2years summer~Kirara~
出会う。
消えかかる意識の中で、
「悔しいなあ」
誾千代は床の中で嘆息し、右腕を天井にむける。
(なんて細い腕だ。これが私の手か)
「殿に・・・宗茂にもう一度会いたいなあ」
彼女は呟いて、首を振った。
「いいや、これでいい、これで」
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
〜2years〜
?
誾千代は目を覚ました。
ゆっくりと身体を起す。
「私、生きている?」
右手を見る。
「・・・なんか違う」
隣には用水路が流れている。
その水面に自分の顔を映してみる。
「誰じゃ、こりゃ!」
誾千代はしばらく蹲り、思考を駆け巡らせる。
次第に夕暮れどきとなり、蛍が飛びはじめた。
「難儀じゃ」
誾千代はスカートのポケットに何かが入っているのに気がついた。
「なんじゃ」
それはこの身体の主の持ち物、ペンダントだった。
じっとそれを見た瞬間、彼女の記憶が流れ込んできた。
「なるほどのう」
悟った誾千代は流星綺羅々として、とりあえず生きてみる事にした。
そして7月のある日、綺羅々は祭囃子の音色に誘われて、夏祭りへと迷い込んだ。
(ふむ。なかなか賑やかじゃ・・・この娘の記憶にも残っている今の祭りか・・・)
雑踏の中、彼女は環と碧とすれ違う。
(なんじゃ・・・)
綺羅々は振り返り、人混みにかき消される環の後姿を見る。
(ふむ・・・あの娘)
彼女は踵を返し後を追った。
ふたりは高台へと辿り着くと花火が打ちあがる。
ひゅるるるる~。
ドーン。
打ち上げ花火が空一杯に広がると、一瞬、一面が輝く。
じっと眺めるふたりの、背後に綺羅々はいた。
「ちょっといいですか」
(ちょっといいかの)
誾千代の脳内で浮かぶ昔の言い回しが、綺羅々の言葉に変換される。
「はい」
振り返った環と碧は訝し気に少女を見た。
「ここじゃなんですから・・・ね」
綺羅々はじっとふたりを目で威嚇すると、背を向け歩きだした。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
顔を見合わせ、ふたりは律儀について行く。
「ここでいいかしら」
(このへんじゃな)
ひと気のない所までいくと、少女は振り返り、ひとさし指を環へ突きたてる。
「化け物」
(物の怪め)
「え」
と驚く環に、碧は彼女の前に立ち両手を広げた。
「あなた呪われてますよ」
「構わないっ!」
「アオちゃん」
「私が祓って・・・」
「祓ってなど欲しくない!」
「・・・なにを」
「俺はずっと、ずっと・・・ずっと」
少女は碧の真剣な眼差しを見た。
(ふむ・・・これが盲愛というやつか・・・)
「そうですか。失礼、人違いでした」
綺羅々は深々と頭を下げ、
「あなた方、面白いですね・・・ちょっと興味が湧いたかも・・・では、また」
少女ははくるりと背を向けた。
その翌日、環の働く実家の海苔屋へ綺羅々は赴いた。
「ここで働かせてください」
外の油蝉のなき声がきこえる。
環と綺羅々。