3years Summer Memory~思いでをそえて~
紡がれる思い出。
柳川のご当地アイドルグループちぇんじマイライフZは、柳川市民会館3デイズライブの最終日を迎えていた。
ラストの曲が終わり暗闇の中、ペンライトの光が無数に揺れている。
アンコールの声が鳴り響く中、3人は再びステージへと飛び出した。
環は両手を大きく振りながら、息を吸ってみんなに話しかける。
「みんなー、今日はありがとう!最後の曲は新曲ですSummer Memory~思いでをそえて~」
環、静、は互いに笑顔を見せて頷く。
♪Summer Memory~思いでをそえて~
Summer Memory楽しかった日々
Summer Memory嬉しかった日々
Summer Memory思いでをそえて
今歌うよ
123GOっ!
ギラギラ照りつける太陽が
乙女の心をシゲキする
サンライズ
煌めく世界
ココロオドルよ
買ったばかりの
おニューの水着に着替えたら
レッツゴー
あいつとでかけよう
とびっきりの夏を
いっぱいずっとずっと
輝く時代は一瞬
ダカラ・・・
ギラギラにやきつけるの
砂浜蹴って
波を蹴って
さあいこう
後悔なんてしたくない
今を一生懸命生きるの
Summer Memory楽しかった日々
Summer Memory嬉しかった日々
Summer Memory思いでをそえて
今歌うよ
123GOっ!
観客はいつまでもサイリウムを振り続けた。
・・・・・・。
・・・・・・。
ちぇんじマイライフの控室にて。
「お疲れさんっ!」
汗びっしょりで戻って来た3人に、マネージャの碧はハイタッチをして出迎えた。
「あー疲れた」
と綺羅々はパイプ椅子に座ってぐったりと身体を伸ばす。
「だね」
静はスポーツドリンクを口にして腰に両手をあてた。
「ふう」
環はゆっくりと椅子に腰かけると一息ついた。
「無事3days完走おめでとう!喜べっ!ついにメジャーデビューが決まったぞっ!」
「おおっ」
3人は目を輝かせる。
「つきましては、1stアルバムを制作します」
「おおっ!」
「そこで、ちぇんじまいふいふのアルバムジャケット撮影をします」
「おおおっ!」
「場所はっ!」
「場所は?」
「IN沖縄っ!」
「おおおおおおおっ!」
☆ビバ沖縄っ!
という訳で一行は沖縄へとやって来た。
太陽がまぶしく照りつける夏。
どこまでも続く青い空そして透き通る海、白い砂浜。
ビバ沖縄っ。
倉野碧と明石環はやって来た。
そしてその取り巻きたち、白石静と流星綺羅々・・・ついでに保護者役を買って出た、川田茜と矢留健司の婚約カップルである。
3泊4日の石垣島の旅だが、環たちは仕事が、がっつり入っており、休みは3日目と最終日だけだった。
ほぼびっちりのスケジュールで、石垣のビーチで水着姿のサービスショットを撮られ続ける面々。
柳川のご当地アイドル晴れて全国デビュー、多少の露出は止む無しという、みんなと碧の判断だった。
そんな中、茜と健司はプレ新婚旅行だと抜かしながら、石垣島を満喫している。
宿泊はフサキリゾート・ビレッジというコンドミニアムホテルを拠点にしている。
コテージ風の部屋から、すぐ歩くとプライベートプール、プライベートビーチが広がっている。
初日、二日目と環たち、バカップル(あえていおう)は、食事ぐらいでしか顔を合わさなかった。
バタバタと慌ただしい南国の非日常が過ぎ・・・。
3日目を迎えた。
健司が借りたレンタカーハイエースに皆は乗り込む。
「やっと、この車の出番が来たね」
ずっと車の大きさには見合わない、二人仕様だった助手席に座る茜は言った。
「まあな」
運転する健司は少しおどけた調子で答える。
「すいません、お二人とも、わざわざ車まで出していただいて・・・」
碧は身を乗り出して二人に頭を下げる。
「やめてよ」
「やめてくれ」
「・・・・・・」
健司はアイコンタクトで茜に譲る。
彼女は頷き、
「こっちが勝手についてきただけだから、むしろこんな機会を作ってくれて感謝してるの・・・ねっ」
「ああ」
二人は顔を見合わせて頷いた。
そのシンクロ具合に後ろの席の4人は笑う。
「羨ましいお姉様」
環は碧を押しのけて、さらに身を乗り出す。
「おい」
「ふふふ、羨ましいでしょ。環ちゃんも幸せになるんだよ」
「はいっ!」
そう言う環に、茜、静と綺羅々は一斉に碧を見た。
「な、なに?・・・ナンデスカ」
思わず、どもる碧に一斉に笑う一同。
「じゃあ、今日はお兄さん、お姉さんにまかせときんしゃい。君たちが仕事中、こっちは目一杯遊んどったけん、よかベストスポットを案内するけんね」
「おおお!」
仕事組は歓声をあげる。
石垣島は比較的都会な港近くから離れると、渋滞はほぼない。
ゆらゆらとアスファルトが蜃気楼で揺らめく、海岸線の道路を走らせ、御神崎の灯台までやって来た。
一行は断崖から見えるコバルトブルーの海と、熱気を一掃する吹き抜ける心地よい風を楽しんだ。
田舎道を走り、ランチは海がみえるおしゃれなカフェで、それぞれソーキそば、タコス、スイーツにぜんざい氷、シークワーサージュース等を堪能した。
それから川平湾でグラスボートに乗り、美しいサンゴ礁や熱帯魚を観賞した。
帰りの車の中、環、静、綺羅々が疲れて眠っているのを、隣の席の碧は愛おしそうに見つめていた。
「お疲れ様。碧君」
茜の声に、我に返った彼は、
「今日はありがとうございました。きっと皆、いい思い出になったと思います」
「あら、保護者が板についちゃって」
「彼女たちを巻き込んだのは僕ですから」
「そう」
「はい」
「でも・・・まだまだ楽しむわよ」
「はい?」
「ふふふ、本当は街灯煌めく石垣の夜の町を、れっつエンジョイもいいと思ったんだけど・・・」
「はあ」
「碧君、真面目すぎ。若いんでしょ。エンジョイしなさい」
「茜」
健司が嗜めるように言う。
「ごめん、ごめん」
茜は自分の頭を軽く拳で叩いた。
フサキリゾートに戻ると、もう夕暮れ時だった。
気温も多少下がり、海水浴するにはよい頃合いとなった。
水着へと着替えた女子勢は一斉にビーチへと走りだす。
先頭を駆けだす環は、ちょっぴり背伸びした感のある真っ赤なバンドゥビキニ。
静香は清楚さを感じる白のフリルワンピース。
綺羅々はそのお子ちゃま体型には若干似合わない黒の三角ビキニ。
最年長26歳の茜は、その褐色の肌が良く似合うクロスデザインのマッドグリーンの水着砂浜をまっしぐらに走り海へ。
波間に足をすべらし跳ね上げると、夕日に水飛沫が煌めく。
若い皆は日が沈むまで海を堪能した。
一方、碧と健司の男子はホテルからバーベキューセットを借りて、火を起して調理準備へとかかる。
「お疲れ~」
と、そこに遊び疲れた茜がビール缶を健司の頬にあてた。
「つめたっ」
「ははは」
驚く健司を茜は笑い、
「さささ、女子も手伝うわよ~」
と促す。
「はいっ!」
お腹いっぱい食べ、許可された砂浜で手持ち花火を楽しむ。
最後は打ち上げ花火、ドラゴン、大筒、そして落下傘。
落下傘をゲットすべく砂浜を走る皆。
遊び疲れて、みんなは砂浜でぼんやりと星を眺めたりして佇む。
碧はビール缶を飲みながら、砂浜に胡坐をかいていた。
ぴたりと体操座りで付添うのは環、
「あ~疲れちゃった」
そういう彼女に、
「・・・そうか」
と返す彼、環がふらりと碧の右肩に頭を寄せた。
「うん」
「大丈夫?」
「大丈夫、私、今すごく幸せだもん・・・もう、じゅうぶんだよ」
「そう」
「うん」
碧はビールを一口飲むと、満天の星空を見上げた。
そして・・・。