第一話 出会い ※注意!挿絵が有ります
車の中で私は、二人の男性に体を押さえられ…身動きができない状態だった。
「へっへっへっ。悪いねぇ、嬢ちゃん。夜道で一人歩いてたら悪い人につかまるよぉ。」
と、私の口を押さえてる男が、下品な笑みを浮かべながら語った。
「んー!んーんー!!」
私は、抵抗しようとしたが・・・男性二人の力には勝てず。これから起こる事に恐怖し、青ざめ、涙を流した。
「いいねぇ・・・俺、こういう状況に燃えるんだぁ!」
「!!」
そう言って、私に覆いかぶさってる男は、ブラウスに手をかけ、力一杯引き裂いた。同時に、私は心の底から『誰か!誰か助けて!!』と涙ながらに叫んだ・・・その時、
『ウオォォォォォォォォ!!!』
物凄い唸り声により車体が振動し、運転手の男が慌てて急ブレーキをかけた。
「いっっってぇ!!どうしたんだよ一体!何があったんだよ!」
と、私の口を押さえていた男が運転手に問いかけると・・・青ざめた顔の運転手が震える手で前方に指を指した。
そこには、白いイヌの顔をした人型で身長2m位の禍々しい化物が、森の闇からゆっくりと・・・低い唸り声をあげて近づいてた。
「ばっ!化け物だ!は、早く車出せよ!バカ野郎!!」
そう言って、運転手の頭を叩き、我に返った運転手がアクセルを踏み込もうとした瞬間・・・化け物は、前から車を押さえつけた。
運転手はどんなにアクセルを踏み込もうと、タイヤが空回りするだけで車は全く前へ進まなかった。
「ひっ!ひぃぃぃぃ!!た、たすけてくれぇ!」
運転手は恐怖の余りにドアを開けて、車から降りて走り出した。それを見た化け物は、車から手を離し運転手を追った、次の瞬間
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
逃げた運転手の断末魔が聞こえた。息を呑んだ男達が目にしたのは、運転手の頭を鷲掴みにして引きずりながら、再び戻ってくる化け物の姿だった。
「や、やばい・・・俺たちも殺される・・・。」
一人の男が震えながら呟いた・・・。化け物が歩いてくる反対側ドアの近くに居た男が慌てて開け、三人が流れ転がるように外に出ると、夕紀を置いて逃げ出した。
それを見た化け物は、深く屈み込み・・・空高くジャンプをして、男達の前に立ち塞がった。
「うわぁぁぁ!!たすけてくれ!」
三人は、情けなく座り込み…這いずりながらも逃げだそうとしていたが・・・化け物は、容赦なく二人の頭を鷲掴みで持ち上げ、頭同士をぶつけた。
そして、もう一人、逃げようとしていた男の首に化け物のフサフサだった尻尾が、長く細い尻尾に変化して巻き付き、声にならない断末魔をあげた。
化物は、三人を引きずりながら・・・再び車の方に戻ってきた。無論、私は恐怖の余りに、身動きもできず。ただ化け物が向かってくるのを震えて見ることしかできなかった。
化け物は三人を離した後、車に左手を掛けて私の方へと、ゆっくり右手を伸ばしてきた。
「いやぁぁぁぁぁ!!」
私は最後の力を振り絞っても、叫ぶことしかできなかったが・・・化け物の手は私に触れそうな処で止まり、そのままゆっくりと離れていった。
「クックックッ。ソレダケ叫ベル気力ガアルノナラ、大丈夫ダロウ。」
「え?」
私は不意に聞き返してしまった。
それは、目の前で含み笑いをしながら言葉を話す『モノ』に驚いてしまったからである。
「サァ・・・オイデ、別ニ取ッテ喰オウトハ思ッテナイヨ。」
その声は、容姿とは裏腹にとても優しく・・・再び、私に差し伸ばしてきた手に恐る恐る触れると、まるで宝物を包み込む様に、ソッと握り返した。
化け物――いや、私を助けてくれた”彼(?)”に連れられ・・・車の外に出た。
ふと、倒れてる男性達の事が気になって訪ねた。
「この人達・・・殺したの?」
「イヤ、気ヲ失ッテハイルガ殺シテハイナイ・・・ガ、コノ者達ニハ、二度ト悪サガ出来ナイヨウニ・・・恐怖ヲ植エ付ケトク必要ハアルナ。」
と、振り返り・・・車後部のドアを紙の様に引き裂き、巨大な爪痕を残した。
「コレデ、気ガツイタ後デモ・・・夢デナカッタ事ヲ思イ知ルダロウ。」
「キャッ!」
そう言って、不意に私を片手で抱きかかえ、空高く舞い上がった。
急だったので、私は落ちないよう必死に彼にしがみついた。
「どこへ行くの?」
風の音に負けないぐらいの大声で質問した。すると、前方を向いたまま彼は答えた。
「オ前ノ家ノ近クマデダ。」
「私の家がわかるの?」
彼は無言で頷いた。・・・そう言えば、私はどのくらい遠くまで来たのだろうか?
でも、出来るだけ下は見ないようにしていた。理由は怖いからだ・・・でも、それと同時に好奇心もあった。
人間には、どうしてこんな矛盾な感情が芽生えるのか・・・。つくづく不思議で仕方ない。そして、その誘惑に負けてしまった私も私だった。
案の定、見て後悔してしまった・・・。地上に星空が広がるような光景、車の光が流れ星のように小さく見えた。
「うわぁぁ・・・見るんじゃなかった・・・。」
たぶん、彼は人に見つからないように飛んでいるのだと思う。飛行機でもジェットコースターでも体験したことのない、生身で空を飛ぶ感覚は不思議だった。180°見渡せて障害物のない風景は絶景だと思うが・・・風がダイレクトに顔を直撃して、まともに目を開くことも出来ず・・・髪の毛だって、さっきから鞭のように私の頬を叩いてる。
「モウスグ着クゾ」
その言葉と共に、徐々に速度も弱まり降下し始めた。