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1話

  今は真冬の二月で、夜風が強く吹き付けていた。


 窓がカタカタと鳴る中、ゾラは一人で寝室にてまどろんでいる。彼女は侯爵家の次女で、姉が一人と弟が一人の三人姉弟だ。そして、ゾラにも婚約者がいる。

 名前をダレン・ソリティアと言って公爵家の嫡男だ。彼女も本名はゾラ・リーランドという。年齢は二十歳になる。ダレンは三歳上で二十三だ。

 ゾラはなんとはなしに、寝返りを打つ。が、上手くできない。しかも、真冬なはずなのに妙に布団の中が温かい。手で探ると、何か固くて弾力がある物に触れた。途端に、眠気が一気に覚める。


「……?!」


 ガバリと起き上がった。窓からは、夜風により流れていった雲の切れ間から、月が覗く。その明かりにより、ゾラはやっと辺りがはっきりと見えた。

 そこには、艷やかな白金の髪に白い陶器のような肌の超がつく美男子が横たわっている。美男子は瞼を閉じてはいるが、損なわれない程の美貌だ。


「……な、ダレン様?」


 ゾラは驚きながらも、美男子もとい、婚約者の名を呟いた。さすがに、彼はゾラの声が聞こえたのか。ゆっくりと瞼を開く。


「……あれ、ゾラじゃないか。私は何故、ここに?」


「そんなの、わたくしが訊きたいわ。ダレン様、どういうつもりですの?」


「ふん、本当に可愛げがない。お前ではなく、セリアの所に行くはずだったのに」


 ゾラは眉をピクリと逆立てた。一気に、怒りの形相になる。


「なら、とっととわたくしの部屋から出て行ってくださいな!あなたの顔を見るだけで、虫唾が走るわ!!」


「……お前の気の強い所が私は心底、嫌だな。金切り声で怒鳴らいでくれないか」


「あなたが浮気さえしなければ、怒鳴りません。ああ、早く婚約破棄をしたいわ。わたくし、もう限界ですから」


「ほう、婚約破棄ね。なかなかに面白い事を言うな」


「……ダレン様?」


 ダレンは無表情になる。ジッとゾラを見つめた。彼は起き上がり、彼女の手首を掴んだ。


「痛っ!」


「……ゾラ、生意気な事を。私は婚約破棄をするつもりはないぞ」


 ギリと締め上げられて、ゾラは顔をしかめる。ところが、ダレンの手首を掴む力が緩んだ。すると、ドアを乱暴に叩く音が響く。


「……様、お嬢様!!」


「あ、シュリなの?!」


「はい、何やら言い合う声がこちらから聞こえてきましたので!」


 叩きながら、答えたのはメイドのシュリだ。ゾラは少しだけ、安堵する。けど、ダレンは手首を離す気配はない。どうしたものかと困り果ててしまう。


「お嬢様、私の他に坊ちゃまもいらしています」


「まさか、ツェルトまで来ているの?!」


「はい、お嬢様が心配だと仰って」


 シュリが答えたと同時に、バンッと寝室のドアが蹴破られた。そして、ゾラと同じ赤毛に淡い翡翠の瞳が美しい一人の青年が中に入り込んでくる。


「な、いきなり、何だ。不躾ではないか!?」


「不躾なのはそちらだ、ダレン・リーランド卿」


 ダレンは掴んでいた手首をやっと離した。ゾラはズキズキと痛む左の手首を擦る。すぐに、青年がシュリと共にベッドまでやって来た。


「……大丈夫ですか?」


「うう、怖かったわ」


「ツェルト坊ちゃまがいらしたから、もう大丈夫ですよ」


 青年もとい、弟のツェルトはシュリに目配せをした。気づいた彼女はゾラの肩を抱いて、ベッドから降りるように促す。


「さ、ベッドから一旦降りましょう」


「ええ」


 二人がベッドから降りると、ツェルトはふてくされていたらしいダレンの右腕を掴む。おもむろにギリと捻り上げた。あまりの痛さに眉をしかめる。


「……くっ!」


「ダレン卿、姉の寝室にて何をしていた?」


「き、貴様には関係ない、ただあの生意気な女を躾けようとしたまでだ!」


 ダレンの言葉を聞いたツェルトの右腕を捻り上げる力がより、強まった。先程のものとは比べ物にならない。


「生意気ねえ、まあ。シュリに見張り番を頼んで正解だったな」


「なっ?!」


「いちいち、煩い」


 ツェルトはどこからか取り出したロープをダレンの右腕に括り付けた。器用に素早く左腕も掴み、拘束してしまう。猿ぐつわも噛まされる。最後に両足も拘束され、完全に身動きができなくなった。


「……いいか、もしまた今度に同じ事をやったら、命はないと思え。俺は昔から、あんたが嫌いだったんでな」


「……!」


「シュリ、姉上を頼む。しばらく、付いてやってくれ。俺はコイツを始末してくる」


「分かりました、お任せください」


「じゃあ、騒がしくして悪かったな、姉上。お休み」


「え、ええ。お休みなさい、ツェルト」


 ゾラが言うと、ツェルトは肩に拘束したダレンを担ぎ上げる。そのまま、寝室を出ていく。見送るゾラとシュリだった。



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