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フルコト!  作者: 﨑山翔
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第八十一話 恵比寿

次の日の朝---。


台風も消え去り、大雨もやんでいた。

チュンチュンと、スズメの声が聞こえる。




しかし、日本各地にまだ混乱が残っていた。


雹は溶けてなくなったのだが、葦原の中つ国は物質世界。


めちゃめちゃ硬い雹が落ちてくれば、否応なしに色々なものが壊される。



翔の家のカーポートを突き抜けた雹が、自動車をぼこぼこに凹ませたり…。


父も同じように凹んでいた。


「保険……、おりるのだろうか………」


そもそもカーポート自体がやわかった。


あまり得意ではない父のDIYで作られたカーポート。


見た目以上に耐性もショボかった。


多少高くとも、プロに作ってもらえば良かった。


心底後悔している父がいた。



嘆く父は、凹みのある車で桜を支援学校に送りつつ出勤した。


翔にはうまい言葉が出てこなかった。





どんな事も、その道のプロにお願いする。

これに尽きるかもしれない。



慣れない事や苦手な事を無理にやるよりも、得意な人や専門家の人にお任せするのがいいだろう。


そこに金銭が発生するのは当たり前だ。


ひいては自分の時間確保のための、相応の対価である。




(うん、そうだよね…………)



翔は穴の空いたカーポートをぼんやり眺めながら考える。


苦手な事を一生懸命やるより、得意な事や好きな事を伸ばしたい。



(ぼくは………)


まずは、得意な事や好きな事を見つける作業からしなければならない。


それが一番厄介で、難しい。


(ぼくは…、何が好きなんだろう………)



穴の空いたカーポートの穴から、何かヒントが出てこないだろうか?






「カケル。ちょっと行ってくるな」


背後からホノイカヅチの声がした。


「あっ。うん。気をつけてね」



今朝、ホノイカヅチの腕が以前の三倍くらい膨らんでしまった。


やはり赤チンでは治らなかった…。

人間用だし。


それでもナオビノカミの所へ行こうとしないホノイカヅチを、何とか全員でなだめすかした。



「すぐ戻ってくる。

…今日は図書館は行かないんだろ?」


「うん。ホームページを見たら、やっぱり臨時休館になってたよ」


「まあ…。そうだよな。

…そうなると、会社と学校は平常通りって凄いよな」


「うーん。まあ、その会社と学校によると思うけどね」




翔の学校も休校にはなっていなかった。


クラスメイト達は大丈夫だったのだろうか。

卓巳は…。





「………………………」


「カケル?」


「あ、ごめん。ボーッとしちゃった」


「疲れてるのか?………昨日話してくれた、パラレルワールドの件とか…」


「うん…………」





昨夜。

カグツチの紹介が終わったところで、翔はパラレルワールドでの出来事を話した。



エビスと名乗る神に出会ったこと。


パラレルワールドの仕組み。


パラレルワールドで、立って歩いたこと。



ホノイカヅチとシナツヒコは驚き、カグツチはキョトンとしていた。



「パラレルワールドって、アレだろ…。アマテラス様とツクヨミ様とスサノオ様が、別次元に創ったっていう…?」 


「僕もまだ行った事はないけど…。でも、何でそのトリセツをエビスって神が知っていたのかな?

創ったツクヨミ様でも、実は詳しくわかってなかったんでしょ?」



「うん……。そのエビスさんが言うには…。

アマテラス様とツクヨミ様とスサノオ様は創っただけだからって言ってたよ。

……あ、でも、アマテラス様とスサノオ様は何か知ってるかもしれないよね?」


もしかしたら三貴神のうちの一柱が、設計図なるものを所持しているのかもしれない。



「いや………。ツクヨミ様が知らなかったなら、もう誰も知らないんじゃないか?」


「だね…。スサノオ様は絶対有り得ないし。

アマテラス様についても、細かい事をいちいち把握してるとは思えないよね…」


「えー?そうかなぁ。アマテラス様は最高責任者的な存在でしょ?何か知ってるんじゃないかな?」


スサノオが有り得ない…というのは(失礼を承知して)激しく同意だが、

アマテラスは何かしら知っているのではなかろうか。



「いや………。アマテラス様も………。とりあえず的な感じでパラレルワールドを創っただけ、の可能性もあるぞ」


「大いにあるよね。だって、どう考えてもアマテラス様は絶対にパラレルワールドには行かないからね。行かない場所の事を知る必要はないからね」


「な、なるほど……」


意外と無責任だな…と思ってしまう。



しかし…。


「でもね、ぼくにとっては最高な場所だったよ。

頭でイメージした事がね、想像した事が出来るようになるんだよ!ぼく、歩いたり、走ったり出来たんだよ!」



翔はパラレルワールドで立って歩いた。

走った。

今でも覚えている。


「ホノくんとシナくんにも見てもらいたいなぁ。

また行けるかなぁ」


「行きたい行きたい!僕もカケルくんが歩いて走るところ、見てみたいな」


「俺も」




「ボッ、ボクも行く!カケ兄と一緒に歩く!」


今まで黙って聞いていたカグツチも、乗り遅れまいとハイハイハイっと手を上げて参加した。


「あはは。ありがとう。うん。カグくんも一緒に行こうね」



「それで?そのパラレルワールドって、どうやって行くの?カケ兄」


「………………え?」





シーンと静まる。


確かに。

順路はどうだったか。


「え…、えっとね?え~っと…………ね?」



翔はハイスピードで来し方を振り返る。


昨日はエビスに呼ばれて、目が覚めたらパラレルワールドにいた。



その前はツクヨミと一緒にパラレルワールドに移行した。




「あ!そうだ。パラレルワールドに移行する条件としては……」



葦原の中つ国に危害を加えようとするものは、強制的にパラレルワールドに移行させる……だった。




「え。じゃあ、葦原の中つ国に危害を加えればいいって事?」


「それは……。ダメだろ」



無害な方法を知りたい。



「あ、それなら今度、ツクヨミ様かスサノオ様に聞いてみるよ!」


「え………。知ってるか……?」


「行き方くらいなら知ってるでしょ。最初にカケルくんを連れて行ったのはツクヨミ様だしさ」


「ああ、うん、まあ、そうか」




(うーん…。遊びに行く感じで行けたらいいのになぁ……)


残念そうに溜め息をつく翔の服の裾を、カグツチがクイクイっと引っ張る。


「ん?カグくん、なあに?」


「ところでカケ兄。さっき言ってた、エビス…って神は何の神だったの?」


「あ、うん、エビスさん…?エビスさんはね……。………って、………あれ?」


「聞かなかったの?」


「あ………。ははは。そういえば、聞いてないや……」


言われてみたらそうだった。

一体、何の神だったのか。



「ねぇねぇ、シナくんとホノくんは知ってる?」


「う~~?う~~~~~ん……。エビス、だよねぇ?う~~~~~ん……」


「……俺も思い当たらないな」



「そうなんだ…。シナくんとホノくんにも知らない神様っているんだね?」


「もちろんいるよー。めちゃめちゃいるよ?」


「え?めちゃめちゃ?いるの?」


「日本は八百万の神がいるからな。会った事も、見た事もない神はたくさんいるぞ」


「えええ~~。そうなんだ……」


「人間と同じだよ。カケルくんだって、日本中の人間を知らないでしょ?」


「う、うん」


「ね。おんなじ」


そういうものなのだろうか。

何だか不思議な感じだ。




「ああ~。じゃあ、もしかするとエビスって神は国津神(くにつかみ)かもね?」


シナツヒコは閃いたようにポムっと膝を打った。


「く…くに、つかみ?」


「そ。葦原の中つ国に現れた神のことだよ。高天原で生まれた神は天津神(あまつかみ)って言うんだけど」


「へ~。そうなんだね!」


「でも、まあね。天津神だろうが、国津神だろうが、会った事がない神はた~くさんいるんだけどね。

…ただ、何となく…」


「シナくんの勘ってヤツだね」


「そうそう。僕の勘」




「根拠ないのかよ」


ホノイカヅチが脇から口をはさんだ。


すると、シナツヒコは胸を張って答える。


「僕の勘は結構当たるからね!」


「ウソこけ」


「む!!だったらホノはどう思うのさ?」




「…………俺は…。………何か、同じ名前だなって思ってさ」


「同じ名前?」

「同じ名前?」


翔とシナツヒコはハモった。



「ホノ兄、誰と同じなの?」



「いや、ほら、いつ頃からだったか………?

葦原の中つ国にいるだろ」


「何が?」

「何が?」


またハモった。



「何がいるの?ホノ兄」



「七福神、の中に、ほら、同じ名前の……」



「あっ!!恵比寿様!?」




宝船に乗った七福神。


日本、インド、中国の神様だ。


インド出身の、大黒天・毘沙門天・弁財天。

中国出身の、福禄寿・寿老人・布袋。


そして日本出身の恵比寿だ。


恵比寿は豊漁の神。

生業を守り、福をもたらす。




「え~~?

カケルくんが会った神は、七福神の恵比寿なの?」


「あ、え、う、う~ん。でも………」



七福神の恵比寿のデフォは…。


少し小太りなおじさん風の神様が烏帽子をかぶり、右手に釣竿、左脇に鯛を抱えている。



翔と出会ったエビスは、スラッとしている美青年。



イメージがかけはなれていた。


シンクロ率が低い。

二桁を切ると起動が出来ないらしいし…。



「ちょっと……。何か、違う、かなぁ……」


(エビスさんと七福神の恵比寿様。優しい笑顔は共通しているけど…)





「あっ!そうだ!ホノ兄!!」



カグツチが思い出したように叫んだ。


「早く腕を治してもらわないとだよ!」


「あっ。そうだった…」



パンパンに腫れた腕。

ナオビノカミのもとへ行かなければ。




「ホノ兄、ボクも一緒に行く」


「……じゃ、行ってくる」



「うん!気をつけてね!ホノくん、カグくん」



ホノイカヅチとカグツチは高天原へと行った。



二柱が消えたあと、宝石のような粒子が空気中に漂う。


手を伸ばしても、すぐに消えてしまうのだ。


とても儚くて…とても綺麗だ。





「よし。ぼく、色々片付けしてくるね」


昨夜の雹と大雨で、家のまわりの至るところに木の枝やゴミや泥が散乱していた。


「あっ。手伝うよ~~」





午前中、翔とシナツヒコは掃除に勤しんだ。




























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