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1years summer~Shizuka~

 邂逅。

 

 夏の真っ盛り、二人の後を静は隠れながら追う。

(確かめなければ)

 風の便りで聞いたこと。

 環が生きている。

 ・・・と。

 幼稚園の時、大切な友だちだった。

 ある日、突然、友だちが消えた。

 お葬式の日、ただただ彼女は震えていた。

 先生や親から「環ちゃんはお星さまになったのよ」と、聞かされた静はずっと泣いた。

 母に言った。

「もう会えないの」

「いつか会えるかもね」

「いつ」

「・・・・・」

 母は静をぎゅっと抱きしめた。


 あれから13年・・・。

 高校を卒業して大学生となり、すぐに、その噂を聞いた。

 実際、彼女の働く海苔屋も覗いてみた。

 間違いない環だと静は確信した。

 だけど、話しかけることができない。

 怖かったのだ。

 そして、夏休みのある日、今日こそと海苔屋へと向かった。

 すると、彼女の脇を笑顔で駆けていく環の姿があった。

 その先には倉野碧がいた。

(碧君)

 静は驚いた。

 幼稚園時代、高校のクラスメイトの碧・・・そっか。

 彼女は思いだした。

 むかしむかしの記憶。

「しーちゃん、たまちゃんね、アオちゃんのおよめさんになるんだ」

「へー」

 その言葉が鮮やかに脳内に蘇ったのだ。

 で、彼女は尾行を続けている。


 ふたりは柳川駅から電車へ乗り、大牟田へと向かう。

 静はなんとなく気づかれないよう、細心の注意を払い尾行を続ける。

 環と碧はバスに乗って、イオンへ到着、その足で映画館へと向かう。

(話題のアニメ・・・ね、私は興味ないけど)

 ふたりの後を追ってチケットを買い続く。

 ・・・2時間後。

(観てよがっだ~)

 とハンカチ片手に号泣する静であった。


 それからフードコートで食事をした2人は、近くの海辺の方へ向かって歩きはじめる。

 静は身を潜め決死の尾行を敢行する。

 夏の潮風は肌にべとりと纏わりつく、しかも8月初旬の盛夏、額は勿論、全身から汗が滲んでくる。

 二人の後姿を見ながら離れて歩く。

(しかし・・・)

 静は思った。

 海沿いの道は、遮るものがなく身を隠す場所がない。

「どうしよ」

 思わず、そう呟いた瞬間、二人が振り返り、じっと彼女を見ていた。

「しまった!」

 驚き口にする静。

「・・・しずちゃん?」

「白石?」

 環と碧は言った。

「ご、ごめんなさいっ!」

 静の顔は真っ赤になり、気づかれた恥ずかしさと申し訳なさで、90度振り返り、ダッシュでその場を去ろうとした。


 環は大きく息を吸って、

「待って!しずちゃん!」

 彼女の名前を叫んだ。

「・・・たまちゃん」

 その声に、静の脳裏は鮮やかに幼稚園の日々が蘇った。

 彼女は立ち止まって、人目もはばからず号泣してしまった。

「うわーん!」

(生きていた・・・生きていた!たまちゃんがっ!)

 環は駆け出し、静を抱きしめると優しく頭を撫でた。

「ずっどあいだがっだよう」

「私もずっと」

 蝉時雨が響く、暑い夏の出来事だった。



 環と静。

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