで小屋から出た。
「あっ!ま、待て!!」
海翔が呼び止めるも、すでに白夜の姿は無かった。