第十五話 遅い帰宅 ※注意!挿絵が有ります
夕紀の家の前に一台の車が止まった。
中から荷物を持って、千歳と白夜が降りてきた。
「ありがとう。中村。」
「いえいえ。一応、お泊まり用に下着を選んで荷物に入れておきましたので、ごゆっくりしてきて下さいませ。」
「え?今なんて・・・。」
千歳が聞き返そうとした時には、すでに窓を閉めて、さっそうと車を走らせた。
「待ちなさい!中村!!」
千歳は、途中まで追いかけたが、無論すでに車の姿は見えなくなっていた。
「逃げたわね・・・。後で問い詰めてあげるわ・・・。」
千歳は走り去った車の方向に向いて、握り拳を震わせて、怒っていた。
千歳を此処まで手玉に取る中村に、少し感心する白夜だった。
深いタメ息を吐いてから、白夜の方へ振り向き、
「まぁいいわ。行きましょうか?白夜ちゃん。」
「うむ。」
苦笑いする千歳の顔を見て、白夜は口を押さえて、含み笑いをした。
「ちょっと?白夜ちゃん。何笑ってるのよ?」
「ん?いや・・・。お主も中村殿には敵わないみたいだな。」
千歳は、白夜の問いに苦笑いで答えることしかできなかった。玄関を開けて、千歳が先に中へ入った。
「ごめんなさい。夕紀。遅くなっちゃって・・・。」
千歳の声に反応して、夕紀が玄関まで走って来た。
「遅いわよぉ!私のお腹は、もう限界よ!飢え死にさせるつもり?!」
「ちょっと、いろいろあって遅れたの。良い物見せるから、それで機嫌直して。」
「なによ?ちょっとやそっとじゃ・・・私の機嫌は直らないわよ?」
両手を組んで仁王立ちの夕紀をしり目に、千歳の後ろに居た白夜を中に入れた。
その瞬間、夕紀の不機嫌は吹き飛んで、目をキラキラと輝かせて白夜を見ていた。
「きゃー!!可愛い!何これぇ!!可愛いすぎる。メイドさんだぁぁぁ!!!」
最早、夕紀は空腹も我も忘れて、白夜に一直線で飛びついた。
「のぁ!!イキナリ飛びつくな!危ないではないか!!早くは・な・れ・ろぉ!!」
しかし、白夜の声など届かず、しっかりと抱きついたまま離れなかった。
見かねた千歳は、
「ほら!夕紀・・・いつまでそうしてるの?白夜ちゃんが可哀想じゃない。」
「や~だ~!離れたくないぃ~!」
まるで、駄々をこねる子供のように、白夜から離れない夕紀だった。千歳は、タメ息をついて最後の手段に出た。
「夕紀・・・。ごめんなさいね。・・・コレも白夜ちゃんの為!」
千歳は、無防備な夕紀の両脇に手を忍び込まして、こそばした。
「あははは!ちょ!やめ・・ひ、卑怯よ!わかった!は、離すから・・・やめ・・あ はははは・・・!」
夕紀は耐えきれずに、白夜から離れた。白夜は急いで逃げ出して、千歳の後ろへ逃げ込んだ。
「むぅ・・・。逃げたか・・・。千歳ずるいよ!人の弱点を突くなんて。」
「あら?コウでもしないと・・・貴方、白夜ちゃんを離さないでしょ?」
睨む夕紀に対して、悠然とした態度の千歳だった。夕紀は、ゆっくりと立ち上がって、再び腕を組んだ。
「まぁいいわ。取りあえず・・・遅くなった理由と、白夜の服装がバージョンアップしてる理由教えて貰おうか?」
夕紀の問いに、二人は顔を見合わせてから、今回の事をすべて語った。
――誘拐に巻き込まれたこと、千歳が白夜の正体を知ったこと、白夜の服が千歳の用意したこと・・・、夕紀は、納得して千歳の肩に手を乗せた。
「そう・・・白夜の正体も知っちゃったかぁ・・・まぁ、仕方ないけど・・それより も・・・。」
そう言って夕紀は、満面の笑みで千歳に親指を立て、
「グッジョブ!千歳!ナイスコーディネイト!」
「でしょ?絶対似合うと思ってたの!」
「ちょっと待て!お主等の関心はそこなのか?!」
慌てる白夜に対して、不思議そうな顔で、二人声を揃えて、
「当然じゃない?可愛ければ、すべてそれでOK!」
「そ、そうか・・・。」
二人の答えに、白夜は呆れ顔だった。
白夜はいろいろと疲れた様子で、一人、荷物を持って台所へと向かった。
「あ!待って、白夜ちゃん。私も手伝うわ。」
「私も手伝う~。もうお腹ペコペコだよぉ・・・。」
急いで白夜の後を追う千歳と、お腹をさすりながらゆっくりと向かう夕紀だった。