第九話 料理
「あぁ~・・・いい湯だったぁ・・・。」
満足そうに出てきた夕紀の後ろから、疲れきってる白夜が出てきた。
「風呂場で・・・なぜ、こうも疲れなければいけないのだ?」
「どうしたの白夜?そんなに疲れて?」
「誰のせいだ?誰の!」
「あははは・・・気にしない気にしない。」
「お、お主という奴は・・・。」
あっけらかんとしている夕紀に、白夜は深いタメ息をついた。
「さーて、汗も流したし!張り切って料理を作ろうか!」
「元気だなぁ・・・その元気が羨ましいぞ?」
「そう?」
昨日とは別人の様に元気な夕紀にただ驚くだけだった。前向きなのか・・・馬鹿なのか・・・まぁ、後ろ向きで無いだけマシなのかも知れない。そう思う白夜だった。
「よし、じゃぁ・・・作りから教えるからしっかり付いてこいよ。いいな?」
「はーい。先生!」
「じゃぁ・・・最初はジャガイモの皮むきからだな・・・」
夕紀は白夜の話を真剣に聞き、たまに笑いも交えながら料理を作っていった。
-30分後‐
「・・・・どうしてこうなった?」
「あっれぇ?おっかしぃなぁ~?」
明らかに、肉じゃがとは言えない・・・今にもうごめきそうな黒い物体が出来上がっていた。
「お主・・・ワシの居ない間に何をした?」
数分前まではちゃんとした肉じゃがだったが、白夜が洗濯物を洗濯機に入れ、洗剤も入れてからスタートボタンを押し、帰ってきた時には肉じゃがで無いものが出来上がっていた。
「え?な、何もしてないよぉ~?」
「嘘つけぇ!」
「痛ぁ!!」
吹けない口笛を吹きながら、そっぽを向く夕紀の額に白夜はチョップを入れた。
「明らかに、何か入れた痕跡があるではないか!何入れた?!」
「テヘッ♪コーラとお菓子!」
「『テヘッ♪』・・・じゃないわ!馬鹿者!」
再び白夜のチョップが夕紀の額にヒット!うずくまる夕紀。
「何でこんな事したのかなぁ~。ん?」
ちょっと怒ってる白夜は夕紀の両頬を引っ張って訪ねた。
「お、おひひふなふふぉふぉふぉっふぇ(お、美味しくなると思って)。」
「なる訳なかろう!まったく・・・ちゃんと責任もって食べること!いいな!」
「えぇ?!」
「えぇ!じゃない!わ・かっ・た・な?」
「ふぁぃ・・・。」
「よろしい。」
夕紀は起き上がり、渋々『肉じゃがだったモノ』を食卓へ運んだ。
「お主は、ちと好奇心が強すぎる。料理を作る時くらい、我慢をすればちゃんとしたモノが出来るのにのぉ・・・。」
「好奇心は女の子の特権よ!」
「たわけ!」
自信満々に胸を張る夕紀にすかさず、白夜がチョップのツッコミをいれた。
「もぉ・・・そんなに頭ばかり叩かないでよぉ・・頭が悪くなっちゃうよぉ・・・。」
「心配いらん。それ以上は悪くなるまい。」
「ひどっ!」
笑いながら即答した白夜の後ろ姿をにらみつけて、頭をさすりながら夕紀はテレビをつけた。
すると、丁度ニュースで今日あった銀行強盗の話題になっていた。
「あっ!これ・・・今日あった事件の話だ。」
「ほぉ?」
白夜も興味があるのかテレビに目を向けた。
そこで、防犯カメラに写ってた謎の少女の事で盛り上がっていた。
「あっ!コレ白夜じゃん!改めて見ると・・・すごいよねぇ。専門家も絶賛だぁ!」
テレビ前で喜んでいる夕紀に対して、白夜は頭を押さえていた。
「しくった・・・ちと、派手にやり過ぎたな。」
「へっ?なんで?」
「なんでってお主・・・・?!・・・お主、大丈夫なのか?」
夕紀は『肉じゃがだったモノ』を平気そうに口に放り込んでる姿を見て、流石の白夜も心配になってきた。
「あっ!うん!意外と美味しいかも。」
「そんな、馬鹿な・・・。」
そう言って、白夜は『肉じゃがだったモノ』を恐る恐る・・・口の中に入れた瞬間、想像を絶する味に襲われた。
白夜は慌てて、口の中のモノを吐きに走り去っていった。
しばらくして帰ってきた白夜を、夕紀は不思議そうに見ていた。
「お主・・・味覚がおかしいのではないか?」
「えぇ?!そんな事は無いと思うけどなぁ・・・。」
そう言って、美味しそうに食べてる夕紀に白夜は、不安を抱いた。
「これから、ワシがしばらくの間…料理してやるからソレを食え。」
「そう?私は助かるからいいけど・・・。」
白夜はそう言って、『肉じゃがだったモノ』を食卓からさげた。
そして、白夜の心に新たな決意が生まれた。それは、『この娘の味覚を正常に戻す』と言う、決意・・・もとい使命感にかられたのであった。
その背中を見ていた夕紀の後ろで、謎の少女の情報を求める放送が流れていた。