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6話

  ゾラがテイラーとお見合いした日から、一週間が過ぎた。


 靴ずれもかなり、良くなっている。毎日、メイド達が消毒や包帯の取り替えを率先してやってくれたおかげだ。また、医師が処方した痛み止めや化膿止めなどのお薬もきちんと飲んでいた。それにより、出血までしていた傷口は塞がっている。


「ゾラ様、綺麗に治ってきていますね」


「うん、本当に皆や先生、システィーナ達には感謝しかないわ」


「褒めて頂けますと、やる気が出ます。靴ずれをきちんと治しましょうね!」


 メイドの一人であるスリジエがゾラに笑いかけた。スリジエはこちらに来てから、特に親しくなったメイドだ。明るく朗らかでシスティーナと性格が似ている。ゾラにも、積極的に話し掛けてくれていた。


「そうね、きちんと治すのは大事だわ」


「はい、私も不肖ながら頑張ります」


 スリジエは意気込んで言う。ゾラも頷く。二人して、笑い合った。


 さらに、三日が経った。この日は珍しくもテイラーが来ている。彼はかなり、多忙らしくてお見合い当日以降はなかなか会えないでいた。


「やあ、久しぶりですね。ゾラ嬢」


「はい、お久しぶりです。テイラー様」


 テイラーはにこやかに笑いながら、エントランスにて挨拶した。ゾラも微笑みを浮かべながら、返答する。二人の穏やかな雰囲気にシスティーナも上機嫌らしい。一緒にいたオスカーも嬉しそうだ。


「ねえ、ゾラにお見合いを勧めて良かったわね」


「ああ、テイラーならゾラ嬢とも上手くいくとは思っていたよ」


「ふうん、私には何も言わなかったじゃない」


「心外だな、そんな事はないよ」


「……本当かしら」


 システィーナはじろりとオスカーを睨んだ。オスカーは苦笑いしながら、まあまあと宥める。


「ティナ、落ち着けよ。ゾラ嬢の前だぞ」


「ふん、分かっているわよ」


 システィーナがそっぽを向く。オスカーは仕方ないなと笑いながら、彼女の肩に腕を回す。


「……ティナ、じゃあさ。ゾラ嬢の事はテイラーに任せて。二人でどこかに行こうよ」


「分かったわ、ちょっとゾラにも伝えてくるから」


 システィーナは頷くと、オスカーの腕を振り解く。そのまま、ゾラ達の方へ行ってしまった。オスカーはやれやれと肩を竦める。やはり、システィーナの優先順位はいつでもブレない。


「ゾラ、私はこれからオスカーと一緒に部屋へ行くから。あんたは客室に戻ったらいいわ」


「え、いいのかしら」


「……ゾラ、ちゃんと捕まえときなさいよ」


「システィ?」


「じゃあ、もう行くわね」


 システィーナは一方的に話を切り上げた。ゾラは頭の中が疑問符だらけになる。が、テイラーは意味が分かったらしい。顔を薄っすらと赤らめていた。


「……ゾラ嬢、私達も行きましょうか」


「はい」


 まだ、会って間がないのにな。小さな声で彼は呟いたが、ゾラには聞こえなかった。二人も客室に向かったのだった。


 スリジエがやって来て、お茶やお菓子を用意してくれた。ゾラが好きなチュイルやクランベリーのタルトもある。反対に、テイラーはお茶をストレートで飲んでいた。


「……あの、テイラー様。甘い物は好きではないのですか?」


「はあ、あまり普段は食べませんね」


「成程、なら。わたくしが食べますね」


 ゾラが言うと、テイラーは曖昧に笑う。


「ええ」


「では、頂きますね」


 ゾラはフォークを手に取り、クランベリーのタルトに刺した。一口大に切り分けて、口に運ぶ。クランベリーの甘酸っぱさやタルトの生地部分のサクサク感、甘さが絶妙にマッチングしていて絶品の味だ。さすがに公爵家専属のパティシエが作っただけはある。チュイルもサクサクしてるし、甘さも程よい。他のお菓子もあまりに美味しくて、ゾラはゆっくりと堪能していた。お茶も後味スッキリで丁度良い。


「……本当に甘い物が好きなんですね」


「はい?」


「いや、失礼。あまりに幸せそうな顔をしているから、ついですね」


「はあ、さすがに公爵家のパティシエだと思いながら、いただいていました」


「そうですか」


 ゾラが素直に答えると、テイラーは吹き出す。しまいにはお腹を抱えて、笑い出した。


「……ははっ、ゾラ嬢は正直だな」


「いえ、テイラー様をそっちのけにしてすみません」


「謝罪はいいですよ、好きなだけ食べてください」


 テイラーは柔らかな笑みを浮かべた。それにゾラはつい、見惚れてしまう。


「どうかしましたか?」


「い、いえ。何でもありません!」


 ゾラは慌てながら、答える。お茶を再び、口に含んだのだった。

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