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フルコト!  作者: 﨑山翔
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第八十二話 歪み

「ふぃ~~~。暑い~、疲れた~、お疲れ様~~~」


家のまわりの掃除があらかた終わり、シナツヒコがソファーにダイブした。


もう9月も後半だ。

それなのに真夏日といわれる日々が続いている。


四季はなくなってしまったのだろうか。


「シナくん、お疲れ様。今、冷たい麦茶いれるね」


翔はクーラーのスイッチを押す。


熱中症のリスクがあるため、どうしてもエアコンは必須アイテムだ。


ゴォォォ…と、クーラーの稼働音がして、気持ちのよい冷風が届けられる。


そして室外機からは熱風が出ている事だろう。



ふと頭に過る、地球温暖化---。




「……でも、ぼくに出来る事って…、何にもないんだよね………」


「ん?カケルくん、何か言った?」


「わっ!?」


いつの間にか隣にいたシナツヒコが、翔の顔を覗き込んでいた。



「ビ、ビックリした~……。…ううん、何でもない」


「ねぇ、ねぇ、、お昼、何食べるー?」


冷蔵庫をガサゴソ漁る。


勝手知ったる他人の家……の如く、シナツヒコは食料が備蓄されている場所をことごとく探していた。


「うーん……。どうしようか?昨日、お父さんも買い物して帰って来られなかったから…。何にもないかもしれないね」



暴風雨からの雹騒ぎ。


一時はどうなる事かと思ったが、そこまでひどい事態にならずに済んで良かった。



「シナくんとホノくんのおかげだよね」


「あはは。

……いや、うーん……。でも、一番の活躍はカグだけどね~」


「カグくんかぁ。あんなに小さいのに凄いねぇ」


「……多分。カグはもっと強い力を持ってるよ」


「え?カグくん?」


「うん。スサノオ様が一瞬、面食らっていたからね。……ね、信じられる?あのスサノオ様が、だよ?」




シナツヒコが驚くのも無理はない。


カグツチがホノイカヅチの中から飛び出したあと。

厄災の原因の一部を取り除いて。


スサノオが待っていた場所まで戻った。


カグツチも一緒に。



そして、スサノオはカグツチを見た瞬間、本能的に臨戦態勢になった。


シナツヒコとホノイカヅチは慌ててカグツチの事を説明する。


すると、スサノオはその場では納得をした……のだが、口数少なめにその場を去ってしまった。


明らかに、スサノオの目には畏怖の念が滲んでいた。


スサノオこそ、畏れ敬われる荒神なのに。





「だけどさ、カグからはそんな怖い波動は出ていないしさ。

子供である事は間違いないし」


「そうだね。ぼくも、カグくんの波動は優しい感じはするよ」


火の神にふさわしく気高い波動だ。

そして子供の無邪気さも併せ持っていた。


尚更、スサノオの態度が気になる。




「何か、さ…、ちょこちょこと色々な事が起こってるよね…」


翔は溜め息をついた。


邪神の件。

ヤマタノオロチの件。

マガツヒノカミの件。

ヨモツシコメの件。


しかもそれらが、何故起きたのか、誰の仕業なのか、まったくわからないから困ったものである。



「だよね~~。

まあ今のところわかっているのは、ヤマタノオロチとマガツヒノカミの件は、同一のダレカの仕業ではないよって事だね」


つまり、二つのナニカが同時に走っているという事だ。


まだナニモノかはわからない。




「あ、そうだ、カケルくん。ところでさ、今、ヒルちゃん寝てるの?」


「うん。前よりは起きてる頻度は増えたけど…、やっぱり寝てる方が多いかな…」



今のヒルコは弱っている。

それは否めない。


シナツヒコやホノイカヅチは、途方もない時間を葦の船で流され続けたからだという考えだ。


しかし、ツクヨミは分裂したのではないかと言っていた。


それも気になるところだが、今の時点では何もわからないのが現状だ。




「あ~、も~、本っ当にさ~、何もかも中途半端だよね~!」


若干呆れたように言い放つと、シナツヒコは大きく背伸びをした。


「う、うん……」


翔も夏休み以降、学校を休んでいる。

まだ何も答えが出ていない。


宙ぶらりんのままだ。


「本当………、中途半端……だ」




ゴォォォ……と、クーラーの音とともに、涼しい風が吹く。

少々重たい空気とともに。





「あっ!」


急にシナツヒコは閃いた。


「いいこと思い付いた!ね~、カケルくん。お昼さ、近くのファミレスに行かない?」


「え、ファミレス?」


「うん。ちょうどランチタイムでしょ!行こうよ!」


「うん、そうだね。…あ、営業してるかな?」


「じゃあ、ネットで調べてみるよ。

ヒルちゃんも連れて行こ」


「あ、いいね!もうすぐ起きると思うし!」



明るい空気を取り戻し、出掛ける準備を始める。


わからない事は考えてもわからない。

いずれ糸口が見つかるだろう。


学校の事も---。


ある日突然、何かのきっかけで解決出来るかもしれない。


とりあえず、くよくよしていてもしょうがない。



翔とシナツヒコは、まだ眠るヒルコをリュックに入れて家の近くのファミレスに向かった。




◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎



「いらっしゃいませー」


ファミレスに入る。

店員さんの元気な挨拶と、ひんやりとした冷気に迎えられる。


氷入りのお水にはレモンが入っていた。


「わわ!レモンだ……」


翔がこのファミレスに最後に行ったのは、随分小さな頃だった。

とんとシャレオツなファミレスになったものだ。



「カケルくんは何食べる~?」


メニュー表とにらめっこする。


「うーん…。やっぱり…日替わり定食かなぁ…」


「あ、やっぱり?ぼくもそれにしようかなって。ミニパフェもついてるしねっ」


「あ、ねぇ、ヒルちゃんは何食べるかな?」


「そうだね~」


リュックの中で眠るヒルコに目を移す。

『スピー』

気持ちよく眠っている。



「基本、ヒルちゃんは何でも食べられるからね~」


ヒルコは食べ物を瞬時にスムージー状に変えて、胃ろうのように直接胃に注入して食べるのだ。



「じゃあ、一緒にする?日替わり定食」


「そだね~」




呼び出しボタンを押し、店員さんに注文をした。




シナツヒコはレモン入りの水を一口飲む。


「は~。おいしー」


「ね~。前はレモン入ってなかったよー」


「何かさ、レモン入ってるだけで特別な感じしない?」


「そうそう。

だけどさ、家でやってもそんな感じはしないんだよね。あれって不思議だよね」


「あっははは。外食だからか」


「そうかもしれないね」



翔もレモン水を一口飲む。

さっぱりしていて美味しい。






「ミントを浮かべてもいいんじゃない?もっとオシャレだよね?」


背後からアイディアを戴く。



「あ!確かに!ますます爽やかになりそう…………っ

て、あれ!?」


「久しぶり~!カケルくん。ついでにシナツヒコも」


振り向くと、サヨリヒメがヒラヒラと手を振って立っていた。


「サ、サヨリヒメさん!」


「サヨリ、でいいよ、カケルくん」


「サヨリさん…」


「うん。元気そうで良かった」



サヨリヒメは翔の真正面に座ると、頬杖をついてニコニコとしている。


シナツヒコは面白くなさそうに軽く睨む。


「あのさ、ついでにって何?」


「はぁ~。やっぱりカケルくんの魂は本当にキレイね~♡」


「ちょっと、ついでにって何?」


「言葉では表せないよね~。カケルくんの魂のキレイさは♡」


シナツヒコをガン無視して、翔(の魂がある場所)を見てうっとりしていた。



「………変態」


「は?何か言った?」


「別に何も~」



今のやりとりで、何となく二柱の関係性がわかったような気がする翔だった。




「私も何か食べていい?」


「あ、うん。どうぞ」


メニュー表を渡してハッと気付く。


サヨリヒメの姿は…。



「大丈夫。カケルくん以外の人間にも、ちゃーんと見えるようにしてあるから」


「あっ、そうなんだね……」


そう言われると。


サヨリヒメは現代の日本で売られている服を着用していた。


ブルーの可愛らしいワンピース。

とてもよく似合っている。



「カケルくんとシナツヒコは何を注文したの?」


「ぼく達は日替わり定食。あっ、ヒルちゃんも同じだよ」


リュックの中で眠るヒルコを見せた。


「あらっ!ヒルちゃんもいたんだ~♡」


ヒルコの頬をプニプニつつく。




「早く決めたら?」


シナツヒコは冷ややかに突っ込む。


「うるさいな。わかってるわよ。

カケルくーん。私も日替わり定食にする」


「わかったー」




呼び出しボタンを押す。


サヨリヒメの分を注文すると、店員さんはレモンの水も持ってきてくれた。


「いただきまーす」




「それにしても…。

急にどうしたの?サヨリ」


レモン水を飲むサヨリヒメを横目に、シナツヒコがぶっきらぼうに質問する。



「……ん?

ああ、昨日の騒ぎでシナツヒコとホノイカヅチが活躍したって聞いたから。少し遅い陣中見舞いよ」


「スサノオ様に聞いたの?」


「うん」


「ふぅん…。

…じゃあさ、カグツチの事は聞いた?」


「カグツチ?……ああ…、火の神っていう?」


「そう」


「聞いたけど。何かその火の神がトドメをさしたとか、なんたらかんたらって聞いたわ」


「なんたらかんたらって…。何?結構適当?」


「それがどうしたのよ?」


「うーん?いや?別に~」



とりとめのない会話に、シナツヒコの微妙な心情が含まれていた。


やはりスサノオの、カグツチを見た時の反応が気にかかっているのだろう。



「カケルくんも無事で良かったわ」


「うん。ありがとう。あ、でも、うちの車はちょっとダメージあったけど……」




そういえば…、その頃サヨリヒメは何をしていたのだろう。



「あの、サヨリさんは大丈夫だった?」


「私?うん。私は海を見ていたの。葦原の中つ国の海。オキツシマお姉様と、タギツと手分けしてね」


サヨリヒメは宗像三女神(むなかたさんじょしん)

三姉妹の真ん中だ。


姉にオキツシマヒメ。

妹にタギツヒメ。


とても美しい三姉妹だ。



「そうだったんだ。やっぱり…、海も荒れてたよね?」


「そうだね…。最近はヤマタノオロチとか邪神とか?まったく……。本当に色々あるわよね…」


話しながら苛ついてきたのか、サヨリヒメの顔がだんだん険しくなる。


「まだ原因とか、誰の仕業とか、わからないんだよね?」


「うん…。そうみたい。…さっきも、シナくんと話してたけど…」




神々も落ち着かないだろう。


どんな事象であっても、起こってしまったらもう仕方がない。

対処するまでだ。


ただ、何故そうなったかがわからないと不安である。


“その時不思議な事が起こったー。”……だけで片付かない場合もある。

(多々ある)



「あとね。一つ、気になる事があるの」


「気になる事?」


サヨリヒメは神妙な面持ちへと変わる。


「自然界がね、高まってるの。とても」


「高まってる……?」




シナツヒコは勢いよく顔をあげ、息を呑んだ。

とても真剣な表情だ。



「まさか……」


「シナくん?どうしたの?」



「精神的圧力が高まってるの。自然界に」


「精神的圧力?」



自然界に精神的圧力が高まっている、とは。

どういう事だろう。


「シナくん?どんな意味なの?」


「ひずみ…。つまりストレス…だよ。カケルくん」


「ストレス?」



自然界にストレスがたまるとどうなるか。


そう、爆発するのだ。




「あ……っ!」


「私は…。海の様子しかわからないけど。ここ最近精神的圧力が凄いの。まあ……、ずっとずっと我慢してきたからね」


「海が…?我慢してきたって…?」


「海のゴミが増えて、汚染されて、海面水温があがって……。もう限界が近いかもしれないわ」


「そ、そんな…」


「サクヤにも聞いてみるといいわ」


「え?サクヤヒメさんに?」


「うん。サクヤは山に詳しいからね。

きっと、山も同じだと思うよ」


「山が…」


「山も…嘆いてると思うわ」



自然界のストレスが頂点に達して、それが爆発してしまったら。


神でも防ぐ事は難しい。


何故なら。

「海も、山も、神様だから………だよね」








フワリといい匂いが漂ってきた。


「お待たせ致しましたー」


テーブルに、日替わり定食が四つ並べられた。





















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