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第十四話  迎え


「お楽しみ中でしたか・・・。失礼しました。」

「ちょ、たすけ・・!」


帰ろうとした執事に白夜は救いを求めて、手を伸ばした。

何とか、執事の人を呼び止めることが出来て、白夜は、貞操の危機から脱した。


「ハハハ!申し訳ございません。もう少し、遅く来るべきでしたね?お嬢様。」

「本当ね・・・。」

「本当ね・・・。じゃない!!」


ふざける二人に、噛みつきそうな勢いで白夜は、ツッコミを入れた。


「まぁまぁ・・・。処で、お嬢様?こちらの方は?」


白夜をなだめながら、千歳に尋ねた。

千歳は、ふくれてる白夜に近づいて、頭を撫でながら答えた。


「碑宮 白夜ちゃんよ。夕紀の従兄弟なの。一緒に出かけた時に、捕まっちゃったの。」

「左様でございましたか・・・。大変でございましたな。あっ!失礼、わたくし、一之宮家で仕えさせて頂いてる。執事の中村と申します。以後お見知りおきを・・・。」


そう言いながら、白夜の身にまとっているモノを凝視していた。

それに気づいた千歳が、


「可愛いからって、手を出しちゃだめよ?」


と、笑いながら茶化す千歳の横で、――お主は、手を出したじゃないか。――と、白夜は心の中でツッコミを入れつつ、千歳の顔を見ていた。


「あら・・・?何か言いたそうね。白夜ちゃん。」

「べ、別に・・・」

白夜の視線に気づいた千歳が問いかけると、白夜は慌てて顔を背けた。

二人の行動を見つめながら、含み笑いをしつつ、中村が答えた。


「いえいえ、滅相もございません。ただ…変わったモノを着てらっしゃるので・・・、つい。」

「えーと・・コレは・・・。」


千歳は白夜の方をチラッと見て、真実を言う訳にもいかないので、白夜から離れて中村を呼び、適当に誤魔化した。


二人が白夜の元に返ってきた時、中村は怒り心頭だった。


「こんな、幼い子を手籠めにしようとは・・・。うらやま・・けしからん!」


声を上げて怒ってる中村の発言に、本音も混ざっていた。それに、よく見ると、鼻血も出ていた。


「中村!鼻血鼻血!」


千歳の指摘に、慌てて鼻に詰め物をした。そして、ようやく落ち着きを取り戻した中村は、深呼吸して千歳に尋ねた。


「しかし・・・”心優しいお化け”・・・ですか?信じられない話ですが・・・。現に、お嬢様も助けて頂いてるし、お会いできたら・・・、お礼でもしないといけませんな。」


半信半疑で笑う素振りの中村だが・・・何故か白夜と目が合った。別に信じて貰うつもりもない千歳の服を白夜は軽く引っ張った。


「ん?なぁに?白夜ちゃん。」

「一体・・・彼に何て説明したんだ?」


説明内容が気になる白夜に千歳は微笑みながら、耳元で簡単に説明した。


「白夜ちゃんが、犯人の男達に無理矢理襲われた処をお化けに助けられた・・・。て、感じに説明したの。」

「む、無理矢理って・・・」


唖然とする白夜に千歳は顔を近づけて、


「あら?それぐらい言わないと、その着てるモノの説明出来ないでしょ?」

「うっ!・・・確かにそうだな・・・。」


いまいち、スッキリしない感じが拭えない白夜に、ヤレヤレっと言った感じで千歳は肩をすくめた。一方、警察に詳細な場所を伝える電話を終えて、中村が戻ってきた。


「お嬢様。そろそろお戻りにならないと・・・ご用事があるのでは?」

「あっ!いけない!夕紀が待ってるわ。早く戻らないと・・・。」


夕紀のことをすっかり忘れていた千歳と同様に白夜も今、思い出した。


「かなり遅くなったからな・・・。きっと、腹を空かせて泣いてるぞ。」

「本当ね・・・。」


千歳と白夜は、顔を見合わせて苦笑いをした。


「お嬢様。頼まれた物は用意してますので、お車へお乗りください。後・・・お連れの方の御洋服もお着替えにならないと・・・。」

「それもそうね。服は用意してくれた?」

「勿論でございます。わたしめは、外で待機しておりますので・・・、その間に。」

「そうね。行きましょう。白夜ちゃん。」


そう言うと白夜の手を取って、千歳に連れられるがまま迎えに着てた車に向かった。

車に乗り込むと、中は割と広く天井は低くても白夜が着替えるのには、支障は無い高さだった。


「じゃぁ・・・着替えましょうか?」


そう言って、千歳は近くにあった大きめの鞄を開けると・・・中から高級そうな衣装が出てきた。

千歳は、白夜を見ながら衣装を選んでいた。


「高そうな服だな・・・。」


ちょっと遠慮気味な白夜に千歳は、微笑みながら


「いいのよ。遠慮しなくて・・・。どうせ、私は着れないサイズだから、気にしないで。・・・よし!コレで良いかな?」


千歳は、数ある衣装から一つ選び出して白夜に手渡した。


「どうぞ。助けてくれたお礼も兼ねて差し上げますわ。」

「では、有り難く頂戴する。・・・・しかし・・・コレはどう着るのだ?」


服をクルクル回しながら見てる白夜に千歳が近づき、


「あら?じゃぁ・・・着替えるの手伝うわ。」


そう言って、白夜の着ていた布を脱がした。


「ちょ!待て!そこは・・・!」

「大丈夫。私に任せて。」


抵抗する白夜に対して、活き活きした表情で着替えを手伝ってた。


「ほ、本当に・・そこは・・・んっ!やめっ!ヤッ!・・・アッ!」

「うふふ・・・。白夜ちゃんて…意外と敏感なのね。」


車の中から聞こえてくる声に耳を傾けながら、外で待つ中村の鼻に詰めた物は、真っ赤に染まっていた。


「もぅ・・・。白夜ちゃんが変な声出すから、ちょっと興奮しちゃったじゃない。」

「・・・・・・」


言葉を発せれないほど、息を切らし、顔をトマトの様に火照らしてる白夜を千歳は、満足そうに見下ろしてた。  


「白夜ちゃんって・・・、以外と横腹と首が弱いのね。」


そう言って微笑む千歳を、潤んだ瞳で睨んでいた。


「まぁ!折角、可愛い衣装着てるんだから、そんな顔しないの。」


千歳は、白夜の頭を撫でると


「着替えも終わったし、中村を呼んでくるわ。」


そう言い残し、車を出た。車の中では、ふくれっ面で千歳に撫でられた場所を両手で押さえて伏せていた。


「中村?・・・そんな処で何してるの?!」


千歳の見た光景は、シュールだった。顔からはおびただしい量の鼻血が流れており、その鼻血で『百合』とダイニング・メッセージを残してた。


「ちょっと!中村!起きなさい!!」


千歳は中村に駆け寄って、体を揺さぶった。

その時、微かに中村の唇が動いた。


「お、お嬢様・・・申し訳・・・ありません・・・・・どうやら、わたくしめは・・此処までのよう・・・です。」


そう言い残し、燃え尽きるように倒れた中村を見下ろしながら、呆れ顔で千歳は


「馬鹿なこと言ってないで、早く車を出して頂戴。」


と、すぐさま中村から離れて、千歳は車に戻っていった。その後ろで鼻に再び詰め物をし、立ち上がって服に付いた土埃を払い、何事も無かったように、中村も千歳の後を追って車へと向かった。


「白夜ちゃん。お待たせ♪」

「・・・・」


千歳の問いかけに、無言で伏せたまま、白夜は拗ねていた。だが・・・その姿が、たまらなく可愛らしかったのか、千歳は笑いをこらえながら白夜に飛びついた。


「ぬぁ!?な、なんじゃ?は、離せ!!」

「あぁん。もぉ・・・白夜ちゃん。本当に食べちゃいたいわ!」


千歳は、白夜を抱きかかえて、膝の上に座らせた。


「もう何もしないから、機嫌直して。ね?」


そう言って、白夜の頭を撫でた。

白夜も、深いタメ息をもらして半分、諦めていた。


「それに、もういい加減帰らないと。本当に夕紀が泣いてそうだもの。」

「はぁ・・・そうだな。確かに、泣いておるかもしれんな。」


二人は、夕紀の泣いてる姿を思い浮かべて、吹き出して笑った。

その姿を中村は、ルームミラーで確認して、二人に声をかけた。


「それでは、発車しますぞ。少々揺れますので、シートベルトはしっかりしておいてくだされ。」


そう言うと、中村は車のアクセルを踏み込み、猛スピードで走り去っていった。


一方、何も知らない夕紀は、一人寂しくゲームをしながらお茶を飲み、鳴り響く腹の音を紛らわして、遅い二人の帰りを待っていた。


「帰って来たら、絶対・・・絶対、文句言ってやるんだから!」

と、涙目で独り言を呟いていた。



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