第十二話 誘拐
白夜は、出かける支度をして、玄関で待っている千歳の元へ向かった。
「すまぬ。待たせたな。」
「いいのよ。気にしないで・・・白夜ちゃんとの買い物だもの。楽しみだわ。」
二人は家を出て、歩いてバス停に向かった。遠くで止めてあった黒塗りの車二台が、二人が出てきたと同時にゆっくりと進み始めた。
「そう言えば・・・お主と夕紀は、結構親しいみたいだな?」
「え?そうねぇ・・・私は、昔友達が居なかったの…」
「そうなのか?」
千歳は白夜をみて微笑むと、少し遠い場所へ目をうつして話を続けた。
「私が名家の生まれってだけで、周りの子は私と距離を置いていたわ。そして・・・近づいてくるのも、私じゃなく家の名前にあやかりたい人達ばかりだったの。」
ふと見ると、千歳の目が寂しそうだった。
「だから・・・私自身も他人と距離を取って、心の壁を作っていたのかも知れないわね・・・。でも・・・そんな時に夕紀と出会ったの。」
そう言うと、千歳は思い出して少し笑った。
「ウフフ・・・その時は、些細な事で夕紀と大ケンカしたの。」
「ケ、ケンカを?!」
「そう、理由はもう忘れたけど・・・お互い叩いたり噛みついたり・・・余りに凄かったのか・・・他の子も先生も止められなかったの。」
「ほ、ほぉ・・・(この顔でケンカかぁ・・・想像つかんのぉ・・・)」
クスクスと笑う千歳の横で、白夜は苦笑いをしていた。
「お互い体力も尽きて、その場で寝転がったわ。身体全身痛かったわ・・・でも、心はスッキリしていたわ。そうしたら、なんだか可笑しくなっちゃって・・・二人で大笑いしちゃったの。周りは驚くでしょうね・・・大ケンカして、終わったら突然笑い出すんですもの。」
「そりゃ、驚くだろうなぁ・・・ワシでも驚く。」
「で・・・その後、夕紀が両親連れられて私の家に謝りに来たんだけど・・・お互い酷い顔だったから、またソレで大笑い!両親達は呆れ顔だったけど・・・それ以来、私と夕紀は、親しくなったの。」
「なるほどの・・・『雨降って、地固まる』・・・てやつだな。」
頷く白夜に千歳は、微笑みながら、
「それだけじゃ無いの。夕紀は、しっかりと私を見てくれてた・・・。家じゃなく一人の人間としてね。」
「ふむ・・・ただ、家柄とか考えるほど利口では無かったかも知れないがな。」
「うふふ・・・そうかもね。」
そう言って、二人で笑った。――その頃・・・夕紀は、大きなクシャミをしていた。
話してるうちに、バス停に着いた。
「ちょっと・・・バスが来るまで時間があるわね。」
千歳が腕時計を見た時、バス停に黒塗りの車二台が停車して、中から黒ずくめの男達数人が現れて・・・千歳と白夜を素早く捕まえると車に押し込んで急発進させた。
車の中で目隠しと猿ぐつわをさせられ・・・腕も縛られた。
しばらくして、二人は車から降ろされ・・・足音の響く建物の中に連れ込まれた。
少しの間、見えないままで建物内を歩かされて、どこかの部屋に入った。
そこで、初めて目隠しを外されて二人は突き飛ばされ、バランスを崩して倒れた。
・・・やがて、男の一人が近くにあった椅子に腰をかけて語りかけてきた。
「すまないねぇ・・・。こんな手荒なマネをして。こちらの用事が終わったら、家に帰してやるよ。」
そう言って、男は千歳の携帯電話を手にしていた。
男は、リダイヤルで千歳の家に電話をかけた。
男が電話をしてるうちに、千歳と白夜は体を起こして周りを見渡していた。
もう、長いこと使われて居ない工場の事務室みたいな場所だった。
部屋の入り口は一カ所で、そこには男二人が銃を持って立っていた。
白夜と夕紀の前にも椅子に腰掛けて電話してる男一人に、銃を構えながら背後に歩いてきた男・・・計4人。
部屋の外から数人の足音がするので、逃げ出すのは容易ではなさそうだ。
冷静に状況把握している白夜の隣で、顔には出してないが震える手を必死押さえてる千歳が居た。
電話を終えた男が、うすら笑いを浮かべて千歳に語りかけた。
「よかったなぁ。嬢ちゃん・・・あんたの親がこちらの要望を聞き入れてくれたぞ。」
そう言ったあと、声を上げて笑った。
必死に語りかけようとしてる千歳に気づき、男は笑うのをやめた。
「ん?なんだ?嬢ちゃん・・・、何か言いたそうだなぁ。」
そう言って二人の後ろに立ってる男に、
「嬢ちゃんが何か言いたそうだから、口にしているやつ外してやれ。」
男の指示で、千歳の口を塞いでたモノが外されると同時に訴えた。
「必要なのは私だけでしょ?白夜ちゃんを解放してあげて!」
命乞いかと思ってたが・・・、予想外の言葉に驚いた男は、含み笑いをした。
「OKOK。嬢ちゃんの他人を思う気持ちに心打たれたぜ・・・。すぐ解放してやろう。」
千歳は、その言葉にホッとした瞬間・・・男は銃を取り出して白夜の胸をめがけて、躊躇無く発砲した。
白夜は、その衝撃で後方に倒れて、ピクリとも動かなくなった。撃たれた胸からは・・・、大量の血が流れ出ていた。
一瞬の出来事に、状況が把握できなくなった千歳は、悲鳴を上げて白夜の名前を繰り返し叫んでいたが・・・・・返事は返ってこなかった。