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親友に完璧な彼女ができたので、疑うことにした

作者: 貧血みかん
掲載日:2026/04/06

 魔王討伐の旅も終盤に差し掛かり、僕たちは辺境の宿場町に滞在していた。

 そこで、パーティーリーダーのアルスが一人の女性を連れてきた。


「紹介するよ。彼女はリナ。俺の未来の妻だ」


 その女性を見た瞬間、僕は息を呑んだ。

 艶やかな銀髪と雪のように白い肌、神秘的な瞳。

 見惚れるよりも先に、背中がゾクリと震えた。

 な………なんて綺麗な人だろう!!


 しかも、彼女は美人なだけではなかった。

 家事や雑用など、皆が嫌がることを笑顔で引き受け、誰に対しても分け隔てなく接するのだ。


「カイル様。いつもアルスを支えて下さって、ありがとうございます。あの人って、無理をしすぎるところがありますでしょ?」


 ほんのり頬を染めた顔で礼を言われ、僕は引きつった笑みを浮かべる。

 ちゃんと笑顔で祝わなければならない。

 親友に、これ以上ない伴侶ができたんだ。


 しかし僕の心には、モヤモヤした黒い感情が少しずつ溜まっていった。

 最低だ。親友の幸せを素直に喜べないなんて。

 これはアルスに対するものなのか、それともリナへのものか、誰に向けた感情なのか自分でも分からない。


「カイル様って優しいですね。でも、優しすぎる人って損をするんじゃないかと心配になります…」


 彼女の思わせぶりな言葉に心臓がドキリと跳ねる。


 リナが加わってから、パーティーの空気はガラリと変わった。

 いつも無愛想な重戦士ガウルは、彼女を妹のように可愛がるし、神経質な魔法使いシグルドは、彼女に秘蔵の魔法を披露したりしている。

 そしてアルスは、頼れる男であるのを証明するかのように、今まで以上に必死で奮闘する姿を見せるのだ。



 だけど僕は、知ってしまった。

 青白い月明かりの下、アルスの寝顔を覗き込むリナの顔を。そこには昼間の慈愛など微塵もなくて、まるで品定めをするような冷たい眼差しをしていた。


「……あの子は、何なんだ?」

 どうにも嫌な感じが胸に残る。


 そもそも、魔物がひしめくこの禁域に、丸腰の女が一人でいるはずがない。アルスは「賊から助けた」と言っていたが、その言葉さえ怪しく思えてきた。


 他にも不審な点はある。

 リナが料理をするようになってから、ガウルとシグルドの様子が少しおかしい。

 以前より感情の起伏が激しくなって、僕がリナの素性を探ろうとすると、まるで親の仇のように僕を責めるようになった。


「カイル……お前さ、親友に美人な彼女ができたからって、嫉妬してるのか? 最低だな」


 アルスまでもが落胆した目で僕を見る。

 このパーティは、リナという名の完璧な偶像によって、少しずつ崩れ始めているような気がする。



 そしてある夜、僕は確信を得た。

 リナがこっそり一人で森へ向かう姿を見かけたのだ。

 息を潜めて後を追う。

 そこで彼女が行っていたのは、魔族が使う古の術式。


 リ、リナは……………魔族なのか!?

 しかも、僕たちの生命力を……削っていた?

 強くなった気がしていたのは錯覚で、知らぬ間に寿命を削られていたのかっ!?

 くそっ、なんて笑えない冗談なんだ。



「やっぱお前、最初から怪しかったんだよっ!」


 僕は、剣を抜き彼女の前に躍り出た。

 彼女はゆるりと緩慢な動きでこちらを見る。

 その顔にはもう、無垢で純真な面差しはない。


「あら、気づいちゃった? でも遅いわ。アルスも他のみんなも私の虜。アナタが何を言っても、あの子たちは私を信じる。そして、私を傷つけようとするアナタを許さないでしょうね?」


「ふ、ふざけるなっ!」


 もの凄い速さの攻撃を食らい、体がふらつく。

 まずいな………コイツ、とんでもなく強い。


「親友が全てを手に入れた姿を見るのって、どんな気分だった? ……アナタのその感情、醜い嫉妬心は最っ高のデザートだったわ」

 

 聞くな。惑わされるな。

 小さく息を吐いて、一歩前に踏み込む。

 その時、背後で草木を踏み分ける音がした。


 振り返らなくても分かる。

 この気配は、嫌というほど知っている。


「おい、カイルっ!」


 それは、聞き慣れた親友の声。

 慌てて振り返るとそこには、世界で一番信頼している男が立っていた。


 けれど、その瞳はガラス玉のように冷え切っている。


「リナから離れろっ」


 温度のない短い言葉。

 それだけで、胸の奥にズンっと絶望が落ちる。


 アルスの一歩後ろでガウルが斧を構え、シグルドは淀みのない動作で詠唱を始めた。

 誰も、僕の顔を見ようとしない。


 あぁ、そうか。頭のどこかが妙に冷静になった。

 こいつらはもう戻らないのか。

 それでも、口が勝手に動いた。


「違うんだアルス! こいつは⸻」


「黙れっ! 見苦しいぞ、カイル」


「……お、女一人に骨抜きにされて、仲間を疑うお前らの方が、よっぽど見苦しいだろうがっ!!」 


 叫んだ瞬間、空気が静まり返る。

 もういい。どうせここで終わりだ。

 お前らは僕を殺すんだろう?


 アルスの聖剣が、鈍い光を放った。

 同時に、ガウルの斧が地面を砕き、シグルドの魔法が僕の退路を断つ。


「死ね、カイル。リナの敵は俺たちの敵だっ!」


 親友の剣が、胸を貫こうと突き出される。

 僕は咄嗟に目を閉じた。


 脳裏に浮かんだのは、悔しさと後悔。

 嫌な奴だと思われてもいい。実際、浅ましい嫉妬心を抱いたのだから。誰に嫉妬しているのか分からなくなるくらい、滑稽に心が乱されていた。

 せめてリナに、一矢報いてから死にたかった。

 くそっ! くそっ! アルスの大馬鹿野郎…………!



「作戦成功っ」


「…………へ?」


 聖剣が貫いたのは、僕ではなくリナの方だった。


「がはっ…………な、なぜ……? み、魅了は完璧だったはず………精神汚染も……」


 崩れ落ちるリナを見下ろしながら、アルスは冷徹な顔で剣を引き抜いた。

 ガウルもシグルドも、先ほどまでの狂乱などなかったかのように、冷静にリナを取り囲んでいる。


「悪いな、リナ。君の料理は旨かったよ。毒消し草のスパイスが効いてなけりゃ、もっと最高だったがな」


 アルスがニヤリと笑う。


「カイル、驚かせて悪かった。こいつを完全に油断させるには、お前を本気で騙す必要があったんだよ」


「ど、どういうことだ……?」


 シグルドが溜息をついて説明を始めた。


「こんな都合のいい美人が、魔王軍の最前線に落ちてるわけない。俺たちは最初から、こいつが色欲の魔将だって知ってて騙されたフリをしたんだ」


 ガウルが豪快に笑う。


「カイルは、すぐ顔に出るだろう? だから明かさなかった。 おかげでこいつは完全に『自分はこのパーティを支配している』って思い込んで、無防備に魔力を放出し始めた。そこを叩くのが作戦だったのさ」


 リナの姿をした魔将は、信じられないという表情をして呻いた。


「ま、まさか………勇者パーティーが、仲間を囮に使うなんて……そんな卑劣な作戦を……」


「卑劣? 心外だな」


 アルスが僕の肩に手を置く。


「俺たちはカイルを信じてるからこそ、この作戦を立てたんだ。こいつは、パーティーのバランサー。俺たちがどれだけ狂っても、最後まで救おうと足掻いてくれる。それこそが、魔族を欺く極上の罠になるんだよ」


 魔将はジタバタと地面を這いずり、苦しそうに何かを呟きながら霧のように消えた。

 後に残されたのは、静かな月夜の光と疲れた顔をした仲間たち。


「おいカイル。親友の幸せを祝えるかって悩みは、まだ続いてるか?」

 

 アルスが、憎たらしいほど爽やかな笑顔で問いかけてきたので、僕はズキズキと痛む体を引きずりながら、精一杯の皮肉を返した。


「………次を連れてくる時は、もっと性格の悪い女にしてくれ。その方が、まだ本気で祝ってやれる気がする」


「あははっ! そいつは難題だなっ」


 僕の浅はかな嫉妬なんて、全部見透かされてたってわけか。まったくもう………癪ではあるが、胸のつかえは驚くほど綺麗に消えていた。

 

 ふと顔を上げると、東の空が白み始めている。

 魔王討伐まであと少しだ。

 次は、本物の幸せを掴むあいつを素直に祝ってやろうと僕は心に決めた。


最後までお読みいただきありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
山羊野混乱様のコメントがいつも面白くて・・・ 何か書こうか忘れるんですが・・・ 面白かったです!うん。カイルさん一番単純なんですね。w 『こんな都合のいい美人が、魔王軍の最前線に落ちてるわけない。』…
(囮を使って敵を欺く)努力! (醜悪な嫉妬と共に有る)友情! (虚しい達成感を伴った)勝利! 王道()ですね…!
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